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「カウンターパーティリスク」に注意

アセットマネジャーズVol.4 注目記事

機関投資家のポートフォリオ戦略─「インフラ投資編」

ESGとの相性がよいインフラ資産
「カウンターパーティリスク」に注意

「脱国債」の受け皿として機関投資家のオルタナティブ投資が加速している。なかでも、長期のインカム強化を狙う投資家は、「インフラ・デット」「インフラ・エクイティ」に関心を寄せている。運用会社の担当者に2つの資産の魅力を聞いた。

公共色の強い資産が対象
安定したインカムに期待


マッコリーアセットマネジメント
営業本部
(マッコーリーインフラストラクチャーアンドリアルアセッツ)
マネージャー
倉田 千裕氏

 長引く低金利環境のなか、満期償還を迎える国債の代替投資先としてオルタナティブ資産に資金を振り向ける動きが加速している。なかでも、存在感を増しているのがインフラ投資だ。

 インフラ投資では、主に水道やガス、電力配送網、空港など日常生活や経済活動に不可欠なサービスを提供する事業に投資をする。公共色の強い事業を対象資産とする特性から、投資期間は長期にわたり相対的に流動性は低くなる傾向があるが、インフレ耐性が強く安定したインカムが期待できる。そのほか、伝統資産との相関は低く、ポートフォリオ全体のリスク低減につながるとの指摘もある。特に、「長期契約に基づき、安定的な収入の見通しが立つ」や「事業において独占・寡占的立場を確立している」インフラ資産のリスクは低い傾向があるという。


野村アセットマネジメント
アドバイザリー運用部
PEインフラストラクチャー&ストラクチャリングチーム
シニア・ポートフォリオマネージャー
寒河江 弥生氏

 マッコーリ―アセットマネジメントの営業本部(マッコーリーインフラストラクチャーアンドリアルアセッツ)マネージャーの倉田千裕氏は、「不動産やプライベート・エクイティ(PE)などに比べると、インフラの市場規模は小さいものの、資金流入のペースは早い。再生可能エネルギーなどにも投資をするインフラ投資は、 ESG(環境、社会、ガバナンス)との相性がよく、投資・事業運営の過程にESGを組み込むインフラマネージャーを投資家が採用する傾向があることもインフラ市場の拡大の一因と考えられる」と話す。

 一般的にオルタナティブ資産と言えば、不動産やヘッジファンドなどを最初に思い浮かべるだろう。インフラ投資は歴史が浅く、リスクの所在やリターンの源泉がわかりにくいなど、投資にはある程度の知見が求められる。

 野村アセットマネジメント アドバイザリー運用部 PEインフラストラクチャー&ストラクチャリングチーム シニア・ポートフォリオマネージャーの寒河江弥生氏は、「インフラ投資は、投資案件の構築にあたり公的機関や事業運営会社、建設請負業者など、複数の関係者と契約を結ぶため、カウンターパーティリスクが高くなりやすい。また、国・地域によって公共サービスの利用者数や事業運営に関わる法律が異なるなどインフラ投資は個別性が高い。投資をする際は、案件特有のリスクの見極めが大切だ」と強調する。


野村ファンド・リサーチ・アンド・テクノロジー
ファンド分析部
シニア・ファンド・アナリスト
鈴木 款仁氏

 他方、世界的にインフラ投資へのニーズが高いため、投資機会の減少を懸念する声も出始めた。野村ファンド・リサーチ・アンド・テクノロジー ファンド分析部シニア・ファンド・アナリストの鈴木款仁氏は、「投資案件に対する需要過多によりドライパウダー(待機資金)が積み上がっているのは事実。同時に、インフラ市場のプレーヤーは年々増え続け、案件取得における競争が激化しており、割高な案件も増えている」と話す。一方、世界のインフラ投資額は急拡大を続けるが、ドライパウダーはその数パーセントに過ぎないため、投資機会創出は十分可能であるとの見方もある。こうした状況のなか、適正価格で案件を開発または取得し、安定した事業運営をできるかどうか、運用会社の実力が試される局面と言えそうだ。

インフラ・デット

日本では、上下水道や発電への投資が人気

ソルベンシーⅡの影響で生命保険会社はデットを選好


アリアンツ・グローバル・インベスターズ
マネージング・ディレクター
投資戦略部長
インフラエクイティ部門
マーティン・エワルド氏

 一口にインフラ投資と言っても、返済義務のあるデットと返済義務のないエクティではリスク・リターンの特性も異なる。インフラ・デットは、基本的にインフラ運営企業の業績に関わらず、あらかじめ決められた契約条件のもと安定的にリターンを獲得できるケースが多い。そのため、低リスク・低リターンの資産と言える。一方、インフラ・エクイティは、企業の収益低下に伴い投資リターンが低下する可能性もある反面、事業の成長次第で高い収益が期待できる。インフラ・デットと比較すると、高リスク・高リターンの投資と位置付けられる。

 アリアンツ・グローバル・インベスターズ マネージング・ディレクター 投資戦略部長 インフラエクイティ部門のマーティン・エワルド氏は、「インフラ・デットとインフラ・エクイティで共通するのは、どちらもインカム強化とポートフォリオのリスク低減を求める投資家が採用している点だ。そのなかでも『ソルベンシーⅡ』などの資本規制の影響を受ける生命保険会社はインフラ・デットに向かうなど、機関投資家がそれぞれに抱える事情によって選択の傾向は異なる」と語る。

