コンサルタント活用やCIO招聘など、積極的に運用のプロに頼るべし

大学ファンドが、将来的に助成対象大学が独自基金を自律的に運用する未来を見据えているように、国際卓越研究大学を含む国内大学は、資金運用に積極的に取り組む必要があるだろう。その一方で、大学の資金運用は依然として安定志向が根強く残っており、運用高度化に向けた課題も多い。

大学経営協会「第10回大学法人における資産運用状況調査」では、国内大学が運用に関して感じている課題として「低金利環境下で十分な運用益が見込めない」「資金運用に精通した人材が学内で見当たらない」「資金運用に人員や時間を充てる余裕がない」などが挙げられている。文部科学省は、このような課題の解決に貢献するべく、大学の資金運用の高度化に関する調査を実施している。

文部科学省の令和5年度委託調査業務「国内大学基金の運用に係る学内体制等の調査研究 報告書」では、大学の運用高度化を進めるにあたって、学内関係者間で合意の上、「運用目的の設定・共有」、「人材・ガバナンス」、「リスク管理・モニタリング」、「基金規模・寄附金」の領域で図表2の内容に取り組むことが重要と示されている。

■図表2:「国内大学基金の運用に係る学内体制等の調査研究 報告書」の概要
国内大学基金の運用に係る学内体制等の調査研究報告書
出所:2024年7月開催「大学ファンド 大学基金運用フォーラム」文部科学省講演資料より抜粋

塚本氏は、「大学は本来、教育や研究のための機関であり、資金運用が主たる業務ではないことから、運用の目的を明確に定めてこなかった大学も少なくない。運用目的は『運用収益を在学生の奨学金原資としたい』『大学経営や設備投資・研究活動経費に充てたい』など三者三様だ。運用目的が固まれば、目標リターンやリスク許容度、投資対象資産、投資期間の方針も自ずと導かれる。運用に取り組む際には、まず運用の目的を明確化すること、そしてそれを学内関係者間でしっかりと共有することが肝要だ」と語る。

加えて鈴木氏も、「大学は教育・研究機関として社会的な責任が大きいゆえ、資金運用も財務的な利益の追求にとどまらず、大学の理念やミッションとの整合性も踏まえて設定することが望ましい。また、どの世代の学生に対しても公平に、実質的な資産価値を保つ必要がある点も大学における資金運用の特徴だ。永続的に資産を維持・成長させることが求められるので、数十年単位のタイムホライズンで成果を捉えるべきだ」と説明した。

日本ではまだ、大学と独立したかたちで寄附金運用を行うエンダウメントを持つ大学は少ないが、米国などの海外大学ではエンダウメントの歴史が長い。鈴木氏は、国内大学に共通する課題である「人材・ガバナンス」に関して、海外のある大学の事例が良い参考になると紹介した。その大学では、かつて学内に専任の投資チームを持たず、外部コンサルタントに全面的に運用を任せていたが、資産規模が大きくなったことで、投資チーム設置の必要性に駆られた。そこで、一人のCIOを招聘することからスタートし、CIOが理事会と投資委員会をスムーズかつ密に連携できる承認プロセスを確立。さらに、学内の投資チームとコンサルタントの役割を明確に分担したことで、現在はわずか4人の小規模体制ながら、約18億ドルもの資産を運用できているという。

「自家運用では個別銘柄を選定しなければならず、それなりに労力がかかるが、外部委託を活用すればファンドに投資するかたちになるので省力化が図れるだろう。国内大学は専任の運用担当者がおらず、ほかの業務と兼務しているケースが大半だ。ゼロから運用体制を整えるには、まず優秀なCIOを招くのが有効だと考える。CIOを採用するのが難しければ、コンサルタントなどの外部専門家を活用することから始めると良いだろう」(鈴木氏)。

なお、肝心なのは単に人員を増やすことではなく、運用の専門知識を有するプロフェッショナル人材を配置することだと鈴木氏は指摘する。ノウハウを蓄積しながら学内に運用体制を構築し、自律的な独自基金の運用を目指すのであれば、運用体制が未整備の段階からでもコンサルタントや外部運用機関を活用しつつ、徐々に人材や体制を整えていくアプローチが考えられる。そこからさらに先進的な運用を目指す場合は、コンサルタントの助言を参考にしながら、投資判断を学内で下す体制を強化していくことが必要だ。

