Advertisementアクサ・インベストメント・マネージャーズ
TOP > 注目記事 > 2013年度末での取引量倍増をめざす。
LIBOR金利先物の“復活”も

ユーロマネー日本語版2011年春号 注目記事

東京金融取引所 代表取締役社長 太田省三氏特別インタビュー

2013年度末での取引量倍増をめざす。
LIBOR金利先物の“復活”も

「金利」「為替」「株価指数」を柱に、金融デリバティブの総合取引所として着々と地歩を固めている東京金融取引所。代表取締役社長の太田省三氏に、「ホールセール専門の金利先物取引所」から「リテールを含む総合化」に舵を切った背景や今後の事業戦略を聞いた。
(聞き手:柴田哲也/取材日:2011年3月25日)

「くりっく365」が収益をけん引

──東京金融取引所は1989年、「東京金融先物取引所」としてスタートしました。
太田 1970年代の米ドルの変動相場制への移行および金利の自由化により、価格変動リスクを回避するための手段として、金融の先物取引が米国シカゴで開発されました。

 日本では1980年代以降の金利の自由化に伴い、円資産の本格的なリスクヘッジ手段への必要性が高まり、1989年に金融先物取引法が施行。それに基づき市場開設の免許を受けたのが東京金融先物取引所(現東京金融取引所)です。

──設立15年目の2004年には株式会社に転換し、それまでの「ホールセール専門の金利先物取引所」から「リテールも含めた総合化」に舵を切ります。ちょうどその頃、外国為替証拠金取引(FX)が個人の新しい資産運用商品として急浮上していました。
太田 相対取引(OTC)のFXは盛り上がりを見せていた半面、一部の業者によるトラブルが社会問題化していました。FX市場に対する規制強化と合わせて、公的取引所による取引所取引も始めるべきとの意見が強まりました。

 FXは、証券デリバティブではなく金融デリバティブの一種と位置付けられたため、当時、取引所取引を担えるのは東京金融先物取引所しかありませんでした。金融審議会からの提言を受け、当取引所の根拠規定である金融先物取引法の改正による規制導入を機に、公的取引所として健全なマーケットを創設するため、日本初の取引所為替証拠金取引「くりっく365」を上場しました。

──さらに2010年11月には株価指数証拠金取引「くりっく株365」を上場しました。
太田 2007年9月に金融先物取引法と証券取引法が統合され、金融商品取引法(金商法)が施行されました。従来は、株式などの有価証券は証券取引、金融先物は金融取引所というようにすみ分けていましたが、金商法施行をきっかけにその垣根がなくなり、互いに上場できる商品が証券現物・先物から金融先物まであらゆる金融商品に拡大されました。

 私の取引所の名称も、現在の東京金融取引所に変更し、金利と為替に加えて有価証券デリバティブ分野への参入をめざすこととしました。約3年間の準備期間を経て、2010年上場したのが株価指数証拠金取引「くりっく株365」です。

──現在の東京金融取引所の事業は「金利」「為替」「株価指数」の3本柱で成り立っていますが、実質的に収益をけん引しているのは為替です。2010年度の一日平均取引量は、ユーロ円3カ月金利先物などの「金利先物等取引」が約4万6000枚(取引単位は1億円/1枚)に対し、「くりっく365」はおよそ10倍の約47万2000枚(主要通貨ペアは1万通貨単位/1枚)です。
太田 世界三大通貨の金利先物を上場する先物取引所としては、ドルはシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)、ユーロはロンドンのライフ(Liffe:2001年にユーロネクストがライフを買収し、現在はユーロネクスト・ライフ)、円は東京金融取引所であり、1990年代初めの取扱高は3取引所間で大きな差がありませんでした。

 しかし、今ではユーロ円3カ月金利先物の取扱高は、ユーロドルの30分の1から40分の1に過ぎません。金利先物は中央銀行の金利政策に大きな影響を受けます。日本銀行の政策変更は緩慢で、金利改定は多くて年2回程度。長い間、超低金利が続き、先行きも見えないため、日本の金利市場はボラティリティがほとんどない状態が続いています。これでは金利ヘッジニーズが生まれない。

