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J-MONEY2016年春号 注目記事

海外レポート

日中企業の海外投資と国情の差

アレックス・フルー・マクミラン(Alex Frew McMillan)
香港を拠点に20年あまりにわたりジャーナリスト活動を展開。ニューヨーク・タイムズやインターナショナル・ヘラルド・トリビューン、フィナンシャル・タイムズ、サウス・チャイナ・モーニング・ポストのほか、アジアン・インベスターなどの雑誌媒体でも執筆。

中国の実際の成長率は「わずか3%」との見方も

 中国と日本は、それぞれ世界2位と3位の経済大国であり、アジアのリーダーである。両国は、政治的対立とは正反対に、貿易と経済の面では切っても切れない深い関係を維持している。

 そうしたなかで、中国経済が減速すれば日本経済はどうなるのだろうか。中国の李克強首相は3月に開催された全国人民代表大会(国会)で、2016年の実質成長率目標を6.5~ 7%にすると表明した。2015年の成長率は、政府予測の「7%程度」を下回る6.9%と25年ぶりの低水準となった。中国政府は輸出依存型から内需主導型の経済への構造改革を進めているが、短期的にはその政策が成長率の低下を招いていることは否めない。

 中国の実際の成長率はわずか3%に過ぎない――。ロンバード・ストリート・リサーチのチーフエコノミスト、チャールズ・デュマ氏は独自のデータを基にして、自社調査レポートと英BBC放送のインタビューでそう断言している。

 李首相は、2010年に内部告発サイト「ウィキリークス」が米外交公電を公開した際に当惑させられたことがある。それによると、李首相は遼寧省トップだった2007年に米大使に対して、中国統計局のGDP(国内総生産)数値は「人工的」で信用できないと語っている。自分は、電力消費、鉄道貨物輸送量、銀行融資残高を注視しているということを強調したかったようだ。それを受けて、英経済紙エコノミストは当時、「李克強指数」を作成した。

 中国経済は実際に減速している。中国本土や香港の企業関係者は中国人、外国人を問わず「景気が良くない」、それも「これまで経験したことがない低い伸び」だと嘆いている。中国が「世界の工場」として飛躍的な発展を遂げることができた背景には、主として世界的な需要拡大があった。海外需要(輸出)が落ち込み、経済減速を余儀なくされている中国経済と密接に結ばれている日本経済が減速しても不思議ではない。

 しかし、中国株の大量売りのなかで、日本円は安全資産として買われ上昇した。そのことは、先進国の成熟した市場としての安全性という中国にはない日本経済の強さを、世界が改めて認識していることを示す結果となった。それと似た違いは、日本と中国からの直接投資を受け入れる国でも見られる。

現地に留まる日系企業は東南アジアで評価が高い

 米総合不動産サービス会社ジョーンズラングラサール( JLL)インドネシアのトッド・ラクラン社長は、アジア向け直接投資では日本企業が中国企業を圧倒している事実を踏まえたうえで、次のように指摘する。

 「インドネシアに進出してきた日本企業は、良いときも悪いときも、現地に留まり続けてきた。(国内市場の縮小が予想される)日本企業が、インドネシアを含めてベトナム、フィリピンなど東南アジア諸国に進出するのは自然の流れだ。いずれの市場も成長が期待されるからだ」

 日系多国籍企業は一般的に上場企業であり、日本政府の資本は旧公社系を除くと一切入っていない。これに対して、アジア諸国に進出する多くの中国企業は、国有企業か中国政府と深い関係があり、そのことからも中国の対外直接投資が政治的要因に基づくものであることは明らかだ。

 インドネシアでは、三井グループ、住友グループ、東急不動産などが不動産開発を積極的に進める一方、日系多国籍企業は自社工場による現地生産を拡大させている。なかでも、鹿島は、2015年8月に首都ジャカルタのスナヤン地区でオフィスビル、商業施設、ホテル、アパートを含む「スナヤン・スクエア」複合開発プロジェクトを完了させ、地元で高い評価を受けている。

 JLLインドネシアは2016年初めに三井グループから移籍した人材が担当する「ジャパンデスク」を設け、インドネシアでの不動産事業に意欲を示す日本企業との取引開拓に本腰を入れている。ラクラン氏は、「まだ始めたばかりだが、手ごたえは十分にある」と日本企業との関係の構築・強化に期待を寄せる。

中国資本がインドネシアやスリランカへ本格進出

 JLLは北京と上海にも拠点を構えて中国資本の海外進出をサポートしている。しかし、JLLが中国資本のインドネシア進出にかかわったことはまだない。インドネシア市場での商機を狙って進出を考慮している中国企業の存在を考えると、JLLインドネシアが中国資本による大型不動産ディールをサポートする日はそう遠くないかもしれない。

