企業は強気の投資計画を維持

角田 匠(信金中央金庫)
信金中央金庫
地域・中小企業研究所
上席主任研究員
角田 匠

世界経済の減速懸念が強まっているものの、国内企業は強気の投資スタンスを崩していない。2022年10月3日に発表された日銀短観9月調査によると、2022年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比16.4%増となった。

前回6月調査からは2.0%上方修正されている。新型コロナウイルス禍における供給制約の影響などで先送りされた案件が含まれているためだが、企業の設備投資意欲は依然として根強いものがある。

供給制約の緩和で設備投資に回復の動き

計画段階では高めの伸びが見込まれるものの、実際に計画通りに進捗するわけではない。2021年度も9月調査時点で前年度比7.9%増が見込まれていたが、実績は同0.8%減とマイナスだった。もっとも、昨年度の計画と実績のかい離は、コロナ禍における工事の遅れや供給制約に伴う部品不足が背景にある。

2022年度に入っても、半導体を中心とした供給制約の影響が尾を引いた。2022年3月末からは中国・上海のロックダウンに伴う部品不足も加わり、2022年4~6月期の設備投資は緩慢な回復にとどまった。

一方、工場建屋の建設は順調に回復している。2022年度に入ってからの工場着工床面積は前年比で3~5割増のペースで増えており、今後は機械設備の投資が進むとみられる(図表)。

【図表2】工場の着工床面積と機械設備等の投資額の前年比
工場の着工床面積と機械設備等の投資額の前年比
※機械設備等の投資額は実質GDPベース
出所:内閣府、国土交通省

実際、部品不足の解消を受けて投資財(除く輸送機械)の出荷は、2022年6月から水準を切り上げている。2022年度下期にかけて、設備投資は徐々に回復の勢いを高めていくと予想される。

設備投資は中期的な回復局面に

設備投資の回復に向けたリスク要因は世界経済の減速だ。世界経済が深刻なリセッション(景気後退)に陥れば、輸出・生産が下振れし、設備投資を先送りする動きが広がる可能性がある。

急激な円安進行も先行き不透明感を高める要因になっている。国際商品市況の上昇には歯止めがかかったが、円安で原材料コストは高止まりしており、企業収益が悪化すれば設備投資にも悪影響が波及しよう。

もっとも、企業の設備投資は中長期的な視点から計画されている。特に、コロナ禍で表面化した供給制約リスクや、米中対立を受けた地政学リスクが意識される中、企業はサプライチェーンの再構築を進め始めている。

また、循環的な景気変動に左右されにくいグリーン(GX)とデジタル(DX)に関連した投資需要も高まっている。

世界経済の減速や原燃料価格の高止まり、為替相場における不確実性の高まりなどから、設備投資計画の実行が再度先送りされる可能性は否定できないが、中期的にみれば設備投資回復の流れは維持されると予想している。