相次ぐ欧州金融機関の再編報道

中空麻奈
BNPパリバ証券
グローバルマーケット統括本部
副会長
チーフクレジットストラテジスト
チーフESGストラテジスト
中空 麻奈

2020年9月15日、クレディ・スイスとUBSが経営統合を模索、スペイン大手銀行のカイシャバンクとバンキアも統合を検討していると報じられた(SankeiBiz)。また、9月23日にはドイツ銀に再編意欲があること、UBSの合併相手候補の中で特に好ましい選択肢の一つとしてドイツ銀をあげていたことなどが伝えられている(ブルームバーグ)。これらは噂にすぎないのか、真に交渉の進展があるのか、は別にして、欧州金融機関では相次いで再編報道がなされていることがポイントである。

欧州金融機関はこの先本当に再編が続くのだろうか。

マイナス金利と欧州金融機関

欧州金融機関の経営環境は厳しい。リーマン・ショック後のギリシャを中心にした債務問題。その後導入されたマイナス金利もその一つである。株価もさえない(図表1)。

【図表1】主な欧州金融機関の株価

主な欧州金融機関の株価
※2015年1月1日を1として指数化、2020年10月23日まで
出所:ブルームバーグ、BNPパリバ証券

マイナス金利を欧州が採用したのは日本より2年弱早い2014年6月。中央銀行預金金利をマイナス0.1%に設定した。以降、9月デンマーク、12月スイス、翌2月スウェーデンもこれに続いた。

さすがにこのところは収益力の枯渇が目立ち始めたものの、欧州の金融機関がマイナス金利で苦慮しているという話は少なくともあまり聞かなかった。欧州の金融機関には日本より先に始まったマイナス金利を相殺、消化してきた面があったためだ。以下の3点が指摘できよう。

第一に、欧州の金融機関はもともとの金利がそれなりにあったことを受けて、マージンが確保できていたことである。少なくとも2%程度のマージンがあったため、マイナス金利導入により金利収入は減少したとしても、それなりののり代=耐性があったということになる。

第二に、リーマン・ショックやユーロ危機などの直撃があった間に、欧州金融機関はそれぞれ収益性を身につけるための特徴を確保することに成功していたことである。いくつか例をあげると、次のとおり。スイスUBSはウェルスマネジメントに特化し、金利収入より非金利収入のほうが大きい収益構造に変えた。英国HSBCはトランザクションバンキングを主として、手数料収入が入る仕組みを作り上げた。トランザクションがあるたびに、自動的に収入が入る仕組みを作れば、金利動向の影響を受けずに手堅い。リテールバンキングを主に志向した場合も、スペインのサンタンデール銀行は中南米に重きを置き、フランスBNPパリバはフランスにイタリア、ルクセンブルグまでをローカルエリアととらえ、さらに中東やアフリカに重点を移すリテール市場を拡大して捉える戦略をとった。金利体系や景気動向の違う地域にまでエリアを広げることで、金利収入の落ち込みのカバーを可能にした。

第三に、マイナス金利分の預金者等への転嫁は例としては少数ながらも、比較的スムーズであったことが指摘できる。2014年11月ドイツスカットバンクが300万ユーロ超の預金に0.25%のマイナス金利を導入、英HSBC等もこれに追随。2015年10月スイスオルタナティブ・バンクが個人の預金金利をマイナス0.125%に引き下げた、などである。もともと、日本人のモメンタムと比較すると、預金に対する口座管理料支払いをそれほど厭わない国民性もあるかもしれない。しかし、それでもカバーできない場合には、マイナス金利を法人向け預金に適用、中には住宅ローンにもそれを導入した銀行さえあった。

銀行同盟の動向から統合は国境を越え難い

とはいえ、だ。マイナス金利という荒療治は、短期間であれば収益力の低下をこれまでの蓄財で吸収することが可能かもしれないが、長期間に渡れば収益があがらない仕組みを根付かせ、金融機関にとっては大きな副作用をもたらすことには当初から懸念があったと言っても過言ではあるまい。欧州でも2016年8月に、ECB(欧州中央銀行)銀行監督委員会委員長のダニエル・ヌイ氏は「マイナス金利は欧州の銀行の収益を圧迫している」と述べた。これ以上のマイナス金利は金融機関の健全性や収益性を考えると適当ではないと主張し出した。

こうした経営環境の難しさが持続していることに加えて、より厳格な規制が次々と要求されていることもある。第一に資本増強が求められ、ROE(自己資本利益率)の減少を余儀なくされること、第二にベイルインルールが採用になり、ベイルイン導入債券をかなりの量、発行しなければならない、第三にマイナス金利導入により、マージンは圧縮傾向にあること、第四にIFRS(国際会計基準)第9号などの会計上の要請もあり、資産の質を改善する必要性が生じたこと、第五にコロナ禍に入って貸出を伸ばす必要性から不良債権の増大化には多少目を瞑る一方で、配当の停止などを余儀なくされていること、などである。

経営環境が厳しくなる中では一般論として統合・再編が進みやすい。しかも、欧州金融機関の場合は単一破綻処理やベイルインの仕組みが整ったことにより、前向きな合併を促すことになっている。こうしたことへの配慮からか、ECBはユーロ圏の銀行業界の問題解決に役立つような合併なら阻止しない、という考えを示すに至っている(2020年7月2日、ブルームバーグ)。

ただし、実は国境を跨いだ合併にはネックがある。銀行同盟はEU全加盟国の強固な枠組みを模索するもので、「単一監督メカニズムSSM(Single Supervisory Mechanism)」、「単一破綻処理メカニズムSRM(Single Resolution Mechanism)」、「預金保険制度DGS(Deposit Guarantee Schemes)」の三要素により構成される。ところが、このPillar3にあたるDGSは当初より共通化が難しいとされていた通りに、未だ完成していないのが実情である(図表2)。そのため、国を跨いだ大型再編、統合はなかなか進まないと見るしかない。結果、国内での金融機関の再編が中心となると考えられる。

【図表2】銀行同盟の3つの柱

銀行同盟の3つの柱

続く欧州金融再編

今後しばらくの間、欧州金融機関の統合話は次々浮上してくるであろう。しかし、従前よりコンセンサスとなっていた通り、特にスペイン、イタリア、ドイツ、フランス、イギリスなど中小金融機関が多い場合に多く見られる、ということになるのではないか。

なお、これら金融機関の統合については、特に債券発行体であれば投資妙味となることが期待されるうえ、クレジット市場にとってはポジティブに働くと考えられる。統合の結果、規模のメリット、効率性、収益性やTier2の金融機関が市場アクセスする機会が増えることなど、プラスとなるはずだからである。国内の金融機関統合が続いているうちは、金融機関当局も相応に慎重であることも想定される。こうした意味から、欧州金融機関の再編機運が高いことによって、欧州金融機関への投資警戒になっているとすれば、いかにももったいない。欧州金融機関の再編機運を、特に債券投資という観点からは、投資価値の発見に使うべきであると言える。

【特集】未曾有の運用難をどう乗り越える? アフターコロナの運用戦略