年金資産運用・基礎の基礎 新シリーズ 【ヘッジファンド探究】第1回 今度こそ分かるヘッジファンド〜市場激動の今、改めて注目。戦略の仕組み徹底解剖
2022年4月にスタートした「年金資産運用・基礎の基礎」は2026年4月、好評のうちに5年目に突入しました。今月から新シリーズ【ヘッジファンド探究】が始まります。ヘッジファンドはオルタナティブ投資の中での「老舗」。一時期、プライベートアセットに押され気味でしたが、最近は海外先行で再び大きな注目を浴びています。しかし、戦略の特殊性などから「分かりづらい」と敬遠する機関投資家も少なくありません。そこで今回、「知っているようで知らない」ヘッジファンドを徹底解剖し、読者のみなさんに「今度こそ分かってもらう」連載を企画しました。講師は【プライベートアセット再整理】の山浦厚能さんから、同じラッセル・インベストメントに所属する河西正勝(かさい・まさかつ)さんにバトンタッチします。
本題に入る前に河西さん、簡単な自己紹介をお願いします。
河西 はい。私は三井住友信託銀行で長く企業年金のお客様を担当してきました。その中で直近数年ほどは、ヘッジファンドの調査や関連するポートフォリオの提案といった業務に専念してきました。そうした流れの中で、ヘッジファンドのソリューションビジネスの強化を進めていたラッセル・インベストメントに入社することとなりました。
欧米で再び注目、パフォーマンスも好調
そもそもなぜ今、ヘッジファンドが注目されているのでしょうか。
河西 やはり一番大きいのは、ヘッジファンドのパフォーマンスが回復しつつあることだと思います。米ドルベースではありますが、ヘッジファンド指数は3年連続でプラスとなり、2025年は10%を超える伸び率となりました。日本の投資家にとっては為替ヘッジコストの影響もありますが、それでも2025年度は良好なパフォーマンスで着地するヘッジファンドも多いのではないかとみています。一部のヘッジファンドマネージャーからは、「収益機会を見出しにくかった局面が終わりつつある」との声も聞かれるようになってきました。また、海外投資家向けの調査を見ても、一部ではプライベートアセットよりもヘッジファンドの投資を前向きに検討する結果も見られるようになりました。
市場の趨勢に抗して収益機会を伺う
ヘッジファンドのパフォーマンスが良かったり、大手機関投資家のお金が集まったりする理由は何なのですか。
河西 ヘッジファンドの定義は様々ですが、共通するのは自由な投資対象と手法を用いて絶対収益を目指す点だと思います。こうした自由度の高い運用を生かして、市場参加者がまだ気付いていない歪みを捉えたり、市場の流れを先んじて読んだりします。いわば人の通らない「裏道」で収益機会を見つける戦略と言えるかもしれませんね。足元では、市場の価格変動の高まりや様々な出来事の発生を背景に、こうした歪みや流れを捉える機会が増えてきた。そう考える投資家が増えているのだと思います。
私の認識では、ヘッジファンドは2010年前後からコロナ禍が始まった2022年ごろまでの間、鳴かず飛ばずだった印象です
河西 その通りだと思います。ヘッジファンドは、市場の歪みと流れの大小によって、収益を取りやすくなったり、そうでなくなったりすることがあります。特に、2010年代の後半頃は、グローバルな量的緩和で歪みや流れが抑えつけられ、収益機会を見出すことが難しい環境が続いていました。しかしコロナ禍後はグローバルに金利が引き上がったことで、状況は大きく変わっています。例えば企業の動きで見ると、金利は資金調達コストになりますので、金利が上がると、収益力が高い企業と脆弱な企業での差が広がり、その差がロング・ショートの収益機会となります。また、企業によってはこの難しい環境を乗り越えるために、社債の発行を増やしたり、M&Aを検討したりといった動きも見られます。こういった変化が収益機会になっていると考えられます。
かつての「四番打者」
この連載では2023年、【オルタナティブ編】の一環としてヘッジファンドを取り上げたことがありました。運用戦略の詳しい中身ではなく、概観を金武伸治さんにご説明いただいたのですが、そこでは次のようなポイントが示されていました。
- ヘッジファンドの歴史そのものは古く、1950年ごろに誕生
- 日本の企業年金に普及し始めたのはITバブルが崩壊した2000年代初頭
- 市場全体が下げ相場であっても利益が見込めるとの期待が背景にあった
- 最初に普及した戦略は、株式の買い持ちと売り持ちを併用する「株式ロング・ショート」
