Advertisementアクサ・インベストメント・マネージャーズ
TOP > 注目記事 > Brexitバーゲンは英国資産の買い時

J-MONEY2016年夏号 注目記事

海外レポート

Brexitバーゲンは英国資産の買い時

アレックス・フルー・マクミラン(Alex Frew McMillan)
香港を拠点に2 0 年あまりにわたりジャーナリスト活動を展開。ニューヨーク・タイムズやインターナショナル・ヘラルド・トリビューン、フィナンシャル・タイムズ、サウス・チャイナ・モーニング・ポストのほか、アジアン・インベスターなどの雑誌媒体でも執筆。

英国投資に手ぐすねを引いているアジア勢

 英国のEU(欧州連合)離脱決定は、アジアにも大きな衝撃をもたらした。英国民が明らかに経済的な不利をもたらす孤立をなぜ選んだのかについて、ASEAN(東南アジア諸国連合)経済共同体やTPP(環太平洋経済連携協定)などを通して地域経済の緊密化を進め、さらなる発展を目指そうとするアジア諸国は理解に苦しんでいる。

 しかし、中国本土、香港、マレーシア、シンガポールの投資家は、英国というローカルな国民投票の結果がもたらす投資機会の到来を待ちきれない様子だ。英ポンドの外国為替レートは31年ぶりの安値をつけており、英国の新築不動産物件が取得しやすくなっている。国民投票以前もアジア系による不動産取得が顕著だったロンドン不動産市場だが、新規投資はアジア系がほぼ独占する可能性さえ考えられる。

 韓国を含めた他のアジア諸国の機関投資家も、ロンドン不動産市場の優良物件への投資に国民投票以前から力を入れてきた。日本の不動産バブル崩壊以降、英国では主要プレーヤーの座から降りていた日本の投資家の復帰もありそうだ。

 東京を拠点とするアステリスク・リアルティ&プレースメント・エージェンシーのマネージング・ディレクター、伊藤幸彦氏はレポートのなかで、「英国のEU離脱(Brexit)によって、日本の投資家による海外不動産投資が減速ではなく加速する可能性がある」として、主要都市の不動産に割安感が出れば、日本からの不動産投資が上向くだろうと予想している。

 英国系不動産総合コンサルティング会社ナイト・フランクは、Brexit決定で英国経済が「急速なミニ景気サイクル」に見舞われ、失業者数が増えると警告している。経済の先行きへの懸念とポンド安が続けば、米中日独に次ぐ世界5位の経済大国である英国の資産が基本的に「買い時」になることは確かだろう。

日銀のマイナス金利により海外資産投資は加速するか

 日本円はポンドに対して2015年8月の198円の安値から34 % も値上がりし、現在は130円台前半で推移している。そのことは、日本の機関投資家の資産価値が実質的に増えたことを意味する。日本国内には、魅力的な投資案件が数多くないのが現状だ。さらに、日本銀行によるマイナス金利導入によって、日本の大手機関投資家は海外投資を考慮せざるを得ない状況に追い込まれている。

 一方で、世界の投資家のなかには「リスクオフ」資産への投資を選好する向きも存在する。彼らが実際に動けば、安全な投資避難先と言われる日本、それにオーストラリアや米国への投資が増える。その場合は日本の不動産価格の上昇、利回りの低下にはずみがつくことが考えられる。

 現在すでに海外不動産を保有している日本の投資家の多くは、Brexitショックによる影響を受けていない。それは英国不動産への投資が非常に限定されているからだ。それでも、国民投票後のポンド急落によって割安感が拡大していることから、英国不動産に関心を持ち始める日本の投資家がいてもおかしくない。

 日本の投資家は、海外不動産投資に一般的に非常に保守的である。しかし、国内要因によって海外投資を選好する圧力が強まっており、その圧力は円高が続けばさらに強まるはずだ。

 アステリスクの伊藤氏は、「日本の投資家は今こそ海外不動産に投資する必要がある。いつまでも保守的な姿勢を維持できない」と断言する。

 伊藤氏は、日本の投資家にとって海外投資を増やすことは、「可能性」の段階から、「いつ」「どこ」を選ぶかという実践的局面に入っていると指摘する。日本勢が最初に狙うのは米国とオーストラリアだが、両市場では魅力的な案件はすでに買い尽くされようとしており、価格も割安とは言えない水準まで上昇している。その結果、伊藤氏は、日本の投資家は英国とEUのいずれも「無視できないだろう」という。

 その場合でも、日本の投資家はスコットランドには当面、関心を寄せそうにない。EU残留派が多数を占めるスコットランドの不動産市場がどのように展開するかが不透明なためだ。

