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J-MONEY2015年秋号 注目記事

海外レポート

中国減速の日本への影響を予測

クリス・ライト(Chris Wright)
ロンドンを拠点に活動するフリーの金融ジャーナリスト。ユーロマネーやインスティテューショナル・インベスター、フィナンシャル・タイムズ、オーストラリアン・フィナンシャル・レビューなどで執筆。アジアマネーやオーストラリアン・フィナンシャル・レビューでは投資コーナー編集長を務めた。

日本の貿易構造は中国に大きく依存

 この夏に中国人民銀行(中央銀行)が突然、人民元の切り下げを実施したことから、中国株式市場は混乱に陥った。中国経済の先行きへの不安感が高まり、たちまち日本を含む世界市場で連鎖反応が生じた。

 中国の問題が日本経済に影響をおよぼすことなどは、かつては考えられなかった。しかし、その時代は過ぎ去った。

 中国は今や日本の最重要貿易相手国の一つである。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、日本の2014年の対中貿易依存度は、輸出が18.3%(国別ランキング2位。1位は米国の18.7%)、輸入が22.3%(同1位。2位は米国の8.8%)となっている。

 当然のことながら、日本の株式市場は8月の中国株(人民元建てA株)急落の余波を受けた。日経平均は8月24日には4%安と、2013年5月以来となる最大の下げ幅を記録した。

 中国ショックは日本にとって非常に悪いタイミングで起きた。8月17日に発表された日本の4~ 6月のGDP(国内総生産)は前期比の年率換算で1.6%減と、3四半期ぶりのマイナス成長となった。このままでは、アベノミクスの評価が落ちるリスクが高まる。当然の流れとして、インフレ脱却のために国債買い入れを続ける日本銀行への追加緩和圧力は強まった。

中国の潜在成長力は10年で半減との指摘

 日本が中国から受ける影響は、中国の景気減速の実態と日本企業の中国へのエクスポージャー(さらされているリスク)の度合いという2つの視点から見る必要がある。

 まず中国経済だが、その先行きに対する市場のムードは弱気だ。例えば、最新レポートで「中国経済は勢いを失いつつあるようだ」と書いたフランスの資産運用大手アムンディ・アセット・マネジメントは、その理由として「過剰貸し出し、膨張する債務残高、規制が緩いシャドーバンキング(影の銀行)、競争優位性を失いつつある製造業、伸び率が鈍化傾向にある生産性、低下が見られる潜在成長力」を列挙した。

 同社の計算によると、中国の潜在成長力は人口動態と生産性の変化を考慮すると、現時点では10年前より約50%下がっている。

 アムンディは、「中国の最近の人民元切り下げと、外貨準備が1年で3000億ドル近く減少したことが中国モデルへの信頼の欠如を明確に示している」と指摘する。中国の成長率については2015年、2016年ともに6%と予測したうえで、下振れリスクにも言及している。

 中国経済の今後の行方に悲観的なのは、英国生命保険大手グループのスタンダード・ライフも同じだが、理由は異なる。中国は世界金融危機の際、国有銀行を使って約6000億ドルを国有企業に注入して、インフラ整備(公共)事業と製造業の設備投資を一気に拡大させた。

 しかし、今の中国は同じ景気刺激策には頼れない。「当時と違い、現在の中国では、国有企業は過剰設備を抱え、投資利益が期待できる公共事業もほとんど見当たらない」(スタンダード・ライフ)からだ。2009年のように貸し出しを増やせば、中国の金融部門のリスクが高まる結果にしかならない。「端的にいえば、中国オプションには限界がある」(同)ということだ。

 一方、成長が鈍化しているからといって、中国経済が困った状態にあるわけではないとする別な見方もある。JPモルガンのグローバル・トレード&ローンプロダクツ・アジア太平洋責任者アガサ・リー氏は「中国の成長率はかつての2桁から6~ 7%に鈍化しているが、例えば韓国などと比べると、高い数字であることに変わりはない」と述べる。

 この見方に従えば、減速は中国経済にとって不可避であることは前からわかっており、成長率低下はショックあるいはネガティブな状況ではなく、必然的な調整過程と見るべきだということになる。

中国経済の影響が新興国市場を直撃

 2つ目の視点は、中国経済の日本への影響だ。ゴールドマン・サックスの日本担当チーフエコノミスト、馬場直彦氏によると、中国は、米国と並んで、日本が生産する高付加価値製品の約2%を輸入しており、中国の国内需要が1ポイント落ち込むと、日本のGDPは0.1ポイント下がるという。

 日本の総輸出の18.3%(2014年)は中国向けだが、中国の景気減速で需要が冷え込めば、その影響が対中輸出にとどまらないことは明らかだ。日本のアジア地域(中国を除く)への輸出依存度は35.9%と高い。一方、中国は輸入の47.6%(2013年)をアジア地域(日本を除く)に依存している。

