感染者急増も外出行動への警戒感は弱く

角田 匠(信金中央金庫)
信金中央金庫
地域・中小企業研究所
上席主任研究員
角田 匠

2022年の夏も新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた。2022年6月末頃から増え始めた新規感染者数は、同年7月20日に1日当たり20万人を超え、8月には多い日で1日当たり26万人台に達するなど感染が急拡大した。

ただ、今回は重症化率が低く、「まん延防止等重点措置」などの行動制限の発令が見送られたことで、これまでの感染拡大局面に比べて人流の減少幅は小幅にとどまっている。

2022年7月の個人消費関連指標は総じて堅調

新型コロナウイルスへの警戒感が薄れてきたことから、感染拡大局面における個人消費への悪影響も弱まっている。最近発表された2022年7月分の消費関連統計をみると、小売業販売額は前年同月比2.4%増と5か月連続でプラスとなり、家計調査ベースの実質消費支出は前年同月比3.4%増と2か月連続で増加した。

サービス関連では、7月の外食産業売上高が前年比14.5%増と8か月連続のプラス、かつ4カ月連続の2ケタ増となった。また、観光庁が集計している7月の日本人の延べ宿泊者数は前年同月比29.4%増加し、コロナ前の2019年7月の93%まで持ち直している。

一方、日銀が作成している実質消費活動指数をみると、2022年3月に前月比プラスに転じ、6月まで4か月連続で増加が続いた後、7月は前月比0.5%減と回復が一服した。ただ、2022年7月の指数は、回復の動きが広がり始めた同年4月とほぼ同水準で、感染拡大局面としては底堅さを保っている。

四半期ベースでみると、感染が沈静化していた2022年4~6月期に比べて7~9月期の個人消費の伸びは鈍化するとみられるが、これまで想定していたよりは感染拡大による下押し圧力は軽微にとどまる可能性がある。

年末にかけて個人消費は徐々に水準を切り上げる見通し

足元では新型コロナウイルスの感染は沈静化に向かいつつあり、秋頃には先送りされていた「全国旅行支援」が開始されるとみられる。観光庁は「感染状況が落ち着き次第、速やかに実施する」としており、年末にかけてサービス関連をけん引役に個人消費は回復の勢いを取り戻そう。

供給制約で停滞していた自動車販売も年末にかけて上向いてくる可能性がある。経済産業省が集計している製造工業生産予測指数をみると、輸送機械工業の生産実績は、ここ数か月当初計画を大幅に下回る状況が続いてきたが、2022年7月の生産実績は計画に近い水準まで回復している。

【図表】輸送機械工業の生産計画と実績
輸送機械工業の生産計画と実績
出所:経済産業省「製造工業生産予測指数」

夏場の感染拡大を受けて一部の工場では操業に必要な労働力が確保できないといった事情もあって、2022年8~9月の生産台数は伸び悩んでいるとみられるが、今後は半導体需給が徐々に緩和していく見通しで、年末にかけて挽回生産の動きが広がろう。

今冬も新型コロナの感染が再拡大する可能性は否定できず、物価高も消費マインドを下押しする要因となるが、年度下期はコロナ前の生活習慣を取り戻そうとする動きが個人消費回復の原動力になるとみている。供給制約の緩和に伴う自動車販売の回復も加わってくることで、個人消費は徐々に水準を切り上げていくと予想される。