河西 阿部さんが指摘されていたように、2000年度から3年連続でマイナス運用が続いた時期を経て、市場リスクを軽減しながら絶対リターンを目指すヘッジファンドが注目されるようになりました。当時の日本の機関投資家にとっては、いわば収益追求の「四番打者」的な存在だったと思います。現在オルタナティブ投資には様々な選択肢があります。しかし、ヘッジファンドはショートを活用することで市場下落時の耐性を持つ点や、一定の流動性といった特徴もあり、その後も一定規模の投資対象であり続けています。
なぜヘッジファンドは分かりづらいのか
私はJ-MONEY Onlineでの連載「知りたい!隣の企業年金」で、50近くの企業年金を取材してきました。その中で、資産規模も大きく、運用責任者のキャリアも長いのに「ヘッジファンドには一切投資しない」と言明する基金がありました。「仕組みが分かりづらく、ブラックボックス的な部分が多いから」ということでした。同様の意見は他でも耳にします。このヘッジファンドの「分かりづらさ」はなぜなのですか。また避けられない構造なのでしょうか。
河西 先ほど、ヘッジファンドは人の通らない「裏道」で収益機会を見つけるとお伝えしましたね。人とは違った運用をしますので、やはりなじみのない投資対象や手法が話題に上がることが多くなります。それがこの「分かりづらさ」につながっている面もあると思います。また、この「分かりづらさ」は、投資の「手の内」を見せられない構造にも一因があります。例えば、株式のロング・ショート戦略の場合、株式の売り買いの銘柄を明らかにしてしまうと、それで値が動き、売買の「鞘(さや)」が小さくなってしまう恐れがあります。一方ヘッジファンドマネージャーから全ての銘柄の情報が開示されなくても、戦略ごとの配分や寄与度などの情報は開示されることが多いです。こういった開示されたデータを確認しながら、ヘッジファンドマネージャーが考える投資のストーリーを聞くことで、理解が深まります。市場の歪みはなぜ発生し、どのようなきっかけで解消されるのか。そうした視点で話を聞くことで、そのヘッジファンドの特徴も見えてくると思います。
現地調査をバーチャルに「中継」
昨今の中東情勢をはじめとして、これだけ世界経済が激動の渦に巻き込まれていると、ヘッジファンドの活躍の余地は拡大しているのだろうと想像できます。それだけに投資家側からすると、この「分かりづらさ」は何とか克服したい点ですね。
河西 先日、ある企業年金基金の運用責任者を当社が帯同し、ニューヨークでいくつかのファンドを現地調査していただきました。その方が後に「こうして実際に運用会社のオフィスを訪れ、運用者と面談して初めて、ヘッジファンドという戦略の仕組みが実感できた」と話しておられたのが印象的でした。
そこです。日本にいて、ヘッジファンドの説明を何度聞いても、もう一つピンと来ないのですよ。かといって、高い費用をかけ海外へ赴いての現地調査も簡単ではありません。まして、この円安ですから。そこで今回の連載では、河西さんにバーチャルに現地へ連れて行ってもらい、ヘッジファンドをデューデリジェンスする。そういった場面も随時織り込みながら、手触り感のある解説をお願いしたいです。
河西 これは結構大変そうですね。どこまでご期待に沿えるか分かりませんし、試行錯誤しながらとはなりますが、やってみましょう。
よろしくお願いいたします。次回以降、約1年をかけてざっくり以下のようなメニューでヘッジファンドを「探究」していきます。ご期待ください。
・ヘッジファンドの基本構造
・エクイティ・ヘッジ戦略
・イベント・ドリブン戦略
・レラティブ・バリュー戦略
・タクティカル・トレーディング戦略
・ヘッジファンドポートフォリオの構築
次回は「ヘッジファンドの基本構造」(仮)
■このシリーズは原則的に毎月1回、10日をめどにお届けします。第2回は2026年5月11日(月)の予定です
■質問や要望は下記フォームからお願いします。今後の連載に生かします
【解説】河西正勝(かさい・まさかつ)
ラッセル・インベストメント
プロダクト・ソリューション部 プロダクト ソリューション マネージャー
2026年、ラッセル・インベストメントに入社。主にオルタナティブ投資のプロダクトソリューションを担当。ラッセル・インベストメント入社以前は、三井住友信託銀行でヘッジファンドの調査や関連するポートフォリオ運用を担当した。ヘッジファンドに限らず、プライベートアセットや伝統資産も含めて幅広いアセットクラスのクライアント・サービスにも従事。
日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
【構成・執筆】阿部圭介
J-MONEY論説委員
1980年、朝日新聞社に入社。金沢支局で記者生活をスタート。整理部記者として紙面編集を担当。経済部記者として金融、証券、情報通信などを取材。経営企画室長、大阪本社編集局長、朝日ビルディング社長を経て2022年3月まで朝日新聞企業年金基金常務理事。2022年4月から現職














