
宅森 昭吉
高市総理は10月21日の初閣議で「総合経済対策の策定についての内閣総理大臣指示」を出した。その中で、食料品を中心とした物価高が当面の景気下押しリスクとなっていることを指摘し、総合経済対策の柱の第一に、「生活の安全保障・物価高への対応」を挙げた。その中で足元の物価高に対しては、「重点支援地方交付金により、地域のニーズにきめ細かく対応します。厳冬期の電気・ガス代を支援します。国・自治体と民間の請負契約単価を物価上昇等を踏まえて適切に見直します。当分の間税率の廃止に向けた政党間協議を進め、制度実施までは燃料油激変緩和補助金の基金残高を活用します。「給付付き」税額控除の検討に着手します」と指示した。
高市総理は、自民党新総裁に就任した10月4日(土曜日)の記者会見で、「経済政策は政府と日銀が足並みを揃え、協力し合ってやっていかなければならないもの」だと指摘。その上で財政政策にしても、金融政策にしても、責任を持たなければいけないのは政府だ」と述べた。なお、高市総理から物価高対策として金融政策への言及はない。
10月4日を境に、高市総理のリフレ政策への期待からそれまでの1ドル=140円台後半のレンジから、1ドル=150円台前半のレンジへと円安が進んだ。かえって、米財務省の方から、10月28日、東京都内で10月27日に開かれた日米財務相会談で、ベッセント財務長官が「アベノミクス導入から12年が経過し、状況が大きく変化している」と指摘し、過度な為替レートの変動を防ぐために健全な金融政策の策定を求めたことを明らかにしたと発表され、注目された。
調査時期が2025年1月の、内閣府「企業行動に関するアンケート調査」で、輸出を行っている上場企業の採算円レート(全産業・実数値平均)は130.1円/ドルである。最近の円レートと比べると20円強の円高となっている。また、内閣府の「短期日本経済マクロ計量モデル(2022年版)」で為替レートを円の対米ドルレートが標準ケースと比べて10%減価し、その変化がシミュレーション期間中継続するものと想定、輸入物価が上昇し、その影響により内需デフレータが上昇する(民間消費デフレータは0.2%程度)。円安が物価上昇要因になっていることもあり、現在、日銀の利上げが注目される局面だ。
円安は消費者の購買する商品の値段を高めるというマイナスの面がある反面、輸出企業の利益にとっては、現在の採算レートと比較して円安気味の為替レートはトランプ関税の影響を吸収できるいうプラスの面がある。
日本経済研究センターが取りまとめている「ESPフォーキャスト調査」では特別調査として、日銀の金融政策を聞いている。10月調査(回答数38名)で25年12月末の日本の政策金利(現行0.5%)については、「0.5以上~0.6%未満」の回答が16名で9月調査(回答数38名)の19名から減少、「0.7以上~0.8%未満」の回答が22名で9月調査18名から増加、9月の金融政策決定会合で、政策金利の現状維持に反対し、利上げを求めた審議委員が2名出たことで、10月調査では「0.7以上~0.8%未満」と年内の利上げを予想する回答者が最も多くなった。
しかし、11月調査では7~9月期の実質GDPがマイナス成長になる見通し(11月17日に発表された第1次速報値・実績は前期比年率▲1.8%)が強まったことや、高市総理の金融政策に対する姿勢を考慮してか、「0.5以上~0.6%未満」の回答が20名で9月調査・10月調査より多く、「0.7以上~0.8%未満」の17名を上回った。
なお、11月調査での26年6月末の見通しは「0.7以上~0.8%未満」の回答が24名で最も多く、26年12月末の見通しは「1.0以上~1.1%未満」の回答が19名で最も多い。現時点では年内政策金利据え置き、来年0.25%幅の政策金利引き上げが2回実施されるという見方が民間エコノミストのコンセンサスになっている。

(注2)予測値分布は金利のレンジを表す。例えば「0.5~0.6」は「「0.5以上~0.6未満」の意味。
(注3)最多回答数の色が濃い。
(出所)日本経済研究センター「ESPフォーキャスト調査」から筆者作成。
「ESPフォーキャスト調査」11月調査で消費者物価指数(生鮮食品除く)前年同期比の予測値平均は、2025年10~12月期+2.55%、2026年1~3月期+2.08%と2%超になる見込みだ。但し、2026年4~6月期は+1.63%と物価目標の2%を下回り、2026年度の中では一番低い伸び率になりそうだ。重点支援地方交付金による地方自治体ごとにバラバラな物価対策の全国消費者物価指数に及ぼす影響はかなり不透明で、利上げ判断時期が4~6月期にズレ込むと、消費者物価指数の実績から利上げが難しくなる懸念があり、それを見越した過度な円安進展などが生じないか気懸かりである。







