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J-MONEY2016年冬号 注目記事

海外レポート

2016年はアベノミクスの節目の年

アレックス・フルー・マクミラン(Alex Frew McMillan)
香港を拠点に20年あまりにわたりジャーナリスト活動を展開。ニューヨーク・タイムズやインターナショナル・ヘラルド・トリビューン、フィナンシャル・タイムズ、サウス・チャイナ・モーニング・ポストのほか、アジアン・インベスターなどの雑誌媒体でも執筆。

実質2%成長目標の達成は「不可能」との見通し

 2015年は多難な1年だった。いろいろな宗派の過激思想に染まった人々による悲惨な銃撃・爆破事件が世界を震撼させ続けた。治安の悪化は経済成長に影を落とした。債務危機脱却のために苦しんでいる欧州に100万人を超す難民が押し寄せ、どの国も対応に苦慮している。商品価格と新興国通貨は、世界経済の先行きへの悲観的な見方を反映して数十年来の安値をつけた。しかし、逆説的に言えば、さらに悪くなる材料がそれだけ減ったのだから、2016年については楽観的な見方をすることも可能だという理屈も成り立つ。

 日本に限れば、会員制アドバイザリー会社IMAアジアが発行する「アジア・パシフィック・エグゼキュティブ・ブリーフ」は、2016年が安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」にとって節目の年になると予測している。そのなかには、安倍首相が2017年4月から消費税を8%から10%に予定通り引き上げることを明言すれば、自動車や住宅などの駆け込み需要が2016年に期待されることから、2016年に限られるものの、アベノミクスのどの矢よりも景気の底上げ効果を確実にもたらすだろうとの指摘がある。

 安倍首相は先に、2016年度の法人税引き下げを決め、介護離職ゼロを目指すと公約した。しかし、IMAアジアは安倍首相が掲げる実質2%のGDP(国内総生産)成長目標は達成不可能だと見ている。その分析によると、成長率を2%引き上げるには企業が2%かそれ以上の賃上げに応じる必要があるが、2015年末時点では、30人以上の従業員を抱える企業の収益が減少傾向にあるため賃上げはなさそうだ。そのうえで、2016年(暦年ベース)の成長見通しは1.2%とした。

 IMAアジアとは反対の見方もある。ソシエテジェネラル証券のチーフエコノミストの会田卓司氏とエコノミストの片平紀代子氏は、日本の失業率が2016年にはさらに下がることが予想され、その結果、総賃金が力強く拡大し、デフレ脱却がほぼ確実になると予測している。

 どちらの予測が当たるかは、2016年春の賃上げをめぐる労使交渉の成り行き次第ということになりそうだ。同時に、賃上げ幅はアベノミクスの行方も左右するので、誰もが春闘に注目している。野村證券の2016年(暦年ベース)の実質成長率見通しも1.2%と低いように、安倍政権が掲げる実質成長率と物価上昇率のそれぞれ2%という目標が達成されると予測するエコノミストはほとんど存在しない。

「びっくり10大予想」は日本株大幅上昇を予測

 「びっくり10大予想」で知られるブラックストーン・アドバイザリー・パートナーズ副会長のバイロン・ウィーン氏は、2016年の「びっくり予想」10項目、「起こり得る」シナリオ5項目を取り上げた。

 日本経済の予想は12番目に出てくる。2016年の日本経済については、①暦年ベースで1%の成長、②外国為替相場は1ドル=130円まで円安が進み、③日経平均は2万2000円まで上昇を予想している(ちなみに、為替について、IMAアジアの専門家グル―プの暦年平均予想は126円)。

 日経平均株価の見通しは、本稿執筆時と比べると24%の値上がりを意味するわけで、ウィーン氏が日本株の先行きにそれだけ強気であることがうかがえる。他の予想が弱気だということを考えると、何か特別な意味が込められているように思えるが、「びっくり予想」ではとくに理由付けはされていない。なお、2015年版「びっくり10大予想」では日本を5番目に取り上げ、日経平均株価については「円ベースで横ばい、ドルベースでは下落」と予想していたが、2015年の日経平均は円ベース、ドルベースのいずれでも上昇した。

 ウィーン氏は、発生する確率が市場平均予想33%、同氏の予想50%以上というシナリオを「びっくり予想」として毎年紹介している。2016年予想の主なシナリオは次の通り。

①米大統領選挙では民主党のヒラリー・クリントン氏が勝利。民主党は米下院でも主導権を獲得。共和党は過激な政策が裏目に出て自滅
②米株価下落
③2016年の米政策金利変更は1回のみで上げ幅は0.25%(市場見通しの平均は3回)
④米景気鈍化と株安で海外投資家の米株持ち高が減少。その関連で、ユーロ相場は1ユーロ=1.20ドル(1月8日時点では1.0803ドル)までドル安が加速
⑤中国経済はハードランディングをかろうじて回避。しかし成長率は5%を割り込み、人民元は輸出促進のために1ドル=7.0元までの切り下げが必至
⑥EU(欧州連合)は難民問題で再び崩壊の危機
⑦原油価格は1バレル=30ドル台で低迷が継続
⑧ニューヨーク、ロンドンの不動産市場から中国やロシアの富裕層が消え、高級不動産価格が急落