 実は、東京金融先物取引所時代の1989年から2004年までの15年間のうち3分の2の決算は営業赤字でした。取引所は出来高払いなので取引量が拡大しないと手数料が増えず、ビジネスとして厳しい。ヘッジファンドなどのプレーヤーが少ないという要因もありますが、金利先物だけでは取引所としての経営が難しい状態だったのです。

日本の短期金利市場は「死んでいる」

──低金利はいまだに解消の見込みが立っていません。
太田 2008年秋のリーマン・ショック後、今日では、日銀は政策金利の誘導目標を0 ~ 0.1%とする包括金融緩和政策を導入・堅持しています。

 さらに、2011年3月に発生した東日本大震災による金融市場の動揺を抑えるため、日銀は震災直後の14日、過去最高規模の15兆円の資金を即日供給しました。市場の資金量を示す日銀当座預金残高が過去最高の42兆円台に上っている状況下では、短期金利のマーケットはほとんど死んでいるといっていいでしょう。

──金利商品の見直しなどホールセール向けビジネスの強化策は?
太田 従来からいろいろな努力をしています。例えば、2007年12月には日銀が公表する短期金利を取引対象とした「無担保コールオーバーナイト金利先物」を上場しました。現時点では、政策金利自体にまったく動きがなく、ヘッジニーズがフリーズしている市場環境なので取引がありません。

 しかし、国債や借入金などを合わせた「国の借金」が900兆円を超えていることから、何らかの理由で、銀行などが大量に保有している国債の価格が変動し始めると、金利が大きく動くことが予想されます。「公的な取引所」である私たちは、将来に起こり得る金利上昇局面への備えを充実させておかなければなりません。

 ユーロ円3カ月金利先物については、マーケットメーカーを入れるなど取引活発化策を現在検討中です。将来的にはもう少し中長期の金利商品の開発も検討課題です。

 品ぞろえの充実という点では、かつて取引がないことから上場を廃止したロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の金利先物商品を“復活”する方針です。日本の銀行は東京銀行間取引金利(TIBOR)で貸出資産を持っていますが、外資系金融機関にはLIBORのほうが扱いやすい。以前の商品に改良を加え、2012年に再上場します。

──金融市場における重要なインフラにデリバティブ清算機関があります。クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)や金利スワップの清算業務への参入は?

太田 CDSは、言ってみれば、個別企業の債務不履行(デフォルト)を取引対象とする金融商品ですので、こうした個別銘柄の商品を扱わない東京金融取引所にはなじまないと思います。今のところCDSの清算(クリアリング)業務に参入することは考えていません。

 一方、2つの金融機関の間で取引される金利スワップのクリアリング業務については、当取引所は金利先物の専門家であり、経験もあるので大変興味があります。

 しかし、片方が外資系金融機関のケースにおいて、日本の清算機関を利用することが現実としてどの程度あるのか。世界のデファクトスタンダード(事実上の基準)は欧州系のLCH.Clearnetであり、連携をどんな形で進め得るかといった課題があります。クリアリング業務への参入には、手数料体系など、採算性の点でまだまだ検討の余地が多いというのが正直なところです。

──世界的に取引所の再編が活発です。東京金融取引所としてのスタンスは?
太田 ニューヨーク証券取引所を運営するNYSEユーロネクストとドイツ取引所の合併合意のように、一連の統合・再編は、既存の証券取引所と私設取引所(PTS)およびダークプールとの競争に端を発した、すぐれて証券取引所間の動きだと思います。東京金融取引所は金融デリバティブ専門の取引所なので、最近の統合・再編の動きとは直接関係しません。

 当取引所が他の取引所と合併することは考えていません。今後も「金利」「為替」「株価指数」を3本柱に、利便性の高いサービスを追加しながら全体の取引量を拡大し、金融デリバティブの総合取引所として市場活性化に貢献していきたいと考えています。

──理想の取引所像は?
太田 東京金融取引所の使命は、個人投資家をはじめ機関投資家やヘッジファンドなど、あらゆる市場参加者に魅力的な商品を提供することだと考えます。投資家ニーズに沿った使い勝手の良い商品を提供できれば、1400兆円ともいわれる日本の個人金融資産を背景に、貯蓄から投資の流れが出てきて、東京市場の活性化に役立つと確信しています。

