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J-MONEY2014年冬号 注目記事

シンクタンクの眼 第15回

電力システム改革

2013年11月、電力システム改革を進める改正電気事業法が成立した。民間投資を喚起する安倍政権の成長戦略として期待される改革は、今後どのような市場展開をもたらす可能性を持つのか。NTTデータ経営研究所の佐久間洋氏に聞いた。

競争導入により高コスト構造の適正化を目指す

 電力システム改革の目的を整理すると、「広域で電力を融通し合える体制の構築」と「発電および小売り部門への競争導入による高コスト構造の見直し」に集約されます。

 東日本大震災の際、地域をまたいで電力融通を行うために必要な周波数変換所や連系線などの設備が十分な能力を有していないという問題が発覚しました。電力システム改革では、電力需給を全国規模で計画する広域系統運用機関を設立し、中立な立場で設備投資を進めることで、地域を越えた電力融通を実施しやすくします(図表1)。

 コスト構造の適正化は、原子力発電の停止に伴う電力価格の上昇や発電コストの不透明さなどをきっかけとして議論が高まりました。発電および小売り分野に競争を導入するため、今後、次の3つの取り組みが政策として進められます。

 1つが「送配電部門の法的分離」です。発電事業者や小売り事業者が、東京電力や関西電力などの一般電気事業者と対等な条件で送配電網を利用する環境を整備します。

 2つ目は「小売りの全面自由化」。日本における電力小売りの自由化は2000年より段階的に行われてきました。現時点で参入可能な範囲は50kW以上の需要家に限られますが、2016年には一般家庭やコンビニなどすべての需要家に対して自由化されます。小売り事業者の競争を強化することは発電事業者間の競争にもつながり、コストの低減が進むでしょう。

 3つ目が「市場を通じた電源調達・需給調整の拡大」です。日本で唯一の電力取引所である日本卸電力取引所(JEPX)で取引された2012年の電力量は日本の全小売り販売電力量の0.9%に過ぎず、取引所として十分に機能していません。JEPXの活性化や電力先物市場の創設などを通じて、競争を平等に行うために不可欠な市場機能を強化し、電力取引の流動性を高めます。

改革の進展で期待されるビジネスとプレーヤー

 電力システム改革の進展により「①発電ビジネス」、「②電力小売りビジネス」および「③電力取引関連ビジネス」の展開が期待されます。

 「①発電ビジネス」では、送配電網の平等な利用と小売り事業者の多様化により、事業実施のハードルが下がるでしょう。既存の老朽化した発電施設に比べてエネルギー効率が高く、価格競争力のある発電技術を持つ事業者の参入が期待されます。発電ビジネスを行うには最先端の技術ノウハウが不可欠ですので、重電メーカーを中心に事業拡大が見込まれます。

 「②電力小売りビジネス」では、既に電力小売り事業を行っている新電力(PPS)のシェア拡大に加え、新規事業者による参入が期待されます。

 既存のPPSは、販売先を大規模需要家に絞ることで固定費を抑え、一般電気事業者に対する価格競争力を確保してきました。したがって、一般家庭など小規模需要家への供給ビジネスは新規参入者が中心に行うと思われます。なかでも有力なのが、本体事業で家庭とのチャネルを有する事業者です。

 例えばケーブルテレビのジュピターテレコムは、マンション向け電力提供サービスを先行して開始しています。本来、現時点では一般家庭への電力提供はできませんが、マンション全体で電力会社と高圧受電契約し、各戸への配電を別の事業者が行う「一括受電」という方法により、家庭への電力小売りを実現しています。同社は東京電力より5%割安な料金で電力を販売するとともに、テレビやインターネットなどと併用すれば、割引率を8%とする料金プランを提供しています。本体のケーブルテレビ事業を活かした効率的な参入の事例です。

 生活協同組合も参入に向けた具体的な検討を始めています。ほかには、NTTやソフトバンク、KDDIなどの通信会社も同様の理由で優位に参入を進められそうな業種といえます。

 「③電力取引関連ビジネス」は、デマンドレスポンス(DR、需要応答)ビジネスと電力デリバティブビジネスが有力です。
 DRビジネスとは、DRアグリゲーターと呼ばれる事業者が、電力小売り事業者など供給サイドの依頼を受け、需要のピーク時間や供給過多の時間などに需要家に節電や蓄電を要請し、需要量を一時的に低減・シフトさせる事業モデルをいいます。米国ではDRを発電施設と同等の供給力と評価し、盛んに取引が行われています。

 DRアグリゲーターのビジネス機会になるのが新設される予定の「容量市場」です。容量市場は電力そのものではなく、将来発電することのできる“能力”を取引する点が特徴です。従来、一般電気事業者が負っていた供給力確保義務は、今後、小売り事業者ごとに割り当てられます。その義務を果たすための能力を自社電源や相対契約のほか、容量市場から調達することになるでしょう。容量市場ではDRも供給能力として取り扱われ、DRアグリゲーターに対価が支払われます。

 米国ではすでに容量市場が活用されており、米国最大手のDRアグリゲーターであるエナノックの売上2.8億米ドル(2012年)の多くが容量市場による収益です。

 国内でもPPS最大手のエネットが自社の顧客向けサービスとしてDRの提供を開始しているほか、メーカーや商社など多くの事業者が経済産業省の予算などを活用し、DR実証事業に乗り出しています(図表2)。

電力デリバティブ市場は将来的には11兆円規模とも

 現状の電力システムの市場規模は、約17兆円。電力システム改革は高コスト構造の見直しを目指すものですから、電気事業そのもので考えると市場規模は拡大せず、むしろ発電効率の向上や節電の普及などによって小さくなることも考えられます。

 電気事業自体の市場規模は縮小の可能性がある一方、拡大を見込めるのが電力デリバティブビジネスです。電力取引市場が活性化すれば、オプションやスワップなど多様なデリバティブの展開が期待できるでしょう。

 先行して電力システム改革を成功させているノルウェーでは、電力先物取引、電力先渡し取引、オプション取引、差金決済(CFD)が提供されています。電力の現物取引であるスポット取引の全小売り販売電力量に対する割合は、2011年時点で75.5%と非常に高い水準で、電力デリバティブの取引量はその3倍以上に上ります。

 日本では、将来的に少なくとも30%程度までスポット取引を拡大したいとの意見が検討委員会で挙げられています。日本における2012年の全小売り販売電力量は8707億kWhですので、仮に30%まで拡大するとスポット取引は約2600億kWh。その3倍のデリバティブ取引が行われれば約7800億kWhとなり、JEPXの2012年の年間平均スポット価格14.43円/kWhを参考にすると、電力デリバティブの市場規模は約11兆円と試算できます。

 電力システム改革の成功のためにも、電力取引市場の活性化の成否が今後の鍵を握ります。市場が十分に機能しなければ、電力システム改革後も、一般電気事業者が自社の小売り部門に電力を販売し、顧客を今まで通り囲い込むモデルが継続されるでしょう。電力デリバティブなどの新たなマーケットの成長につなげることができるかを含め、これからの展開に注目です。