低ベータ・アノマリー、固有ボラティリティ(IVOL)・アノマリーなどの低リスク・アノマリー(LRA)、つまり、低(高)リスク資産のリターンが高(低)くなるアノマリー現象(よく知られた法則とは異なる動き)が市場で観察される。実務面ではこのアノマリーを利用した投資ファンドが作られ、一定の成果を上げている。本欄では、最近のLRA研究の興味深いアプローチを紹介する。

  • 低(高)リスク資産のリターンが高(低)くなるアノマリー現象
  • ファイナンス理論と統計的学習理論をうまく組み合わせる
  • 適切なリスク管理で、パフォーマンス向上に繋げることが可能

昼間は逆張り、夜間は順張りで切り替え

中村 信弘
一橋大学大学院経営管理研究科
金融戦略プログラム
教授 中村 信弘先生
(なかむら・のぶひろ)
1989年京都大学大学院工学研究科博士課程修了。MTBインベストメントテクノロジー研究所主任研究員を経て、2000年に一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授に就任。2007年より現職。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の委託研究など、投資戦略に関する研究を行う。日本金融・証券計量・工学学会2019年度JAFEE賞受賞

証拠金制約などのレバレッジ制約や機関投資家の場合、ファンド解約に備えて現金を保有しておかなければいけないなどの投資制約がある場合に、平均・分散アプローチのポートフォリオ最適性条件の議論から、市場均衡においては、各証券リターンのアルファに市場ベータのマイナス倍の線形依存構造が現れることが理論的に導かれる(※1)。このことから、市場ベータの大きさとは逆に賭ける投資戦略(BaB=Betting against Beta)が提案され、株式のみならず債券、為替、コモディディなどでも、この現象が観察されることが報告された。

最近、経済学者のヘンダーショット氏らは、夜間リターン(close-to-open)を分析すると、通常の状態、つまり、高い市場ベータ銘柄がリスクに見合った高い期待リターンを得る状態に戻っていることを、米国株だけでなく、ユーロ圏、アジア圏の株式でも観察できると指摘している(※2)。昼間はBaB、夜間はBoB(Betting on Beta = 市場ベータの大きさに通常通り賭ける投資戦略)のように切り替える投資戦略のバックテストを行うと、シャープ・レシオが年率5を超えるとの結果を報告している。24時間働けるならBaB、BoBを繰り返すことで高いパフォーマンスを上げることが可能かもしれない。

残差共歪度が小さいことが発生要因か

資産リターンの歪度(わいど)とは、資産リターンの3乗の期待値で計算される統計量である。負の歪度なら、これは過去に大きなドロー・ダウンを経験した資産によくあるパターンで、リターンの分布は下方に裾が伸びた形状になる。正の歪度なら、その逆だ。

最近、資産価格理論で注目を集めているのは、市場リターンに対する共歪度という指標だ。個別資産のリターンに対するCAPM(資本資産価格モデル)を拡張して、市場指数リターンの2乗まで入れた回帰式で、その回帰係数に現れるのが、個別資産リターンの市場指数リターンに対する共歪度だ。

経済学者のシュナイダー氏らの最近の研究によると、この共歪度リスクに投資家が気付き、リスクを回避するとすれば、CAPMで説明できないアルファは、負値の共歪度リスクプレミアムに、残差共歪度(CAPMで説明できない残差リターンの市場指数に対する個別資産の共歪度)、つまり、(個別資産の共歪度)-(CAPMベータ)×(市場指数の歪度)がかけられた量として表すことができることを理論的に示した(※3)

実証分析によると、共歪度リスクプレミアムは負であるため、この式から残差共歪度が負で絶対値の大きいものをロングすればよい。市場指数の歪度は短期では正になる時期もあるが、長期では負値で推定される。したがって、CAPMベータが小さければ小さいほど、残差共歪度が小さくなり、アルファが高くなる。このことが、低ベータ・アノマリー現象が生じる原因との主張だ。

実際に、日本株のバックテストで見てみよう。TOPIX500 銘柄をユニバースとし、残差共歪度で10分位に分割し、最も低い第1分位(等ウエイト)ポートフォリオP1をロングとする投資戦略を考える。図表1の左側は、東証1部全銘柄の全標本データ(2012年1月~2020年8月)を用いて、残差共歪度とアルファの関係を見た図で、残差共歪度が小さいほど、アルファが大きいことが分かる。図表1の右側は、2013年1月から2020年8月下旬までの期間で、取引コストを20ベーシスポイントとし、月末リバランスした資産価値の推移の結果(初期資産100) である。東証1部全銘柄のユニバースで、期待リターン13.6[p.a.(=毎年)]、標準偏差16.2[p.a.]、金利を0としたシャープ・レシオ0.839、累積リターン179.9[%][2013年1月31日~2020年8月28日]。各月の回転率の平均値20.1[%]。TOPIX ベンチマークでは、期待リターン7.05[% p.a.]、標準偏差16.1 [%
p.a.]、シャープ・レシオ0.439、累積リターン70.7[%]。P1(最小残差共歪度)分位は、その極値グループであり、残差共歪度は変動しやすいグループであるため、回転率が高くなっている。

図表1 日本株におけるバックテストの結果
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低ベータ株ではベータと指数ボラティリティに正の相関

経済学者のボローホーリッシュ氏らは、低ベータ・アノマリーに関して、市場ベータの確率的変動モデルに基づき、ベータ変動リスクプレミアムから超過リターンを獲得できる可能性を指摘した(※4)。市場指数の確率ボラティリティと低ベータ株式のリターンの相関が重要なカギになる量で、低ベータ株式はその相関が正で、高ベータ株式は負となることが導かれる。

実際、日本株で推定した結果は図表2の通りだ。ベータの確率的変動に対するリスクプレミアムは、確率的ベータと市場指数の確率ボラティリティ(SV)の共分散に比例する。図表2から、低ベータ株はベータと市場指数SVの相関が正であり、高ベータ株はその逆となる。低ベータ株の超過リターンは、ベータ変動リスクの対価として得られていることがわかる。

図表2 市場指数ベータとその市場指数確率ボラティリティとの相関

本稿では、低リスク・アノマリー現象を解明しようとする最近のアプローチをいくつか紹介した。ファイナンス理論と統計的学習理論をうまく組み合わせ活用することで、適切なリスク管理を行い、パフォーマンスの向上に繋げることが可能であることがわかる。

(参考文献)
※1:Frazzini, A., and L. Pedersen, “Betting against Beta,” Journal of Financial Economics.
111(2014), 1–25
※2:Hendershott,T., D. Livdan, and D. Rösch,“ Asset Pricing: A Tale of Night and Day,” Journal of Financial Economics, (2020)(to appear)
※3:Schneider,P., C. Wagner, and J. Zechner, “Low-Risk Anomalies?,” Journal of Finance,
(2020)(to appear)
※4:Boloorforoosh, A., Christoffersen, P., Fournier, M. and Gourieroux, C., “Beta Risk in the Cross-Section of Equities,” The Review of Financial Studies, (2020) (to appear)

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