2013年11月、電力システム改革を進める改正電気事業法が成立した。民間投資を喚起する安倍政権の成長戦略として期待される改革は、今後どのような市場展開をもたらす可能性を持つのか。NTTデータ経営研究所の佐久間洋氏に聞いた。

競争導入により高コスト構造の適正化を目指す

電力システム改革の目的を整理すると、「広域で電力を融通し合える体制の構築」と「発電および小売り部門への競争導入による高コスト構造の見直し」に集約されます。

東日本大震災の際、地域をまたいで電力融通を行うために必要な周波数変換所や連系線などの設備が十分な能力を有していないという問題が発覚しました。電力システム改革では、電力需給を全国規模で計画する広域系統運用機関を設立し、中立な立場で設備投資を進めることで、地域を越えた電力融通を実施しやすくします(図表1)。

コスト構造の適正化は、原子力発電の停止に伴う電力価格の上昇や発電コストの不透明さなどをきっかけとして議論が高まりました。発電および小売り分野に競争を導入するため、今後、次の3つの取り組みが政策として進められます。

1つが「送配電部門の法的分離」です。発電事業者や小売り事業者が、東京電力や関西電力などの一般電気事業者と対等な条件で送配電網を利用する環境を整備します。

2つ目は「小売りの全面自由化」。日本における電力小売りの自由化は2000年より段階的に行われてきました。現時点で参入可能な範囲は50kW以上の需要家に限られますが、2016年には一般家庭やコンビニなどすべての需要家に対して自由化されます。小売り事業者の競争を強化することは発電事業者間の競争にもつながり、コストの低減が進むでしょう。

3つ目が「市場を通じた電源調達・需給調整の拡大」です。日本で唯一の電力取引所である日本卸電力取引所(JEPX)で取引された2012年の電力量は日本の全小売り販売電力量の0.9%に過ぎず、取引所として十分に機能していません。JEPXの活性化や電力先物市場の創設などを通じて、競争を平等に行うために不可欠な市場機能を強化し、電力取引の流動性を高めます。