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J-MONEY2019年4月号 注目記事

Japan deals of the year

ディール・オブ・ザ・イヤー2018

2018年のベストディールを表彰する「ディール・オブ・ザ・イヤー」。金額規模や執行業務の鮮やかさ、資本市場に与えた影響といった点を基準に、全10部門からベストディールを選定した。(※データはディールロジック提供 ※ 対象となる案件はすべて公表ベース ※ストラクチャード・ファイナンス部門は該当ディールなし ※各案件の概要をまとめた囲み内の社名の並びは、ディールロジックのデータと各種データを基に編集部作成(一部順不同を含む))

M&A部門

ベストM&Aディール(OUT-IN)
クラリオンのフォルシアへの売却

 フランスの自動車部品サプライヤーのフォルシアは、日立製作所傘下のクラリオンに対し、完全子会社化を目的にTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表。日立製作所は、所有するクラリオンの全株式を売却することで合意した。クラリオンは、事業内容や戦略などにおいて理想的な補完関係にあフォルシアの子会社となり、自動車領域の競争力を高めて、フォルシアの新たなビジネスグループを創出する。

 日立製作所は、クラリオンが激変する自動車業界でさらなる成長と企業価値向上が期待できると判断。クラリオンとの戦略的協調関係は、公開買付け後も継続する。海外企業による日本の上場会社買収案件でありながら、デューデリジェンスプロセスの開始以降、公表まで6週間程度という短期間で実行した2018年の自動車業界M&Aの象徴的案件といえる。

ベストM&Aディール(IN-OUT)
武田薬品工業によるシャイアーの買収

 武田薬品工業(以下、武田)によるアイルランド製薬大手シャイアーの買収は、総額約815億米ドルと日本企業としては過去最高額のM&A案件となった。現金と株式交換を組み合わせた買収スキームにより、希少疾患(きしょうしっかん)と血漿(けっしょう)分画製剤に強みを持つシャイアーを傘下におさめた武田。社運を賭けたM&Aによってメガファーマー(巨大製薬会社)入りを果たす。シャイアーの株主は、買収の対価としてシャイアー株式1株当たり30.33米ドルの現金のほか、武田の新株式0.839株もしくは武田のADR1.678株を受け取れる。

ベストM&Aディール(IN-IN)
出光興産と昭和シェル石油の経営統合

 国内ガソリン需要の減少によって日本の石油業界は供給過多に陥り、価格競争による低マージン化が進行していた。また、ESGやSDGsに代表される環境対策やガバナンスに対する社会的要請の高まりを受け、エネルギー関連企業の置かれる環境は厳しさを増している。こうしたなかで、出光興産と昭和シェル石油の経営統合の狙いは、シナジー効果を創出することで競争力を高め、中長期にわたり企業価値を向上させることにある。

 合併を基本方針とする経営統合の基本合意は2015年に公表されたものの、出光興産の大株主である創業家が反対したことで長らく暗礁(あんしょう)に乗り上げていた。協議を重ねた結果、2018年7月にようやく創業家から合意を取り付け、株式交換による経営統合が実現することとなった。

 当初の想定よりスケジュールやストラクチャーが大幅に変更になったが、最終的に両社の強い意思が実を結び、2019年4月1日のクロージングを予定している。出光興産は、昭和シェル石油の発行済み株式のすべてを取得する株式交換を行う。

 2015年の本件公表後、ライバル企業であるJXホールディングスと東燃ゼネラル石油も統合に踏み切り、石油元売りは大手5社から一気に3社に集約されることとなった。業界再編のきっかけを創出した点でも意義のある案件といえよう。

株式部門

ベストIPOディール
ソフトバンクのIPO

 2018年12月19日、ソフトバンクグループの通信子会社ソフトバンクは、東京証券取引所1部に上場した。募集総額は、約2.4兆円のIPOとなり、国内の株式案件において過去最大の案件となった。

 これまでの過去最大の案件は、1998年のNTTドコモのIPOで約2.1兆円。また、グローバルのIPO案件を考慮しても、2014年のアリババグループの約2.7兆円に次ぐ規模の案件となり、グローバル投資家から大きな注目を集めた。

 同案件の執行された2018年の通信業界を振り返ると、政府からの携帯料金の値下げ圧力を強く受けており、NTTドコモが意向を汲んで値下げを発表するなど、市場軟化の逆風下にさらされていた。また、同社はIPO前に通信障害や中国通信機器最大手ファーウェイの問題など悪材料が重なった。

 こうした厳しい環境下に置かれつつも、過去最大の案件を執行できた点は評価したい。また、2018年のソフトバンクに次ぐ国内ディール金額は、メルカリの約1300億円。ソフトバンクは、他の追随を許さない圧倒的な規模を見せつけた。

