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J-MONEY2012年春号 注目記事

機関投資家のポートフォリオ戦略

資産クラス、運用手法に新しい動き
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米国の著名な投資アドバイザー、ゲイリー・ブリンソンらの研究によると、「運用パフォーマンスの9割以上はアセットアロケーション(資産配分)で決まる」という。年金基金などの機関投資家にとってポートフォリオ戦略は、それほど重要なウェートを占めている。2008年のリーマン・ショックを契機に大きく動き出した機関投資家のポートフォリオ戦略のいまを探る。(工藤晋也)

Part 1 覆された定説 ダイナミックな資産配分へ

相場環境と会計制度の変化で“持続可能性”を重視した戦略へ

 年金基金をはじめとした機関投資家は、これまで政策アセットミックスと呼ばれる基本ポートフォリオを設定し、実際のアセットアロケーションとのかい離を定期的に是正するリバランスを行うことが運用目標達成のポイントとされてきた。実際にこの定説を守っていれば、1990年代までは資産の成長を結果的に実現できていたのである。
 
 しかし、2つの変化によって定説が覆されることになる。1つが「相場環境の変化」だ。1980年代から90年代にかけて世界の株式相場は右肩上がりで推移してきたが、2000年代に入ると一転、ほぼ横ばいか下落の相場環境が続くようになった。

 もう1つは、年金基金を直撃した退職給付会計制度などの「会計制度の変化」だ。2000年度に導入された退職給付会計制度により、年金基金は積み立て不足を退職給付引当金として貸借対照表に記載しなければならなくなった。もし大幅な積み立て不足に陥ると格付けが低下し、母体企業が資金調達に苦しむ可能性も考えられる。

 この「相場環境」「会計制度」という2つの変化によって機関投資家の多くはこれまでの定説を見直し、“持続可能性”を重視した新たなポートフォリオ戦略へ舵を切ることになった。

 機関投資家はポートフォリオに何を新たに加えようとしているのだろうか。みずほ第一フィナンシャルテクノロジー投資技術開発部長の伊藤敬介氏は、①株式から債券へ、②国内資産から国外資産へ、③株式や債券といった伝統的資産からオルタナティブ(代替資産)へ──の3つのトレンドを列挙する。

 機関投資家のポートフォリオに偏りが見られるため、外国資産やヘッジファンド、コモディティといったオルタナティブへのシフトが引き続き図られているというのだ。
 
 運用手法にも変化の波が押し寄せている。冒頭で触れたように、これまでは分散投資によって基本ポートフォリオを構築した後は、リバランスで微調整する以外は同じ資産配分をひたすら維持するスタティック(静的)なアセットアロケーションが主流だった。しかし、分散投資一本やりの固定的な手法に限界を感じ、代わって機動的に資産配分を動かすダイナミック(動的)なアセットアロケーションが台頭した。

相場予想型とリスク制御型の動的アセットアロケーション

 このダイナミックアセットアロケーションは大きく2つに分類される。1つは短期的な相場観に基づいて資産配分を機動的に変えていく「相場予想型のダイナミックアセットアロケーション(タクティカルアセットアロケーション)」である。相場の上げ下げを正確に見通すのは難しく、予測能力のある優秀なマネージャーを確保しなければならないのが難点だ。

 もう1つは「リスク制御型のダイナミックアセットアロケーション」である。中長期的な運用が目的の機関投資家の間では相場予測を行うのではなく、リスクをコントロールするダイナミックアセットアロケーションを取り入れるケースが増えている。

 このリスク制御型のダイナミックアセットアロケーションには、先物取引を用いて相場の変動に応じ、機械的に株式のウェートを調整して、上昇相場にもある程度追随しつつダウンサイドリスクを一定の範囲内に抑える「ダイナミックヘッジ」や、基本ポートフォリオを複数用意し、目標リターンやリスク許容度の変化に応じて採用すべき基本ポートフォリオを機械的に変更する「戦略的リバランス」がある。

 「持続可能性を重視した運用を行うには、発生確率は低いものの、ひとたび見舞われると多大な損失を被るような『テールリスク』の回避がポイントになる。テールリスクを効果的に回避する手段として、『ダイナミックヘッジ』や『戦略的リバランス』を取り入れる機関投資家は徐々に増えている」と伊藤氏は指摘する。

 UBSグローバル・アセット・マネジメント執行役員運用本部長の竹治恭彦氏も「リーマン・ショックの時にあらゆる資産がほぼ一緒に下落したため、分散投資の有効性が疑問視されている。第2、第3のリーマン・ショックに備えて機関投資家はダウンサイドリスクをいかに抑えるかに着目している」と話す。

