金利上昇局面におけるクレジット投資を考える
金利上昇が激しい。2022年は景気回復と物価上昇により、金融政策の変更が必至であることを市場参加者なら全員わかっていたはずだが、想像以上にコストプッシュによる物価高が続き、その結果、金利上昇のスピードが加速している。
そうした状況を受けて米国金利上昇はついに75bpという幅に達した。欧州もロシアによるウクライナ侵攻を受けて景況感の悪化が激しいと考えられていた半面、物価上昇圧力を受けて金融引き締めモードにある。
一方の日本の金融政策は緩和一辺倒であるがゆえ、彼我の金利差に目を付けたヘッジファンドが日本国債市場に仕掛けに来たばかり。
こうした状況を拾うだけでも、物価高と金融政策、金利動向によって、金融市場がさかんに動かされていることがわかる。そうした中、バブルの崩壊は何によって起こるのかが再び焦点となっている。
そうなると金融市場における炭鉱のカナリア的役割を持つクレジット市場の煮詰まり感のチェックが始まるのが通例だ。
しかし、正直に言って現時点でのクレジット市場は依然健全な状況を保っており、カナリアは一向に鳴くのをやめていない。
クレジット・スプレッド見通し
クレジット・サイクルは終盤に差し掛かっている。
クレジット・サイクルとは図表1のようなもので、経済環境等に応じてクレジットは4つの局面を構成する。一般的に拡大期、後退期、修復期、回復期というサイクルを構成し、終盤とは拡大期の終了を意味する。
【図表1】クレジット・サイクル、イメージ図
こうした局面の転換点では、市場の変動は激しくなる。クレジットのリターンはマイナスかつ不安定となってくる。だが、ボラティリティが高いということは収益機会でもある。現時点での市場環境を見ると、ポジションがショートに傾いており、限界的売り手が底をつきつつあると見られる。
クレジット市場にはFRB(米連邦準備理事会)やECB(欧州中央銀行)などの中央銀行による利上げの見通しは織り込まれていると考えられるため、ここから中央銀行がどう出て来るか、が重要になってくると考えられる。
クレジット・スプレッドで言えば、ファンダメンタルズには変化がない中でスプレッド(上乗せ金利)幅が拡大しているのであれば、すでに十分なワイド化をしてきたと考えられるのではないか。
よって、ここからは、スプレッドのワイド化があったとしても限定的と考えられる上、むしろ当面はスプレッドには縮小余地さえあると言える(図表2、3)。
【図表2】米国IGスプレッド推移
【図表3】欧米クレジットのスプレッドイメージ
■米国
IG | HY | LL | |
---|---|---|---|
現行スプレッド(bp) | 140 | 460 | 484 |
予測スプレッド(bp) | 130 | 380 | 445 |
現行との差(bp) | -10 | -80 | -39 |
超過リターン(%) | -1.2 | 1.4 | -1.8 |
デフォルト率/格下げ率(%) | 0.8 | 1.1 | 1.3 |
回収率(%) | 86 | 30 | 65 |
損失率(%) | 0.1 | 0.8 | 0.5 |
損失処理後超過リターン(%) | -1.3 | 0.6 | -2.3 |
■欧州
IG | HY | LL | |
---|---|---|---|
現行スプレッド(bp) | 171 | 507 | 563 |
予測スプレッド(bp) | 140 | 410 | 465 |
現行との差(bp) | -31 | -97 | -98 |
超過リターン(%) | -0.6 | 1.4 | -0.6 |
デフォルト率/格下げ率(%) | 0.3 | 1.00 | 1.5 |
回収率(%) | 90 | 30 | 65 |
損失率(%) | 0.0 | 0.7 | 0.5 |
損失処理後超過リターン(%) | -0.6 | 0.7 | -1.1 |
クレジット・サイクル終盤で見られるスプレッド拡大は二つの段階で構成される。第一段階は中央銀行が流動性の吸収を進める中、流動性リスク・プレミアムが拡大する段階であり、第二段階では金融引き締めが経済に打撃を与え、デフォルト・リスク・プレミアムが拡大することになる、というステップである。
中央銀行は新型コロナウイルス危機に対応するため、数々の極端な政策手段を採用したが、そうした景気支援措置が続けられていた間、流動性リスク・プレミアムはマイナスであった。だが、流動性リスク・プレミアムはすでにプラスに転じ、こうした動きを反映してクレジット市場は高格付けクレジット、金融債、投資適格社債がアンダーパフォームし、欧州ではハイブリッド証券や公益債などECBの動きに敏感な数々の資産がアンダーパフォームする結果となっている。
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