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運用会社のスタンスは二極化

J-MONEY2017年冬号 注目記事

特集2▶機関投資家運用の新潮流

スペシャル座談会 金融工学の発展で広がる選択肢
運用会社のスタンスは二極化

終わりの見えない低金利環境が続いている。マイナス金利政策という逆風が吹き荒れるなか、機関投資家はどのような運用戦略を模索しているのか。運用のプロフェッショナルたちの議論と見通しからヒントを探る。(工藤晋也)

信頼が崩れたマーケット・ポートフォリオ

──2016年はどんな1年だったか。
田口
 2月の日銀のマイナス金利政策導入や6月のBrexit(英国のEU離脱)、11月の米国大統領選挙など、波乱に富んだ1年だった。しかし、当基金では市場は予測外に動くことを前提にし、下落局面でも大きな損失を出さないよう安定した運用スタンスを維持している。

吉田 2016年は本当にいろいろなサプライズが起きた。とくに運用関係者に大きなインパクトを与えたのは、マイナス金利政策だろう。NOMURABPI総合指数の利回りが一時マイナスに沈んだことで、国内債券のパッシブ運用を見直す動きが加速した。

 年金基金などと比べて短期運用の銀行は、すでにマイナス利回りの日本国債に代わる投資対象に資金を振り向けつつある。長期運用の年金基金や生命保険会社も、国内債券の代替投資先としてPE(プライベート・エクイティ)などのオルタナティブ資産に関心を寄せている。

鈴木 2016年は2つの変化があった。1つは、マーケット・ポートフォリオの信頼が失われたこと。これまではマーケットにあるすべての銘柄を、その時価構成比率に合わせて保有することが最も効率的な手法と言われてきたが、マイナス金利政策で債券にはその手法が当てはまらなくなった。株式では、現時点で債券ほど顕在化はしていないが、マーケット・ポートフォリオの効率性に疑問を持つ投資家も増えている。

 もう1つは、ESG(環境・社会・ガバナンス)やSRI(社会的責任投資)といった手法に日本の機関投資家が興味を示すようになったこと。マーケット・ポートフォリオへの疑念が、ESGやSRIなどに目を向ける要因となった。

超低金利時代に一段と重要視される分散投資

田口 相関性の高まりなど運用環境が複雑化したことで、伝統4資産を組み合わせるだけの運用では、効果的なリスク分散が図れなくなってきている。過去にとらわれず、さまざまな資産への分散投資がより重要だ。

 もう1つは資産ベースだけではなく、リスクベースでポートフォリオを考えること。年金基金は政策アセットミックスに基づいて運用を行っているがそれはポートフォリオの一面に過ぎない。重要な点は、保有する資産の持つリスクそのものを管理すること。金利リスクや株式リスク、クレジットリスクなど、それぞれのリスクとそのプレミアムに対する期待を確認し、リスク同士の相関性も考慮したうえで分散を図らなければならない。

 運用商品単体の特性だけで採用を判断するのは早計。その運用商品をポートフォリオに加えることで、どのようにリスク分散効果とシナジーが期待できるのかなど、あくまでポートフォリオの全体最適を確認することが肝要だと考えている。

吉田 従来型の運用にとらわれないという意味では、特定のファクターに対してルールベースで運用していくパッシブ運用と、運用担当者の知識・経験・ノウハウといったスキルを活かして、魅力的な投資先を厳選するアクティブ運用の特徴を併せ持った「スマートベータ」の引き合いが強まっている。これは、パッシブ運用だけでは期待通りのリターンが得られにくくなっているのが大きな要因といえる。

鈴木 スマートベータをはじめ、金融テクノロジーの発展で運用商品の選択肢が増えてきた。伝統4資産の時代は、運用戦略といえば株式投資中心だったが、いまはプライベート資産や不動産など、オルタナティブ資産を中心に多彩な選択肢が持てるようになった。このような投資対象の多様化によって、選択した運用戦略次第でパフォーマンスに大きな差が出るようにもなった。

引き合いが強まるマルチアセット戦略

──スマートベータ以外では、どのような運用戦略に注目しているか。
田口
 当基金では、私募リートや保険リンク証券に投資している。安定的なインカムゲインの獲得が目的だ。ほかには、オルタナティブ・リスクプレミアムというアクティブ運用のアルファ(超過収益)部分をモデル運用によって効率的に獲得を目指すファンド、または発生確率は低いものの、ひとたび起きると多大な損失を被るテールリスクに備える保険的な役割を持った運用などにも投資している。