上昇局面にも追随するターゲットボラティリティ

 しかしながら、万能な投資手法はこの世には存在しない。それぞれ一長一短がある。これは、ダウンサイドリスクに強いダイナミックヘッジにも当てはまる。UBSグローバル・アセット・マネジメントのグローバル・インベストメント・ソリューション部ポートフォリオ・マネージャー、日野雄介氏は「ダイナミックヘッジは、ダウンサイドに強いものの、アップサイドに弱いのが欠点。どのタイミングでダイナミックヘッジを導入すればよいのか機関投資家が悩むことになる。ダイナミックヘッジの抱えるウィークポイントを見直したのが『ターゲットボラティリティ』である」と説明する。

 ターゲットボラティリティとは、ボラティリティ(変動率)の水準に応じて機動的にリスクエクスポージャー(リスクにさらされている資産の割合)を変えていく手法。例えばボラティリティがターゲットボラティリティより高い場合はデリバティブを駆使してリスクエクスポージャーを減らし、逆に低い場合は増やしていくことで下げ相場への耐性を維持しつつ、上げ相場では収益の獲得を目指す。ボラティリティを通じて市場動向を逐次組み込むことで、市場心理を反映した戦略となっている。

 2001年3月末から2011年3月末までの10年間のTOPIXにおける戦略別月次リターン分布では、5%の月次リターンを出した回数はダイナミックヘッジの8回に対して、ターゲットボラティリティは16回。ターゲットボラティリティが上昇局面にもきちんと追随していることがわかる。「デリバティブに精通した、経験豊富な人材をそろえた当社のノウハウが集約された戦略といえる」(UBSグローバル・アセット・マネジメント執行役員機関投資家営業本部共同本部長、年金営業部長の崔勇氏)。

 見直しという点では、時価総額加重のインデックスも挙げられる。債券の場合、時価総額の大きいところは借金が多いことを意味する。つまり、時価総額加重インデックスには自ずと借金が多い債券が偏っているというわけだ。ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント戦略マーケティング部長の山田俊一氏は「正確な資産評価は、時価総額だけで計ることは不可能だ。例えばハイイールド債券などは時価総額で判断すれば除外対象になってしまう」と述べる。

Part 2 インデックスの代替手法 新興国投資や戦略分散も

既存の投資手法を見直して新たな戦略として再設計

 時価総額加重インデックスに代わる手法として機関投資家の間で注目されているのがポートフォリオのリスクが最小になるように分散投資する「最小分散ポートフォリオ」や、利益や純資産などの企業価値で判断する「企業価値加重インデックス」である。ところが、「最小分散ポートフォリオや企業価値加重インデックスを取り入れる機関投資家も増えているものの、相変わらずポートフォリオの主役を務めるまでには至っていない」(ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント計量運用部長の内山雅浩氏)。

 最小分散ポートフォリオの弱点は機械的にリスクの低い銘柄を選定していくため、運用プロセスがブラックボックス化しやすいこと。業種やセクターの制約によって最適解が大きく左右されるのも難点だ。一方の企業価値加重インデックスには、割安な銘柄を集めたバリューインデックスと差異がないという批判もある。これが「最小分散ポートフォリオ」や「企業価値加重インデックス」があまり広がらない理由となっている。

 「最小分散ポートフォリオや企業価値加重インデックスのエッセンスは残しつつ、新しい戦略として再設計したのが『S&Pグローバル・イントリンシック・バリュー指数(S&P GIVI)』だ。もととなる指数には、S&Pインデックス・サービスが算出する『S&P GIVI』を使用。その特徴はボラティリティが激しい、いわゆるベータ値の高い株式銘柄から順に時価総額の30%に達するまで除外するというシンプルな仕組みで構成されていること。そして損益計算書や貸借対照表という会計情報を使って各銘柄の価値を算出する残余利益モデルを使って純資産以外の面も評価するようにしていることだ」(内山氏)。

エマージングやテールリスクが引き続き重要なキーワードに

 「エマージング(新興国)」や「テールリスク」も引き続きポートフォリオ戦略の重要なキーワードになっている。HSBC投信代表取締役社長の松田宇充氏は「先進国には実体経済以上の債務を抱えている国が多い。高齢化の進展も要素に加えると、経済成長のモメンタム(勢い)が高い新興国をポートフォリオから外すわけにいかない。なかでも注目しているのは新興国債券だ。いまリスクオンの流れによって新興国が加熱しているので、一度調整局面を経てから再び巡航速度で成長していくだろう」と見ている。

 ひとえに新興国といっても、その構成国はさまざまだ。インドや中国といったいまや世界に冠たる経済大国から、インドネシアやブラジルなどの資源国もある。「東京やニューヨークなど、遠く離れた拠点から新興国を見るのには限界がある。現地にいないと得られない情報も多い。当社は新興国のプロフェッショナルとして現地主義に徹している。キーとなる地域には運用拠点を構え、そこから現地情報を集めて運用に生かしている」(HSBC投信機関投資家営業本部本部長、阪口和子氏)。