 東京外国為替市場では、全体の取引高の約3割をFX投資家が占めるほどになっています。私たちが毎日公表している「くりっく365」の建玉動向は、世界の為替ディーラーも注目しているそうです。「日本のミセス・ワタナベの建玉はどうなっている? 買い残はいくらだ?」といった具合です。

 「くりっく365」は、東京金融取引所が、個人投資家向けに構成した画期的な商品だと思います。証拠金取引がこれだけ個人投資家に浸透している日本は、金融デリバティブの世界において、かなり先進的といえるのではないでしょうか。

「証拠金の共通化」を申し入れ

──「くりっく365」は他の所得と切り離して税金を計算する申告分離課税が適用され、税率は一律20%。一方、店頭FXは他の所得と合算したうえで課税額を決める総合課税で、特に高所得者は「くりっく365」を選択する傾向がありました。しかし、2011年度の税制改正により、2012年からは店頭FXにも申告分離課税が適用される方向です。「くりっく365」の優位性に影響はありませんか?
太田 「くりっく365」が20%の申告分離課税であるのは、商品や証券の取引所取引では申告分離課税が適用されていたため、当時の“税の論理”に従って為替の取引所取引にも同じルールが適用されたものであり、「くりっく365」が特別扱いされたのではありません。

 今回、税務当局が、「同種の金融商品には同一の税制を適用する」ということでFXも税制が一本化されるということでしょう。

 税制は税の論理に基づくもので、取引所ビジネスは、それを所与として、投資家に信頼できる商品を提供するということです。

──2008年度に策定した向こう3年間の中期経営計画では「2011年中の株式上場」をめざしていましたが、リーマン・ショック後の2010年4月発表の業務計画では「2012年以降」とされました。株式上場の時期の目安は?
太田 株式上場には2つの前提条件があると考えます。まず第一に、株式会社として収益が安定した事業基盤を確立すること。現在は「金利」「為替」「株価指数」の3つのエンジンのうち、「為替」のエンジンのみ活発に動いている状況です。3つのエンジンが順調に稼働するようにならない限り、投資家に「ウチの株を保有してください」とは申し上げ難い。

 もう一つが株式マーケットの環境です。株式の需給が悪いときに無理して上場することは適切とは言えません。第一条件で指摘したように「金利」や「株価指数」の商品で相応の取引が行われ、かつ株式マーケットが上向くのは、私が見るところ2013年以降ではないでしょうか。東京金融取引所の株式上場も、現実には、同年以降になると思います。

──今後の取引量の目標は?
太田 2008年度策定の中期経営計画では、全取引量を2010年度までに1億5000万枚にする目標を掲げていました。現時点では1億3500万枚程度で、同計画がリーマン・ショック前にまとめられた点を考慮すると、ほぼ達成したといえるでしょう。

 今後は、2013年度末までの3年間で、取引量を3億枚にまで増やすのが目標です。現在「くりっく365」の取引量は年間1億枚を超える程度。これを倍増させ、同時に「金利先物」と「株価指数」が伸びれば無理な数字ではないと思います。

 株価指数証拠金取引の「くりっく株365」は、いわば「くりっく365」にもう一つ通貨が加わったようなものですから、証拠金取引に慣れた方には受け入れやすいのではないでしょうか。将来的には、米国や新興国の株価指数を加えることも考えており、商品の拡張性にも優れているのが特徴です。

 課題はやはり金利でしょう。金利先物商品の取引が増えれば、「全体取引量を倍増させる」目標の達成に近づくはずです。

──「くりっく」ブランドの発展も取引量拡大のポイントですね。
太田 現在、当局には「証拠金の共通化」を申し入れています。「くりっく365」と「くりっく株365」の証拠金を共通化することで、同一の投資家が同じ証拠金で為替と株価指数の取引が可能になり、利便性が大幅に向上します。

 金融庁も必要性は理解してくれているものの、法改正が必要となるため、実現はもうしばらく先になると思います。証拠金が共通化できれば、「くりっく株365」の取引量はさらに拡大するのではと期待しています。