吉田 金融法人は、少しでもスプレッド(国債との利回り格差)が高いものに投資する運用が限界になってきた。金利リスク以外のリスクにも着目するようになってきたが、株式のベータリスクは避けたいなど、それぞれのニーズがある。個々の金融法人にあったオーダーメードに近い運用商品を提供する形が増えてきた。

田口 これからの運用会社は、ソリューション型のアプローチができるかどうかがポイントになってくると思う。単に運用商品のセールスだけではなく、顧客のポートフォリオを全体的にとらえて提案ができる運用会社が必要とされると思う。

鈴木 年金基金は複数の運用会社に相談し、ポートフォリオを高度化していく方法を考えなければならなくなった。対する運用会社のスタンスは、機関投資家のニーズに多面的に応えるソリューション型か、他の追随を許さない優れた運用商品を持つブティック型の二極化が進むと見る。

田口 中長期の投資家とされる年金基金であっても現在は、単年度ベースの運用結果にも留意する必要がある。過度にボラタイルな動きをしないよう安定的なポートフォリオにすることがより重要になってきている。

吉田 マーケットは上下動するものだが、投資家であれば誰しも損失は出したくない。とはいえ、ボラティリティを抑制した運用商品では上値も抑えられるので、下落をプロテクションする運用商品の需要もある。

 もう1つは、マルチアセット戦略だ。市場環境に合わせてアロケーションを動かすことでリスクとリターンの向上を図る。このマルチアセット戦略の引き合いも強まっている。

鈴木 マルチアセット戦略は、マーケットタイミングを見計らってアロケーションや投資資産を変更する運用手法であり、アルファが取れる可能性も十分ある。投資家のニーズに合わせて柔軟にリスクをコントロールし、組み入れ資産を変えることもできる。

トランプ新政権の誕生で恩恵を受けるメガバンク

────トランプ新政権誕生による運用への影響は。
吉田
 メガバンクは最も恩恵を受けるだろう。米国内では、リーマン・ショック後に施行されたドッド・フランク法(金融規制改革法)によって自己資金取引などが禁止されたが、トランプ氏の公約通りに見直しされれば積極的な取引が再開できる。

鈴木 金融機関がより大きなポジションを取れるようになれば、マーケットにもプラスになるだろう。これまで年金基金は、金融規制によって金融機関が手放した資産の受け皿になっていた。規制撤廃により、年金基金の投資先が減ってしまう可能性は考えられる。現在の各国中央銀行の低金利政策によって生まれた過剰流動性相場の流れ自体は変わらないだろう。

田口 米大統領選後のトランプ相場で、株式のベータリスクがリスク構成比の過半を超えてきた。当基金ではすでにリバランスをしたが、市場はさまざまな方向に動くものなので、安定的なポートフォリオを維持するために必要と判断した場合には微調整を行っている。

── 企業年金の今後をどう見ているか。
吉田
 DB(確定給付企業年金、以下DB)からDC(確定拠出年金、以下DC)への大きな動きがあるなかで、それぞれにメリットとデメリットがある両者が適切に活用されながら共存・発展していくことが理想的ではないか。

鈴木 DBとDCの優劣は、最終的にパフォーマンス次第で決まる。DBは大きな資金を集めて、DCが取り扱っていない運用商品にも投資でき、コンサルタントなどのノウハウも活用できる強みがある。運用会社として、「DBのほうがリスク・リターンに優れている」という結果に導いていける運用商品を開発し、機関投資家のポートフォリオの改善に貢献していきたい。

吉田 これまでと同じやり方では進歩はない。しっかりとした運用哲学や経営戦略などを持ち、日本の運用業界を盛り上げていけるお手伝いをしていければと思う。

 例えば、ESG投資でも十分なリターンを出せれば、企業や投資家はもとより、社会にとってもWin‐Winの形になる。運用会社としてパフォーマンスを出すだけでなく、社会貢献にも取り組んでいきたい。

田口 社会貢献ということでは、金融リテラシーの教育も必要だろう。金融や経済の仕組みを伝えるだけでなく、人生を豊かにするためのお金との付き合い方など、総合的な教育を考える段階ではないか。年金制度の将来に漠然とした不安を抱える昨今、金融リテラシーの向上で未来に希望が持てる社会にしていくことも我々の責務といえるだろう。