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アジアの取引所との関係深化に注力

J-MONEY2016年冬号 注目記事

TOPインタビュー日本取引所グループ 清田 瞭氏

JPX日経400などの指数ビジネスや
アジアの取引所との関係深化に注力

東京証券取引所(以下、東証)と大阪証券取引所(以下、大証)の経営統合により、JPX(日本取引所グループ)が誕生しておよそ3年。香港やシンガポール、上海などの取引所との競争が激化するなか、「アジアNO.1」を目指すJPXはどのような手を打とうとしているのか。2015年6月よりJPXの新たな舵取り役を務める清田瞭氏に話を聞いた。(工藤晋也)

85億円の費用削減を達成 システム投資は今後も継続

──東証と大証が1つになったことでどのような効果が得られたか。
清田
 2013年1月の東証と大証の統合後、7月に現物市場、翌2014年3月にデリバティブ市場をそれぞれ一本化した結果、2012年度比75億円のコスト削減を実現した。さらに人事や総務などの組織再編で、同年度比10億円ほどのコストを圧縮し、同年度比85億円の費用削減目標を達成できた。

 投資家や証券会社にも統合のメリットがあったと考える。投資家には、デリバティブ取引における証拠金の一元化で、取引コストの低下や利便性の向上、証券会社にはシステム投資の負担軽減などの利点があった。

 ただし、取引所は装置産業の面もあり、システムにかかるコストをいたずらに削ってしまっては、国際競争に遅れをとってしまう。引き続きシステム投資には力を入れていきたい。

──東京商品取引所(TOCOM)との統合による総合取引所構想が出ているが、進ちょく状況は。
清田
 金融デリバティブとコモディティ・デリバティブを一つにする総合取引所構想については、2014年6月に閣議決定した日本再興戦略の改訂版でも「総合取引所を可及的速やかに実現する」と明記されている。だが、監督官庁が金融庁、経済産業省、農林水産省にまたがっており、各省庁間での調整が進んでいないのが実態だ。

 また、CME(シカゴ・マーカンタイル取引所グループ)などの世界の主要取引所は、金融デリバティブ、コモディティ・デリバティブともに充実している。対する日本は金融デリバティブ市場は着実に拡大しているものの、
TOCOMが取り扱うコモディティ・デリバティブ市場が伸び悩んでいるのが実情だ。

 我々は株式会社なので株主の意向に反した行動はとれない。TOCOMが経営不振に陥ったときに総合取引所の構想が浮上しても、手を差し伸べることはできないだろう。TOCOMの経営体力があるうちに、win-winの関係で総合取引所を実現するのが理想だが、しばらくは難しいと思う。

 ただし、コモディティ・デリバティブは重要な商品として見ているので、場合によってはデリバティブ商品先物の指数だけ上場するという選択肢も含めて、幅広く検討していきたい。

リスク管理機能を強化 「安定性では世界一」の自負

── グローバル競争ということでは、香港やシンガポール、上海など、他のアジアの取引所との競争が激化している。JPXはどのようなアジア戦略を描いているのか。
清田
 アジア戦略では、中国とASEAN(東南アジア諸国連合)という巨大経済圏がポイントになる。前者の中国は、昨夏に中国株が急落した際に、空売り規制を発動したり、大半の銘柄が売買停止になったりするなど、先進的なマーケットとはいえない。高いポテンシャルはあるものの、現時点では情報収集だけにとどまっている。

 ASEANはシンガポールをはじめ、タイやマレーシア、インドネシア、フィリピンなど、それなりの歴史を持つ取引所がある。シンガポール取引所のように競合関係にありながら、場合によっては協力もしていくパートナーのような関係を構築していきたい。

 直近では、ミャンマー初の証券取引所の開設を支援した。大和証券グループの大和総研とともに出資から取引所のルールづくり、システムの導入まで全面的にサポートし、2015年12月9日にヤンゴン証券取引所を開設する運びとなった。