 テールリスクに着目した運用戦略もある。バークレイズ・ファンズ・アンド・アドバイザリーでは、リーマン・ショックなどの金融危機や東日本大震災といった不測の事態に伴うテールリスクにも耐えた「Radar戦略」を提案している。Radar戦略は世界各市場の動向を予測し、収益を狙うグローバルマクロ戦略の一種で、バークレイズ・グループに所属する750名以上のアナリストによる調査情報をもとに、状況に応じてポートフォリオを迅速に変えていくのが強みだ。

 バークレイズ同部門のディスクレショナリー・ポートフォリオ・マネジメント統括責任者であるジェイソン・スミス氏は、テールリスクを回避しなければならない理由を説明する。「例えば1996年以降のダウ平均株価に投資した場合、上げ相場で最高の100日を逃した投資家の資産は99.7%減少し、下げ相場で最悪の100日を回避した投資家の資産は4万3000%以上増加したといわれるほど、テールリスクの影響力は大きい。テールリスクのヘッジは一筋縄にはいかないが、750名以上のアナリストによる経済・金融分析を駆使し、膨大なデータから真に市場動向に影響する要因を抽出するフィルタリングや、24時間の取引体制によって、テールリスクの回避と影響の抑制を目指している」。

 「ポートフォリオのなかに保険的なポジションを組み入れるべきだろう」と提唱するのはステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ専務取締役チーフ・インベストメント・オフィサーの高山秀樹氏だ。その代表例として金や原油といったコモディティを挙げる。「金は今般の欧州金融危機時にもリスク回避手段として明確に機能した。原油をはじめとするコモディティも伝統的な資産とは性格を異にするオルタナティブの1つとして重要だ」(高山氏)。

 運用戦略自体の分散も万一の保険になるという。「当社ではいずれ適正価格(フェアバリュー)に収れんするという考えに立った『フェアバリュー型戦略』と、ある一定方向に市場が動いている時にはトレンドが継続するという『モメンタム型戦略』を掛け合わせた多戦略型のヘッジファンド運用を用意している。上昇局面ではフェアバリュー型戦略が有効になり、逆に市場が混乱し一方的に動くような局面ではモメンタム型戦略が強みを発揮する保険的効果のある戦略となっている」と高山氏は話す。

 私募REITに着目するという動きもある。ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントの山田氏は「国内不動産はそろそろ底を打つと見ている。都内のオフィスビルで4.5%程度の利回りが望めるなど、REITのインカムは魅力的だ」と語る。

Part 3 新しいソリューション 戦略・リスクのマネジメント

マネージャーの選定から、マネジメントまですべて提供

 個別の資産クラスや運用戦略をポートフォリオに組み入れるのではなく、ポートフォリオ戦略そのものをマネジメントする動きもある。ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズの高山氏は「今まで機関投資家は希望する運用戦略を指定してきたが、最近の先行きが不透明で投資判断が難しい局面では運用会社に個々のニーズに合うカスタムメードのソリューションの提供を求めるようになってきた」という。

 ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント運用投資戦略部の小松高広氏も「これまで機関投資家の労力は、パフォーマンスの中核となるアセットアロケーションではなく、ファンドマネージャーの選定に割かれていた。欧州を中心にアセットアロケーションは外部に委託し、機関投資家は全体のマネジメントに徹するという役割分担の流れがある。この流れのもう一歩前進した仕組みがマネージャーの選定からマネジメントまですべて任せるトータルソリューションの提供だ」と語る。

 ソリューションという点で重要になってくるのが、リスクマネジメントだろう。ブラックロックでは1988年の創業来、高度なリスクマネジメントは資産運用の根幹であるとの哲学のもと、「アラディン」という運用フロント用の独自のリスクマネジメント・システムを開発。現在約280兆円のブラックロック全体の運用資産はアラディン上で一元的にリスク管理されている。2000年以降、大手機関投資家のニーズに応えて、運用業務と隔離された「ブラックロック・ソリューションズ」部門を立ち上げ、外部顧客にもアラディンを提供。現在までに自社を除いて約900兆円の事業に育っている。

 リーマン・ショック以降、マルチアセットのリスクマネジメント及びトレーディング・システムとしての需要が急増している。背景には、ソリューション・プロダクトを含めた昨今の顧客ニーズの高度化、複雑化、マルチアセット化に対応するための戦略的インフラ整備を急ぐグローバルな運用会社、保険業界の潮流がある。「それに伴った弊社システムの改良がより良いリスクマネジメントと運用につながり、お客様のお役に立つという好循環になればと願っている」(ブラックロック・ソリューションズ、アジア地域責任者の竹内章喜氏)。

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 ダイナミックヘッジや最小分散ポートフォリオ、企業価値加重インデックス──。ITバブルの崩壊を起点とした2000年以降の厳しい相場環境の中、機関投資家はあらゆる手法を駆使して運用目標の達成を目指している。しかし、いまだ機関投資家のポートフォリオ戦略には“これ”という正解は見つからない。今後もポートフォリオ戦略の正解を求めて、機関投資家、運用会社双方は知恵をこらしていく。