第19回 グローバル・フィデューシャリー・シンポジウム インフレ時代、企業年金の「最適解」とは【阿部圭介レポート】
第19回グローバル・フィデューシャリー・シンポジウム(GFS)が2025年11月10日から12日までの3日間、東京・六本木のリッツ・カールトン東京で開かれた。野村グループがメインスポンサーで、国内外の年金運用関係者が集う最大級のカンファレンス。1日目はDC(確定拠出型)、2日目以降はDB(確定給付型)を中心に議論を深めた。多くのテーマに及んだが、全体を通して本格的なインフレ時代における企業年金の「最適解」を探る展開となった。注目すべきセッションの概要を紹介する。
選択肢を絞って「より良い選択」へ誘導
1日目の冒頭では「DCスポンサー・ラウンドテーブル」が行われた。DC事業者の担当者が「制度」と「運用」について各自の取り組みを説明、意見を交わした。終了後、各テーブルにファシリテーターとして加わった専門家が意見交換の概要を紹介した。
【制度面でのポイント】
- 厚生労働省が予定している企業年金の「見える化」には不安も。各社の事情が大きく異なる中で、給付や掛金について「横一線」で比較されると、加入者や受給者、そして世間一般に誤解される恐れがある
- DCだけでなく、給与や福利厚生などトータルで受益度合いを測るべき
- 投資教育などで「金融リテラシー」の向上が重要とされるが、このリテラシーをどう測定すればよいのか分からない
【運用面でのポイント】
- インフレへの耐性が弱い「元本確保型」の商品から、投資信託などへの誘導が大事との認識は共通
- しかし、「誘導」はなかなか困難。先進的な事業主では、運用商品のラインアップを絞り込むことで行動変容を促すケースも。その結果、元本確保型の選択が激減し、一方で投信比率が5割となった。「より良い選択」を促すために、あえて選択肢を減らしたのが功を奏した
- 運用商品の「除外」が今の制度上、非常に困難。商品のラインアップの変更を阻害している
加入者ニーズで変革続ける米国DC
DCセッションでは、米国やオーストラリアでの先進的な取り組みや、時代の変化や加入者ニーズに応える形で変革を続ける姿が紹介された。

米国DCの最大手の受託元であるフィデリティ・インベスメンツ(以下、フィデリティ)のマイケル・シャムレル氏は、同社が運営する2400万件超のDC口座のデータを基に解説した。米国のDCつまり401(k)は、1970年代半ばに初めて導入されて以来、米国の労働者のさまざまな退職貯蓄ニーズに対応すべく進化を遂げてきたという。その内容は多岐に渡るが、日本のDCの今後の発展に資すると思われるポイントとして5点挙げたい。
【米国401(k)カイゼン〜主な5つのポイント】
①自動化機能の拡大
フィデリティが受託する401(k)プランのほぼ半数で、従業員が入社すると自動的にプランに加入される。これによって、従業員は早くに老後資産形成を始めることができる
②ターゲット・デート・ファンドの利用拡大
ターゲット・デート・ファンド(TDF)は、若い頃はリスクの高い株式中心の運用で、目標時期が近づくにつれて低リスクの債券などの比率が高まる仕組み。フィデリティの受託口座で自動加入を設定するほぼすべての企業は、デフォルト投資先にTDFを選択する。資産全額をTDFに投資する従業員の割合は、口座全体で62%強。若い層では80%を超えるという
③キャッチアップ拠出
401(k)が福利厚生として一般的になる前に就職した一定年齢を超える従業員への救済策。米国政府は、こうした従業員の老後資産形成を支援するために7500ドルの追加拠出を許可。2025年には60歳から63歳に対して、さらなる追加拠出を可能とする制度が導入された
④退職後も企業のプランに資産を残す
ほとんどの従業員は退職時に401(k)から資産を引き出し、別の金融機関で投資を再開していた。しかし最近は、退職後も401(k)に資産を残すケースが増えている。事業主側も、従業員が退職後も運用の継続と資産の取り崩しを管理できるよう支援するプログラムを提供している
⑤401(k)資産を年金に転換
最近の法改正で、従業員は退職後に401(k)資産の一部を年金に転換することが容易になった。これによって金融市場の変動に影響されず、計画的に老後資産を受け取ることが可能になった
投資教育に関してマイケル・シャムレル氏は「年代や個人の属性に可能な限り合わせた内容が大事」と強調した。その上で、最近の特徴として「28歳以下のZ世代は老後資産形成への意識が高く、すでに行動に現れている。この層は多様な情報源を持っていること」を挙げた。
18歳以上は強制加入の豪州

オーストラリアのDC制度である「スーパーアニュエーション」について、クーンズランド州政府が全額出資するQICのカトリーナ・キング氏が、セッション2日目で解説してくれた。それによると、この制度には18歳以上の従業員が収入にかかわらず強制加入される。具体的には雇用主が給与の12%に相当する掛金を、給与に上乗せする形で拠出する。オーストラリアでは、DBが1割に対してDCが9割と非常に高い比率となっている。強制加入によって積立資産が潤沢であるため、非上場資産にも厚く配分できる。現状の平均資産配分は株式58%、債券21%、インフラ8%、不動産7%、現金7%となっており、実物資産への配分が15%と高いのが特徴だ。2024年の収益率は10%と好調。カトリーナ・キング氏は「スーパーアニュエーションは、非上場資産への配分を通じ素晴らしいインフレ耐性を示している」と述べた。
DBの存在意義かけて「給付改善」

第2日では、インフレ時代への対応を、運用や制度面でどう図るか多角的な議論が進んだ。
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