ただし、いずれのケースでも最終的な責任はアセットオーナーにあるため、外部機関を活用するにしても、大学側が運用内容をしっかりと理解した上で意思決定を行わなければならない。学内で十分な人員や体制を確保することが難しい大学にとっては、運用業務全体を包括的に外部委託するOCIO(アウトソースドCIO)を利用する選択肢もある。実際、米国の大学では、資金規模の大きい大学は独自で運用を行い、中規模の大学はコンサルタントを活用し、小規模の大学はOCIOを活用する傾向が一定程度みられるという。

オルタナティブ投資の「リターン平滑化問題」に注意

エンダウメント運用は一定のペイアウト(支出)はあるものの、年金運用と異なり負債がないため、ある程度低い流動性を許容できる。この特徴を活かし、海外大学のエンダウメントでは、オルタナティブ資産への投資比率を高めており、中にはポートフォリオの50~80%をオルタナティブ資産で構築する大学もある。

■図表3:海外大学のエンダウメント(寄附基金)運用の歴史
海外大学のエンダウメント運用の歴史
出所:川原淳次『大学・財団のためのミッション・ドリブン・インベストメント』より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
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図表3の通り、米国大学のエンダウメントの歴史は長く、1900年代は保守的な運用が主流であった。1970代頃からインカム収益に加えキャピタル収益も含めて評価する「トータルリターン志向」へと転換し、1980年代以降はオルタナティブ資産の積極的な組み入れが進んだ。その中で誕生したのが、高いリターンを狙いながらポートフォリオの分散効果を高める「イェールモデル」である。長い時間をかけて体制や運用手法を高度化していった経緯が窺えるだろう。

オルタナティブ投資は比較的高いリターンが期待できる一方で、投資にまとまった金額が必要となる場合が多く、他にも商品特性が複雑で、ファンド選定やリスク管理が難しいといった側面もある。それなりの準備をしてから運用に臨むのが賢明だ。現在、日本の多くの大学は満期保有債券への投資を中心とした低リスク運用を実施しているとみられるが、一足飛びにオルタナティブ投資に踏み込むのではなく、保有債券の償還金や追加の投資資金を用いて、段階的に株式やオルタナティブ資産に移行するのが現実的なステップとなりそうだ(図表4)。

■図表4:目標リターン水準に応じたポートフォリオ、ガバナンス・運用体制とその高度化イメージ
目標リターン水準に応じたポートフォリオ、ガバナンス・運用体制とその高度化イメージ
出所:各大学公開資料より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
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ここで鈴木氏は、特に流動性の低いプライベート資産のリスク評価には注意が必要と警鐘を鳴らす。

「プライベート資産の多くは市場価格が存在しないため、価格変動が即時かつ客観的に反映されにくい。また、四半期や年に一度といったタイミングで評価額が算定されるため、観測されるリターンは均されることになる。その結果、過去のリターンとの相関が高くなり、実態よりもボラティリティが低く見える可能性が指摘されている。この『リターン平滑化問題』は海外のエンダウメントやオルタナティブ投資に強みを持つ運用会社の間でも課題として認識されており、『非平滑化』と呼ばれる統計的手法を用いて、観測リターンの平滑化効果を取り除く方法が研究されている」(鈴木氏)

「海外のエンダウメント事例を見ると、オルタナティブ資産への投資比率が高く、非常に大きなリスクを取っているように映るかもしれない。しかしそれらは、緻密なリスク評価・分析と、徹底したデューデリジェンス、戦略的なポートフォリオ設計に基づいたものである点は強調しておきたい。表面的なリスク・リターンに惑わされずに、本質的なリスクを適切に見極めた上でオルタナティブ投資に臨んでほしい」(鈴木氏)

続けて鈴木氏は、「“運用高度化” という言葉はよく聞かれるものの、単に、高いリターン目標を掲げて大きなリスクを取ることが“高度な運用” ではない」と力を込める。目標リターンは、あくまでも各大学の財務状況や運用の目的、体制の成熟度を踏まえて設定されるべきものだ。

設定した目標に対して適切なポートフォリオを構築し、投資対象や運用手法を十分に理解した上で投資を実行する。投資開始以降も継続的にモニタリングと評価を行い、改善を図っていく──。こうした一連のプロセスを遂行できる学内体制を整え、運用の知見を高めていくことが「高度化」の本質というわけだ。大学の資金運用は、“あるべき姿” が一律に存在するわけではない。

大学ごとに目標やリスクを考慮して独自の運用モデルを築くことが今後ますます重要になるだろう。