 これらの数字は、中国経済が減速すれば、アジア諸国の対中輸出が落ち込み、アジア諸国は日本からの輸入を減らさざるを得なくなることを意味する。

 IMF(国際通貨基金)は、「スピルオーバー(波及効果)報告書」(2014年版)のなかで、新興国のGDPが1ポイント下がると、日本のGDPが0.5ポイント縮小するという試算を明らかにした。言い換えれば、中国経済の減速の影響は、それによって新興国全体の景気が冷え込むことは必至だから、日中貿易の数字だけから計り知れないほどの大きなインパクトになる恐れがある。

 日銀の中曽宏副総裁は、2015年7月に熊本市で行った講演で、中国の景気減速に関連して、「アジア諸国やわが国の輸出に対する影響がどの程度のものとなるかについては、引き続き注意して見ていく必要がある」と述べている。ただ、日本経済は現在「好転している」ことを強調して、中国および新興国の景気低迷の影響に対応できることを示唆した。

 中国経済の先行きに懸念を示しているのは中曽副総裁だけではない。日本経済新聞社が9月に行った主要企業経営者アンケートによると、回答した148人の64.1%が中国経済の減速が自社の経営にマイナスの影響をおよぼすと懸念している。記事では、中国における日本企業の生産調整の例として、神戸製鋼所傘下のコベルコ建機が年末までに作業員の1 割、約200人を削減することが紹介されていた。

突然の通貨切り下げはレッドスワン的出来事

 海外の資産運用会社も日本の企業経営者と同様の見方だ。

 「アジア・オセアニア諸国のなかで新興国市場への直接的なエクスポージャーがとくに高いのはオーストラリア、日本、韓国で、それぞれの輸出に占める新興国向けの割合は50%を超す。しかし、新興国経済が、崩壊に至らず、減速状態を続ける限り慌てる必要はない。それでも、先進国の中央銀行は海外市場の動向に極めて敏感である。先進国の新興国へのエクスポージャーがそれだけ大きいからだ」(スタンダード・ライフ)

 中国については、エクスポージャーに加えて、通貨問題も懸念材料である。中国は6月以降の株価急落と景気後退に歯止めをかけるため、8月に人民元切り下げを決定。それにより円の為替レートは、人民元に対してはもちろんだが、他通貨に対しても円高となった。

 世界的にリスク回避志向が強まる局面では、日本の債券は安全資産として買われる傾向が一般的。中国経済の後退はリスク回避志向を世界的に高め、それによって円高が進むが、円高は日本の株式市場には下げ圧力となる。

 スイスのプライベートバンク大手ジュリアス・ベアのエコノミスト、スーザン・ジョーホ氏は、「新しい為替レジームの下では、人民元のボラティリティが非常に大きくなることはすでにはっきりしている」としたうえで、人民元の対米ドルレートは1ドル=6.8元あたりを目指す動きになると予想する。

 一部の市場関係者は、人民元切り下げが日本を含む世界の成長を阻害すると懸念する。英資産運用会社ベアリング・アセット・マネジメント(ベアリングス)のマルティ・アセット・グループ責任者、マリオ・バレンサイス氏は次のように語る。

 「顧客からよく『夜遅くまで起きているのはなぜか』と聞かれる。いつも、次のブラックスワン(黒い白鳥)、つまり想定外の市場の大波乱は何だろうかと懸命に考えているからだと答えてきた。8月の中国人民元の切り下げ発表は突然で、(元安誘導に)本腰が入っていた。世界市場の流れを一変させる可能性があることを考えると、レッドスワン(赤い白鳥)的な出来事といってもよい」

 8月の人民元の切り下げ幅は3日間で4.6%だったが、バレンサイス氏は「それほど劇的ではない」と見ており、その理由として、切り下げ後でも人民元の対円レートは3年前より35%の元高の水準にあることを挙げた。

 ここ数年の元高は、中国の海外購買力が増し、海外からの輸入増大につながるうえ、現地法人は海外から部品をより安く買えるなど、日本を含む世界経済には好都合だったというのが、バレンサイス氏の分析だ。

 しかし、同氏は、中国が通貨切り下げとともに、人民元レートをより市場実勢に近づける政策に変更したことで、「これまで人民元レートを支えてきたメカニズムがなくなるのだから、今後は市場の様相が異なる」と見ている。

 これまでに触れてきた見通しなどがすべて正しいからといって、そのことはアベノミクスの自動的な崩壊を意味するものではない。アベノミクスはおおむね前進中だと考えられており、その過程での収益の上下は当然起こり得ることだ。それに加えて、これからの日本の経済運営では、中国経済の混乱という日本経済にとっては起きてほしくない問題を真剣に織り込んでいく必要がある。