 取り扱い商品の相互提供も進めている。例えば台湾のTWSE(台湾証券取引所)では、2015年9月からJPXのTOPIX関連ETFが上場。日本でも、TWSEを代表する株価指数のTAIEX(台湾加権指数)先物の上場が内定している。こういった商品の相互上場などを通じて、他の取引所との関係性を深めていきたい。

 証券取引所は国家インフラの一つである。欧米のように米国内やEU内に複数の証券取引所が存在しているならまだしも、1つの国に1つの証券取引所しか存在しないところでは、M&Aによる証券取引所の合併は起きないだろう。JPXでも証券取引所のM&Aは選択肢にはなく、商品の相互上場や上場ルールの設定協力などを通じて、長期的な視点でともに成長していく関係を目指す。

──2015年9月に株式売買システム「アローヘッド」をリニューアルした。
清田
 2005年12月の「ジェイコム株誤発注」のときは、株式売買システムの不具合(バグ)が問題になった。それを教訓に2010年に誕生したのが初代のアローヘッドであり、非常に安定したシステムだった。8月に中国株が急落したときには短時間に大量の注文が入ったが、アローヘッドは問題なく処理することができた。マーケットが過熱しているときでも安定稼働できる裏付けとなった。

 とはいえ、システムの不具合はいつ起きるか分からないことから、新生アローヘッドではリスク管理機能を強化した。システム障害が起きた際に、注文を自動的に取り消す「コネクション異常切断時注文取消機能」、取引参加者の指示によって発注された注文を自動的に取り消す「注文抑止・取消機能」などの機能を新たに加えた。

 システムの処理スピードも初代アローヘッドの2倍以上に向上したが、我々は速さではなく、安定性に重きを置いている。システムの安定性では、世界一のシステムといえるだろう。

ROE重視経営の効果はこれから

──ROE(株主資本利益率)を評価軸にした「JPX日経インデックス400(以下、JPX日経400 )」は、株主重視の流れを生み出す一つの原動力になった。今後、どのようなタイプの上場商品の開発に取り組んでいくのか。
清田
 日本経済新聞社と共同開発したJPX日経400に入りたい、入ってよかったという企業の声を多く聞くが、構成銘柄に選ばれるにはROEを高めなければならない。そのためには株主に向いた経営、資本の効率を意識した経営ということで、不要不急の資産を持たないバランスシートマネジメントが重要になる。

 JPX日経400ではROEが何かとクローズアップされているが、実は営業利益や時価総額といった定量的な評価のほかに、コーポレートガバナンスの面から独立した社外取締役の複数採用や英文による決算情報の開示などの定性的な評価を経て構成銘柄を選定している。

 例えばJPX日経400はインデックスファンドや先物といった展開以外に、2016年中にオプションの開始を予定するなど、指数はビジネス的にもポテンシャルが大きい。これまで多くの指数を開発してきた米S&Pダウ・ジョーンズと手を組むなど、取引手数料以外の収益源として指数ビジネスの強化も進めている。

──JPX日経400の登場で企業トップがROEを意識するようになった。
清田
 コーポレートガバナンス・コードの導入もあり、企業経営者の視点が大きく変わったと思う。海外の機関投資家からも同じような意見を聞く。

 しかし、ROEが5%台から8%台に上がったのは、コーポレートガバナンス・コードの影響でも、企業経営者が
ROE重視の経営をしたからでもない。アベノミクスによる円安でインバウンド消費などが活発化したからで、ROE重視の経営が効果をあらわすのはこれからだ。

 現在、日本企業のROEが欧米の上場企業並みの12~13%まで上がれば、理屈のうえでは2万円の株価が3万円近くになる。企業経営者のマインドセットの転換は、日本の株式市場を激変させるほどのインパクトがある。