世界業務の要としてロンドン拠点拡大も

 英国向け不動産投資では、もちろんロンドンが主要な市場であることは間違いない。それ以外の欧州の都市が選ばれるとすれば、投資の多様性を確保するニーズがあるか今後の発展が期待できる場合に限られるだろう。

 不動産サービス大手のCBREが世界の都市を対象として実施した「グローバルプライムオフィス年間賃貸コスト」調査によると、ロンドンのウエストエンドは262.29ドル(1平方フィート)で、香港(セントラル)の290.21ドルに次いで世界2位だった。ロンドンと香港はしばしば首位争いを繰り返しており、前回(2015年第3四半期)はロンドンが1位だった。なお、東京の丸の内・大手町は160.47ドルで世界6位に入っている。

 Brexit決定によって、一部の金融機関がユーロ取引デスクをロンドンから他の欧州の拠点に移す可能性を示唆する一方、ロンドンに拠点を構える企業のなかには事業を縮小するところも出てきそうだ。そうなれば、ナイト・フランクが指摘するとおり、ロンドンのオフィススペース需要がそれだけ低下することになる。

 しかし、ロンドンからの拠点移動や業務縮小に過剰反応する必要がないという見方もある。それは、世界の主要企業の多くは、EU向けだけではなく、グローバルオペレーションのためにもロンドンに拠点を構えており、ドイツ銀行、トムソン・ロイター、グーグル、フェイスブックがいずれも最近ロンドン拠点を拡大しているからだ。

 日本の英国向け投資が増えるには、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)、日本郵政グループ、主要金融機関など大手機関投資家が動くことが前提となりそうだ。日本の主要投資家が出てくれば、日本以外の資産運用会社が追随する可能性が高くなる。

 ロンドン不動産市場への投資が活発になるには、コア投資家向けの投資対象が実際に存在するかが決め手になる。次は、リース条件やテナントの信用力が購入決定の重要な要因になる。伊藤氏によると、投資に参加するパートナーやマイナー投資家(co-investor)はリスク評価も重視するという。一方、高いリターンを狙う資産運用会社の場合、とくに日本の投資家のニーズに合致するファンドを組成すれば、日本から注目を集める可能性がある。

 円高とマイナス金利は、日本の投資家がより高い利回りを求めようとすれば海外に目を向けるしかないことを示している。

離脱が先延ばしになる確率は45%

 ところで、アクサ・インベストメント・マネージャーズの予測によると、英国の成長率はBrexitによって2017年末までに2ポイント減少して、わずか0.4%になる見通しだという。また、Brexitは欧州経済の成長率を0.3%引き下げると見られている。アクサでは、成長率の落ち込みに対して、イングランド銀行が2017年末までに政策金利をゼロ%まで下げる一方、500億ポンドから1000億ポンドの範囲で量的金融緩和策を打ち出すと予想する。その結果、ポンド安がさらに進む。

 市場では、米国が、Brexit決定を受けて、利上げをさらに先延ばしして、仮に年内に利上げを行うとしても、その時期は早くても12月になるとの見方も出てきている。

 欧州がBrexitの影響を「どうにか切り抜ける」というのがアクサの見方で、これについてはエドモン・ドゥ・ロスチャイルド・アセット・マネジメントも次のように同じ見解を示している。

 「今の欧州は過去に例を見ないほど政治的に脆弱かもしれないが、われわれは過剰に悲観的になる必要はないと信じる。欧州にはこの危機から回復する力が備わっている」

 ロスチャイルド・アセット・マネジメントは今後について、英国がEUを脱退しない確率が20%、EUがBrexit決定に強く反発して経済統合に加えて安全保障の面でもEU内での統合を探る動きに出る確率が35%、Brexitの先延ばしの確率が45%だという。

 コメルツ銀行のアナリスト、ハオ・ジョウ氏は、Brexitが中国にもたらす影響に関して、「先行きは険しい道になりそうだが、中国にはテールリスクを減じる政策手段がいくつもある」と分析する。

 ジョウ氏は、中国の世界貿易に占める英中貿易の割合は2%に過ぎず、二国間貿易に何らかの支障が生じても対処可能だと予測する。そのうえで、最大の懸念は、中国当局による厳しい為替市場管理が行われているものの、為替レートの先行きだとしている。

 英国の国民投票のずっと前から中国人民元を含めた新興国通貨は値下がり傾向にあるが、Brexit決定で急落した。しかし、ジョウ氏は、中国人民銀行(中央銀行)は市場の混乱を防ぐ「ファイアパワー」を備えており、必要になれば十分な流動性を市場に供給できると指摘している。