情報通信・医療関連施設など新たな選択肢も浮上

 ここ数年のインフラ・デットの市場の拡大には歴史的背景が関係している。従来、公共事業への貸し出しを担ってきた銀行は、2008年の金融危機以降、貸出余力が低下しており、公共事業者は長期の資金調達が難しい状況にあった。そこで、新たな資金提供主体の受け皿として、インフラデットファンドなどの組成が活発化しているという。

 デットの方が市場としての歴史が浅く、市場規模はエクイティの10分1程度だ。市場の成熟度の観点から欧州の機関投資家はインフラ・エクイティを好む一方、日本の投資家はリスクの低さからインフラ・デットを好む傾向がある。インフラ・デットのスプレッドの水準は、資産の特性や投資期間によって異なるが、「平均すると高格付けのデットでベンチマークとなる国債に対して80~150bp、格付けの低いデットで200~300bp程度で推移している」と話す市場関係者もいる。

 ほかにも、インフラ投資をめぐる機関投資家の動向に海外と日本では違いがあるという。寒河江氏は、「北米では有望な投資対象としてエネルギー関連資産に対する投資需要は高いが、日本では“エネルギー”という言葉に抵抗感を感じる投資家が多い。インフラ投資の経験値によって投資家のインフラ資産に対するニーズは異なるが、主に日本の投資家はコア資産とされる上下水道や発電などの公益インフラを検討するケースが多い」と語る。

 近年は、インフラ市場の拡大に伴い、投資対象資産の選択肢の幅が広がっているという。鈴木氏は、「例えば、情報通信関連のインフラ施設や病院などの医療関連施設などが新たな投資対象として注目を集めている。多少変わった投資対象として墓地などの例もある。選択肢が広がったことで、機関投資家の幅広いニーズに応えられるようになってきたが、PEや不動産投資との境界線が無くなってきているような印象もある」と語る。

インフラ・エクイティ

PEの運用枠のなかで採用検討が進む

投資家の引き合いが強い「コア」、「バリュー・アッド」


J.P.モルガン・アセット・マネジメント
機関投資家営業部
ヴァイスプレジデント
髙橋 悠氏(左)
オルタナティブ投資戦略室
インベストメント・スペシャリスト
白砂 肖明氏(中)
オルタナティブ投資戦略室
インベストメント・スペシャリスト
木下 敬大氏(右)

 「PEの延長として、インフラ・エクイティを位置付け、採用する機関投資家が増えてきている」(鈴木氏)。インフラ・エクイティは、キャピタルゲインを目的としたPEとは異なり、投資先の安定的な収益を裏付けとした配当がリターンの源泉となる場合が多い。PEより安定的な運用が期待できると評価する機関投資家は、PEの運用枠のなかでインフラ・エクイティ投資を開始しているようだ。

 一方、エワルド氏は、「低金利環境が続くなかで、債券を中心としたポートフォリオでは目標とするリターンの水準を達成することは難しい。こうした悩みを抱える投資家が、インフラ・エクイティに関心を持ち始めている」と語る。

 インフラ・エクイティが投資対象とする資産は幅広い。J.P.モルガン・アセット・マネジメントの分類によれば、インフラ・エクイティはリスク・リターンの特性によって、「コア」、「バリュー・アッド」、「オポチュニスティック」に分かれる(図表)。同社機関投資家営業部 ヴァイスプレジデントの髙橋悠氏は、「はじめてインフラ投資を検討する投資家や、安定したインカムの獲得を目的とする投資家などは、コアやコアとバリュー・アッドの中間に位置するコアプラスなど、比較的リスクを抑えた戦略から検討するケースが多い。例えば、コアやコアプラスに該当する資産として公益事業や契約の付帯した発電事業、空港などが挙げられる」と話す。

保有資産への追加投資で「高値づかみ」を避ける

 同社が提案するのが、リスク・リターンの水準が「コア/コアプラス」に位置するオープンエンド型の『インフラストラクチャー投資戦略』だ。同戦略では、独占的な規制環境により予想可能で安定したキャッシュフローを生み出す「規制資産」、長期契約により予測可能なトータルリターンが期待できる「長期契約に基づく資産」、収入に一定のGDP連動性を持つものの、各々の資産特性や契約によりリスクを抑制した「GDP感応資産」など、利回りの特性によってインフラ資産を分類し、それぞれにバランスよく投資することで、「17の投資先企業・11のセクター・世界の25カ国」(髙橋氏)をカバーする分散の効いたポートフォリオを構築しているという。

 同戦略の最大の特徴は、ミドルマーケット(中規模案件市場)に焦点を置きつつ、同社が保有する資産への追加投資により効率的な資本投下を可能にする「プラットフォーム投資」だ。オルタナティブ投資戦略室 インベストメント・スペシャリストの木下敬大氏は、「案件取得における競争が激しくなっており新規案件は割高な水準にある。当社は既に保有する資産を中核に据え、関連する事業や施設に追加投資を行うことで『高値づかみ』を避けて、競争が少ないプロセスで効率的に資産の成長を目指すことができる」と語る。

 同社以外にも、インフラ投資の戦略を提供する運用会社は存在する。どの運用会社をパートナーとするかは、パフォーマンスを大きく左右する。オルタナティブ投資戦略室 インベストメント・スペシャリストの白砂肖明氏は、「運用会社を見極めるポイントは、各社の投資哲学に加え、歴史や運用チームの安定性、独自案件を発掘できるネットワークなどが挙げられる」とアドバイスする。