外資に広がる日本の不動産投資ブーム

 日本に再び目を向けると、不動産市場で2016年に海外勢による新たな投資ブームが起こる可能性が考えられる。その先頭に立つことが予想されるのは、世界最大の不動産プライベートエクイティファンド運用会社ブラックストーン・グループ。ウィーン氏の会社の親会社だ。

 2015年11月、ブラックストーンは、日本でのマンション投資を専門とするJRIC( ジャパン・レジデンシャル・インベストメント・カンパニー)を1億5300万ポンド(260億円)で買収した。英領チャネル諸島登記で、ロンドン証券取引所の新興企業向けAIM市場に上場されているJRICの直近株価に対する買収プレミアムは約33%だった。JRICの日本での資産運用対象不動産は57件で、その40%は東京に集中し、残りは名古屋、大阪に存在する。

 JRIC買収のちょうど1年前、ブラックストーンは、GEキャピタルが日本で所有する住宅不動産事業を1900億円で買収している。これは2014年の日本市場で最大の不動産取引となった。GEキャピタルは完全所有型の不動産事業からの撤退を考えていたが、200件、1万を超える戸数からなる資産を購入できるだけの規模の買い手を見つけるのに苦労を重ねていた。

 GEキャピタルの資産売却が今だったら、買い手は引くてあまただっただろう。大手不動産ファンドや不動産会社にとって、2016年のアジアで最も魅力がある市場は明らかに東京だ。土地利用・不動産開発に関する国際的な非営利研究教育機関(会員制)のULI(アーバンランド・インスティテュート)と米大手会計事務所PwC(プライスウォーターハウスクーパース)がまとめたレポートがそれを裏付けている。

 ULIとPwCの「不動産の新しい動向・アジア太平洋2016年レポート」によると、東京は不動産投資と開発投資の見通しランキングで2015年に続き首位に選ばれた。

 「投資家のチェック項目をすべて満たし、市場の厚みと流動性で他を凌駕している。さらに、量的緩和政策の継続により不動産価格の上昇とキャップレートの圧縮が大幅に進んでおり、優れたキャッシュ・オン・キャッシュ・リターンを生み出している」(ULI/PwCレポート)

 現在の日本市場は、高レバレッジの不動産運用を目指す会社にとってはとくに魅力的になっている。日本の金融機関は、取引案件の内容次第では最大90%までのレバレッジ率を容認しているようだ。ただし、ULI/PwCレポートは、「短期的な見通しは良好とはいえ、価格の停滞や下落を伴う減速は、高レバレッジの借入金のリファイナンスが必要な投資家にとって問題になりかねない」と指摘している。

入居率・賃貸利回りが高いアパートが狙い目

 投資魅力度の高い2015年の東京の不動産市場を動かしたのは、主に国内の投資家だった。ドイチェ・アセット・マネジメントによると、2015年上半期の不動産取引の半分以上は、J-REITによる運用によるものだった。安倍首相が2012年12月に返り咲いて以来、アベノミクスと公募増資に支えられて、東証REIT指数は66%上昇した。しかし、2015年下半期に入ると、日本の投資家の動きは負債比率が限界に近づいたことを反映して鈍り始めた。代わりに日本の不動産市場で動きが目立ち始めたのが、ブラックストーンなど海外の大手不動産ファンドだ。

 外国投資家の間でもJ-REIT投資への関心は高い。米国の金融・不動産情報サービス会社SNLによると、外国投資家が投資対象に選ぶのは入居率が96%以上のアパートメントだという。

日本での不動産投資の魅力としては、都内の場合、アパートメント賃貸利回りは約5%で、オフィス賃貸利回りの3.3%より高いことや、日本国内における円建て借入コストは「無視できる」ほど低いことが挙げられている。

 日本の他都市についての評価はどうなっているのだろうか。ULI/PwCレポートの魅力的な不動産投資先、開発投資先のランキングで、大阪はいずれにおいてもシドニー、メルボルンに続いて上位5位に入った。ある投資家は、大阪が投資利回りと賃貸件数伸び率でも東京を上回っている点に注目する。福岡、札幌、名古屋についても、「賃貸件数が伸びる可能性があり、アパートメント市場として非常に魅力的」(同投資家)だという。

 しかし、投資の世界では確実にうまくいくものは何もない。市場の先行きを疑問視する声も聞こえ始めた。ULI/PwCレポートは、「多くの人々は市場が恐らくピークに近づいていることに気づいている」というある投資家(匿名)のコメントを紹介している。高レバレッジの不動産投資の多くは2018年に債務返済時期を迎える。それまでにアベノミクスが効果をもたらすこともなく、デフレ脱却も達成できないままであれば、日本の不動産市場には買い手がいなくなり、高レバレッジに依存している投資家は窮地に陥る恐れがある。

 別の投資家は、その恐れが高まれば、「不動産市場は非常にまずい状況に追い込まれる。実際にそうなるかは運任せだ」とコメントしている。