東芝を特設注意市場銘柄に ガバナンス改善を求める

──コーポレートガバナンス・コードの導入でアマダやファナックのように株主の方を向く企業が増えた一方で、コーポレートガバナンスの先進的企業と見られていた東芝が会計不祥事を引き起こした。
清田
 コーポレートガバナンス・コードに基づいて取締役の過半数を社外取締役にするなど形は整えていたが、“魂”は入っていなかったのだろう。そのため、ガバナンスの要となる社外取締役に正しい情報が届いていかなかったのではないか。

 東芝がコーポレートガバナンスをつくったときに、もしも2015年6月に導入されたコーポレートガバナンス・コードの73の原則を一つひとつ検討していたら、このようなことは起こらなかったと思う。

 長年にわたって不適切な会計処理を放置してきたトップの責任は非常に大きい。そして社内で発見できず、内部告発をきっかけに明るみになった。しかも、外部の第三者委員会の調査も十分とはいえなかった。

 企業規模が大きすぎるため、対応が後手後手になったのかもしれない。しかし、室町新体制が始まり、社外取締役には経済同友会の小林喜光代表幹事(三菱ケミカルホールディングス会長)などが就任したので、生まれ変わる可能性は十分あると思う。

 今後の変化に期待して、2015年9月15日に「特設注意市場銘柄」に指定し、東芝のガバナンスの改善を求める
1年間の猶予期間を設けた。期限までに東芝と十分なコミュニケーションをとって、変化の後押しをしていきたい。

上場時期の集中回避などIPO問題の改善に取り組む

──2014年12月に新規上場したゲーム会社「gumi」をはじめ、上場後に業績を下方修正する企業が相次いだ。
清田
 2015年3月31日に、JPXと日本証券業協会、日本公認会計士協会の3者共同で「①新規公開会社の経営者による不適切な取引」、「②上場直後の業績予想の大幅な修正」、「③上場時期の集中」への対応に取り組むことを発表した(図表2)。

 例えば、日本では企業の決算時期の関係で、上場時期は3月と12月に集中しやすい。その結果、審査や監査が不十分になったのではという指摘もあるため、IPO(新規株式公開)の集中状況を事前に証券会社に通知することで、上場時期の集中回避を図っている。

 2014年は年間80社のうち28社が12月の上場になったが、2015年は98社のうち17社が12月と、一応効果はあらわれている。IPO問題の根本的な部分は改善してきていると思う。

──日本郵政やゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の日本郵政グループ3社が2015年11月4日に上場した。1987年のNT T以来の大型上場といわれる郵政3社に対する期待、要望は。
清田
 日本郵政の売り出しに伴う売却益は復興財源に充てるため、政府としては成功させなければいけない案件である。その一方で市場の番人である我々としては持ち株会社と、子会社が同時に上場する親子上場が気になった。取引上は望ましい姿ではないからだ。

 ただし、親子上場が問題になるのは、親会社が支配的でありながら、子会社を上場させるケース。親会社の日本郵政には、子会社の少数株主の利害を侵害しない仕組みをつくってほしいと強く要請している。

 もう1つは子会社のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の金融2社は、国営企業としての規制を大きく受けながらの上場となるため、どのような成長戦略を描けるのか非常に気にしている。日本郵便が抱える郵便局ネットワークの活用といった将来像を出してもらったうえで上場の認可を出した。

 現時点では国内、海外ともに投資家の評価は高い。とくに個人投資家のなかには初めて投資をする方も多く、「貯蓄から投資へ」の普及に弾みがつけばと期待している。

──取引時間の延長に関する今後の展望は。

清田 取引時間の延長は、JPXの斉藤淳前CEOが長年主張し、私自身も必要性を感じているが、証券会社からの同意を得られず今回は見送ることにした。しかし、リーマン・ショックやギリシャ債務問題など日本株にも影響をおよぼす出来事は、日本市場が閉まっている時間帯に起こるケースが多い。そんなときに日本株の投資家には取引機会がないことになる。

 市場参加者からのニーズの高い取引時間の延長を実現できなかったことは、市場運営者として責任を果たせなかったことになる。関係者のコンセンサスが一致するまでは当面動けないが、機が熟せば取引時間の延長を試みたい。