ベスト株式公募・売出しディール
ヤクルトの約1400億円のグローバル売出し

 ヤクルトは2018年3月、2013年以降の国内消費財業界において最大となる約1400億円規模のグローバルオファリングを実施した。売出人のフランス食品大手ダノンが、ヤクルトとの新たな協業関係構築の一環で発行済み株の約15%(議決権ベース)を売却した。ダノンの保有株一部売却と同時に、ヤクルトは上限360億円の自己株式取得を実施。株主還元強化、資本効率改善、需給悪化懸念の払拭を図ったことが評価され、ブックビルディングでは国内リテールで約3倍、国内機関投資家で約2倍、海外トランシェで約10倍と旺盛な需要を集めた。受渡日の株価は募集価格対比で8.6%上昇し、その後も堅調な推移が続いている。

ベスト株式リンクディール
LINEのユーロ円建てCB

 2018年9月4日、LINEは金融とITを融合したフィンテックやAI(人工知能)を中心とした事業領域における付加価値の創出に向け、ユーロ円建てCB(新株予約権付社債)を起債した。調達した資金は、フィンテック事業の成長投資へ約1000億円、AI事業の成長投資へ480億円を投じる予定だ。

 海外募集と第三者割当のCBは、2023年9月満期の5年債と2025年9月満期の7年債をそれぞれ2本ずつ、計4本。第三者割当の引受先は、同社の親会社であるNAVER。両年限ともに、同社の成長投資を好感した投資家から旺盛な需要を獲得したが、翌日の株価終値は約5%の下落。とはいえ、総額約1500億円におよぶ資金調達は、2013年以降最大のユーロ円CB案件、インターネットセクターにおいてはグローバルで2018年2番目の規模だ。

債券部門

ベスト円建てディール
ファーストリテイリングの第5~8回無担保社債

 ファーストリテイリングが、2015年12月の初回債から約2年半ぶりに総額2500億円の無担保社債を起債した。5年債800億、7年債300億円のほか、歴史的な低金利環境を活かし、10年債で1000億円、20年債で400億円と低コストでの長期・超長期資金を厚めに調達する狙いを実現した。債券投資家との対話を重視し、透明性の高いプライシングと公平性の高いアロケーションを企図して、マーケティングにPOT方式を採用したのも大型シニア債では国内で初めての取り組みだ。ボリュームを考慮したガイダンスなどが好感され、中央・地方の両投資家から需要を獲得。小売セクターでの超長期の起債は、今後の社債市場を活性化させる意義が深いと評価する声も多い。

ベストインターナショナルボンドディール
武田薬品工業の2通貨同時でのグローバルオファリング

 武田薬品工業は2018年11月、ユーロ建てとドル建てのシニア債による公募発行を実施。本件による調達資金は、アイルランドの製薬大手シャイアーの買収に充てられる。ユーロ建て債は、2年固定/変動、4年固定/変動、8年固定、12年固定の計6本。米ドル建て債は年限が2年、3年、5年、10年の計4本(全て固定)。欧州市場は英国のEU(欧州連合)離脱をめぐる混乱、米国市場は景気指標の悪化を要因とする株式市場の急落など、世界的に不安定感が増すなかでも順調に需要を積み上げ、75億ユーロと55億米ドルの調達に成功した。

 これは非欧州系・米系企業によるユーロ建て債券の発行額で史上最大、日本企業によるドル建て債券でも史上最大の発行額だ。合併後の財務改善策などについて、投資家に丁寧に説明したことが旺盛な需要を創出した。

ベストサムライ債ディール
フィリピンによるサムライ債

 インドネシアが2017年、2018年と続けてサムライ債を発行するなど、昨今のサムライ債市場において、アジア地域の発行体による起債が活発だ。そうしたなか、2018年8月にフィリピン政府は約8年ぶりにサムライ債を発行した。当初は1000億円規模での調達を目指していたところ、生損保、都銀、地銀、信託銀行、投信・投資顧問会社など国内機関投資家からの幅広い需要が寄せられた。発行総額は1542億円と、アジアにおけるサムライ債発行総額の記録を更新するディールとなった。

 発行した債券は3年債(1072億円)、5年債(62億円)、10年債(408億円)の3種類。前回はJBIC(国際協力銀行)が保証し発行する形となったが、ここ数年でフィリピンの信用格付けは改善してきており、今回はスタンドアローンでの発行となった。

ベストカバードボンドディール
三井住友銀行のカバードボンド発行

 安定的かつ低利な資金調達手段として、海外では欧州を中心に金融機関のカバードボンド発行が普及している。今後、日本の金融機関によるカバードボンドに対する関心の高まりが予想されることから「ベストカバードボンドディール」を新設した。

 日本では、これまで法律上の課題などからカバードボンド発行が見送られてきた。しかし、三井住友銀行は2018年11月、RMBSを裏付けとした日本初のカバードボンドを発行した。発行額は10億ユーロ。日本にはカバードボンド法が存在しないため、信託社債スキームなどを活用した契約型ストラクチャーを構築。多様な投資家を呼び込む狙いから、年限はユーロ建てカバードボンドで最も需要が見込まれる5年を選択した。ムーディーズは三井住友銀行のカバードボンドプログラムに日本国債や発行体格付けを超えるAaa格を付与。最終的には約60投資家から約13億ユーロの需要を獲得した。本案件は、日本の金融機関の課題だった外貨の安定調達に向けたモデルケースになる可能性を秘める。