 ラクラン氏は、「中国勢全体としてはようやくインドネシアに進出しつつあるという感じだが、日本企業は進出の歴史も古く、インドネシア市場をよく理解している」と述べたあと、韓国企業にも触れた。韓国資本のインドネシアでの動きは不動産ディールにほぼ限定されているという。韓国ロッテが大型ショッピングモール用の土地リース契約にこぎつけたものの、インドネシアでのゼロからの不動産開発実績はまだない。

 中国資本のインドネシアにおける本格的な投資は、中国交通建設集団(2006年に国有企業から株式化されている)による南部ジャカルタでの住宅開発プロジェクトのみに止まっている。中国交通建設は、スリランカの首都コロンボ沖合を埋め立てる「ポートシティ」 プロジェクトにかかわっていることで知られる。中国からの総額14億ドル(1510億円)にのぼる融資によるメガプロジェクトで、2014年9月に着工された。

 「ポートシティ」プロジェクトは、マヒンダ・ラジャパクサ大統領(当時)が鳴りもの入りで始めたものだが、2015年の選挙で敗北して退陣後、後任のマイトリーパーラ・シリセーナ大統領が許認可の不備や環境への影響を理由に2015年3月、工事の一時中断に追い込んだ。それから1年後の2016年3月、中国交通建設に自由保有権を与えた20ヘクタール分を含む269ヘクタールの埋め立て計画を縮小して、工事再開を許可した。それに加えて、中国交通建設に無償供与されるはずだった土地についても、99年リースに変更された。

 中国交通建設は、工事中止を申し渡されたとき、1日当たり38万ドル以上の損失を被ると主張していた。新華社通信は、ポートシティが完成すると8万人の雇用が創出され、スリランカ経済に「数百万ドル規模」の拡大効果をもたらすと強調している。

海外の代表的不動産を買いあさる中国保険会社

 日本企業の海外進出先は個々の経営判断で決まる。中国企業の場合、海外に進出する大手企業のほどんどは、中国交通建設の場合のように株式化=民営化をしているとはいえ、国有企業的な存在だから、進出先と業務内容まで中国政府の意向を反映しているものと思われる。中国政府もいわゆる「一帯一路」経済圏構想を通して、そうした企業を使う姿勢を明確にしている。スリランカの埋め立て開発プロジェクトは、2013年に就任した習近平国家主席が提唱した「一帯一路」経済圏構想の先駆的プロジェクトだが、それを請け負っているのは前述のかつての国有企業・中国交通建設だ。

 習国家主席は、海外投資を采配する姿勢を貫いている。中国政府は、2012年に保険会社の海外投資を解禁したが、2014年には不動産への配分率を総資産の20%から30%に引き上げた。国内保険業界2位の中国平安保険集団(本社・深?市)は、2013年7月に海外不動産買いあさりの手始めとして、ロンドン金融街シティーにある「ロイズビル」(ロイズ保険本社があり、階段、エレベーター、水道管などが建物の外側にあることから別名「インサイドアウトビル」とも呼ばれる)を2億6000万ポンド(400億円)で買収した。

 同じく中国の保険大手の安邦保険集団は2014年、ニューヨーク市マンハッタンにある高級ホテル「ウォルドーフ・アストリア」を約20億ドルで買収した。安邦は2016年3月、マリオット・インターナショナルによる買収で合意していたスターウッド・ホテルズ&リゾーツ・ワールドワイドに140億ドル(1.5兆円)の買収案を提示した。実現すれば中国企業による最大の海外買収となるところだったが、「市場考慮」を理由に3月末までに提案を突然取り下げた。その理由として、中国の政府系ファンド(SWF)である中国投資有限責任公司(CIC)がスターウッド買収に関心を寄せているためだという推測を呼んでいる。

 アジア以外の地域向け投資においても、日本と中国の企業では、政府の影響以外でもその背景に違いがあるようだ。日本企業は、国内の少子高齢化と人口減少への対応を迫られている。一方、中国企業は、日本の10倍を超す人口、それも今後さらに消費拡大が予想される人口に対応しなければならない。

 言い換えれば、日本企業の場合、縮小する国内市場に代わる海外市場を開発するために投資が欠かせないのに対して、中国企業は国内経済へのエクスポージャーがもたらすリスクの多様化と軽減を図るために海外投資に力を入れている可能性がある。

 インドネシアに話を戻そう。JLLインドネシアのラクラン社長によると、ジョコ・ウィドド大統領は日本と中国の双方からの投資を歓迎する姿勢を示しているという。日本企業による直接投資であれば、大統領が介入する必要はないだろう。しかし、中国企業の場合、ジョコ大統領(2019年の次期大統領選で敗北すれば別の大統領)にとって、対応がずっと複雑なものになる恐れがある。