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経営戦略の「セカンドオピニオン」的役割

J-MONEY2013年夏号 注目記事

CFOインタビュー カルビー 執行役員 財務経理本部 本部長 菊地 耕一氏

創業家から経営の監督と執行を分離
経営戦略の「セカンドオピニオン」的役割

日本企業を取り巻くビジネス環境と資金の流れが大きく変わろうとしている。各社の財務戦略を担うCFO(最高財務責任者)は何を考え、どう行動しているのか。今回は2013年3月期に4期連続最高益を達成したカルビーCFOの菊地耕一氏に聞く。(柴田哲也)

創業家時代は高コスト体質 売上原価率50%目指す

──2013年3月期は4期連続最高益を達成しました。好業績の要因は?
菊地
 カルビーグループの経営の2本柱である「イノベーション(成長戦略)」と「コスト・リダクション(コスト見直し)」がうまくかみ合い、相乗効果を発揮していると見ています。

 前者の「イノベーション」では主力のスナック菓子の好調が継続しています。とくに定番のポテトチップスのうすしお味とコンソメパンチ味の増量キャンペーンや堅あげポテトの値ごろな価格帯へのリニューアルで、スーパーなどのPB(自主企画)商品や他社製品との競争力が強まりました。野菜を素揚げした新商品「Vegips(ベジップス)」も新ラインの稼働で2012年10月から全国展開しています。

 スナック菓子以外ではシリアル食品の「フルグラ」が売上高前年同期比70%超と大幅に伸びました。通常の380gサイズに加えて800gの“お得用” サイズの投入、消費者の健康志向に応えドラッグストアに陳列するなどの販促効果が出ています。

──定番商品の値下げを支えたのが「コスト・リダクション」というわけですね。
菊地
 ポテトチップスの主な値下げ原資は2番目の柱の「コスト・リダクション」で捻出しました。原料の植物油、調味料、包装資材などは、従来は全国に17ある工場ごとに購入していましたが、現在は本社での一括購入を進め仕入れ値を下げています。

 2009年3月期の売上原価率は64.8%でしたが、2013年3月期は56.2%まで低下しました。工場ラインの見直しを推進し、稼働率(生産性)を向上させれば売上原価率はもっと下げられるはず。「50%」を目指してさらなるコスト・リダクションに挑戦します。

──御社は2009年に、創業家経営から経営の監督と執行を明確に分けるCEO(最高経営責任者)に大きく舵を切りました。ここ数年の大胆なコスト・リダクションと好業績はその成果ですか?
菊地
 かつての創業家時代が、「よい商品をつくるためならいくらお金をかけてもいい」といった高コスト体質だったのは否めません。しかし、食品業界を取り巻く環境は、国内人口の減少や少子高齢化、可処分所得の低下による消費低迷など厳しい状況が続いています。

 経営の監督と執行を分離し、コスト・リダクションを原資に価格政策などの権限を執行役員に大幅に委譲するなどして経営の効率化を図るのは、当社が中長期の成長を実現するうえでは必要だったと考えます。

──現在は、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人社長を務めた松本晃氏がCEO、7人の取締役で唯一の生え抜きの伊藤秀ニ氏がCOO(最高執行責任者)を務めています。長年の慣習を覆すコスト・リダクションには社内の抵抗が根強いと思いますが、どのように対応していますか?
菊地
 徹底した「コミュニケーション」と「分権化」で臨んでいます。松本と伊藤は全国に20カ所以上ある事業所それぞれに年2回は足を運び、「イノベーション」と「コスト・リダクション」の重要性を繰り返し説明しています。トップマネジメントとしての時間とエネルギーの3分の1は営業や生産の最前線の意思統一に投入している印象です。

 一方、意思決定のスピードアップを図る狙いから、全国を北海道、東日本、中日本、西日本に分け、それぞれの統括責任者が地域特性に合わせて販促戦略や商品価格を決めます。

──スナック菓子の売れ行きに地域特性があるのですか?
菊地
 かなり地域差があります。例えば、ポテトチップスにおける当社の市場シェアを地域別に見ると、東日本だけ5割程度にとどまり、他の3地域は7、8割に達しています。

 主な要因は、首都圏を中心に東日本では「のりしお味」の人気が高いこと。当社のライバル企業がこの味付けで一定のブランド力を保持しているため圧倒的なシェア獲得に至っていないのが現実です。「国内スナック菓子市場でシェア3分の2以上」との目標を達成するには、地域特性や他社動向などを踏まえたキメ細かいマーケティング戦略が求められます。

社内では「嫌われ役」 売上の海外比率30%を早期達成

──CFOポストも2009年の体制変更と2011年の株式上場を機に確立されたのですね。
菊地
 創業家時代は、経営戦略の実現に必要な財務基盤を整えるという意味の財務戦略は存在しませんでした。現在は、経営の2本柱である「イノベーション」と「コスト・リダクション」の実現に貢献する資金の流れを意識しながら財務戦略の構築を担当しています。

── CFOとしての役割についてどのようにお考えですか。
菊地
 当社のCFOの役割は、①経営戦略に基づくビジネスプラン(予算)の作成②業績管理③IRの3つに分けられます。

 経営戦略のチェック機能に関しては、企業の中長期の成長には設備や人材への投資が欠かせませんが、投下できる資金・資源には限りがあります。当社でも、社内の各部門から上がってきた要望は、私が「よりリスクが低く、より効果が望めるものは何か」という視点で確認したり意見を添えたりしたうえで、CEOやCOOに上げます。経営戦略の「セカンドオピニオン」の役回りです。

──社内の各部門にとっては煙たい存在では?
菊地
 嫌われ役ですね(笑)。ただ、「カルビーを成長させたい」という目標は全部門共通です。CFOは、財務戦略という補助線から目標実現の最短距離を探るのが役割と考えます。

 その意味からすると、CFOには「短期的な視線」も大事かもしれません。製造や営業といった現場の成長戦略は「数年後」といった中長期のスパンになりがちです。しかし、上場会社には四半期ごとの決算発表が義務付けられており、短期の業績と中長期の成長戦略との整合性につき説明することが求められます。株主の関心も一定期間における目に見える成果である場合が多々あります。

 CEOやCOOの経営判断の材料に「時間軸」を提起するのも、CFOの存在意義といえるのではないでしょうか。

──今後の成長戦略のキーワードを教えてください。
菊地
 最重要課題の一つが海外における販路拡大です。売上に占める海外比率は、2013年3月期は約5%程度ですが、これを将来は30%に上昇させたいと思います。

 当社の海外販路は3年前までは米国、香港、タイ、中国(広東省)のみでしたが、現在は韓国、台湾にも広がっており、2014年にはインドネシアへの進出も決定しています。なかでも、2013年4月に世界最大のスナック市場を有する北米でペプシコとの業務提携(Jagabee〈じゃがビー〉の独占販売権の付与)を開始、また世界最大の人口をもつ中国では康師傅、伊藤忠商事との合弁会社を杭州に設立し、中国でのビジネスを本格スタートしました。5年後には北米、中国それぞれの市場で売上約500億円を見込んでいます。

──海外での販路拡大に注力している御社が金融機関に期待することは?
菊地
 欧米先進国に比べ、アジアの新興国はビジネスインフラが未成熟の面があります。グローバルなネットワークと、海外ビジネスのノウハウが豊富な金融機関なら、現地ビジネスでのパートナー探しや海外売上を効率的に管理するキャッシュマネジメントなどについて知見をお持ちでしょう。コンサルティング的なサービスの提供を期待します。