年金基金や金融機関などと同様に、アセットオーナーとして注目されているエンダウメント(大学の寄附基金)。市場環境の変化に加え、10兆円規模の大学ファンドの創設が追い風となり、大学の資金運用は転換点を迎えている。運用高度化の実現に向け、いま何が求められるのか。政府、運用コンサルタント、大学関係者に聞いた。

国立・私立を問わず、多くは安全資産中心の低リスク運用を実施

塚本満氏
文部科学省
研究振興局
大学研究基盤整備課 資金運用企画室長
塚本 満

近年、大学における資金運用の重要性が高まっている。従来、国内大学の収入は学生納付金に加え、国からの運営費交付金や補助金に大きく依存していたが、それだけでは、諸外国との競争の中で大学の長期的な運営や研究体制の構築が困難になりつつある。さらに、インフレによって資産の実質的な価値が目減りする懸念も大きく、資金運用を通じて安定的かつ自律的な財源を確保しようとする動きが進んでいる。

余裕金の運用に関しては、国立大学と私立大学を含む学校法人で法的枠組みが異なる。まず国立大学法人の場合、運用可能な範囲は原則として、①国債、地方債、政府保証債その他文部科学大臣の指定する有価証券、②銀行や文部科学大臣の指定する金融機関への預金、③信託業務を営む金融機関への金銭信託と、いずれも元本保証のある安全資産に限られる(国立大学法人法第35条の2において準用する独立行政法人通則法第47条)

ただし2017年度からは文部科学大臣の認定を受けた国立大学に限り、公的資金に該当しない寄附金などの自己収入については、元本保証のない金融商品にも投資可能となった(国立大学法人法第33条の5 、指定国立大学は認定不要)。認定基準は、学内のガバナンスやリスク管理体制の整備状況などにより、第1(下位)から第3(上位)に分類され、それぞれで投資可能な金融商品が定められている。第1区分は、貯金や決済用の外貨預金など元本毀損リスクが低い安全資産のみ。第2区分は、第1区分の金融商品に加え、外貨預金(為替差益目的など、決済用以外)や投資適格債などを含む。第3区分なら、より多様なリスク資産に投資可能だ。

また、外部機関へ運用委託する際の認定基準となる第4区分は、第4の1(下位)と第4の2(上位)に分かれる。例えば、神戸大学は国立大学で初めて第3および第4の2の認定を得たことを公表している。

一方、私立大学を含む学校法人は、寄附行為や関連諸規程などに則って各学校法人の責任で運用を実施できる。ただし、過去にはリーマン・ショック後の混乱を受けて、元本が保証されない金融商品へ投資する際はその必要性やリスクを十分に考慮し、特に慎重に行うべき旨の学校法人運営調査委員会の意見が文部科学省から通知された。

これに対して、文部科学省 研究振興局 大学研究基盤整備課 資金運用企画室長 塚本満氏は「通知はあくまでも資産運用に関する注意を喚起する意図であり、リスク資産への投資を禁止するものではない。学納金や寄附金といった大切な原資を用いる以上、投資の必要性とリスクを十分に考慮して判断してほしい趣旨だ」と説明する。

みずほリサーチ&テクノロジーズ 年金コンサルティング部 マネジャーの鈴木麻悌氏によると、私立大学は高い目標リターンを設定し、積極的にリスクを取る大学と、そうでない大学に分かれる傾向があるという。国立・私立を問わず、大半の大学は安全資産を中心とした低リスク運用にとどまっているのが現状のようだ。

みずほリサーチ&テクノロジーズ
みずほリサーチ&テクノロジーズ
年金コンサルティング部 マネジャー 立石 奈津美氏(写真左)
マネジャー 鈴木 麻悌氏(写真中央)
シニアコンサルタント 吉村 礼氏(写真右)

大学基金の運用の指針となる運用モデルを示すのも大学ファンドの目的

将来的な学生納付金の減少、インフレや金利動向といった市場環境の変化に加え、近年、大学の資金運用に対する関心が高まっている理由として大きいのが、政府が創設した大学ファンドの存在だろう。

大学ファンドは、 世界と伍する研究大学の実現に必要な研究基盤の構築を長期的・安定的に支援する財源を確保することを目的に設立された10兆円規模のファンドだ。大学ファンドは国立研究開発法人科学技術振興機構の下に設置されており、その運用益から、文部科学省が認定した「国際卓越研究大学」および博士課程学生支援の対象となった大学へ、毎年3000億円を上限に助成される。

「国内大学は研究論文数などの面で、国際競争力が低下しているが、その背景の一つには財務基盤の脆弱さがあると考えられる。欧米の主要大学が数兆円規模の独自基金の運用益を活用して、研究基盤や若手研究者への投資を充実させている。これに対して、日本の大学は独自基金の規模が小さく運用体制も十分に整っていないため、研究基盤などへの投資の充実に繋がるような運用収益の獲得が難しい状況だ(図表1)。こうした資金力の差を、公的資金を活用した仕組みで補うべく大学ファンドが創設された」と塚本氏は明かす。

■図表1:欧米主要大学と国内大学の基金規模
欧米主要大学と国内大学の基金規模
出所:各大学HPなどに基づき文部科学省が作成した資料をJ-MONEY編集部が加工
※海外大学は2019年数値、国内大学は2020年度数値

また、国際卓越研究大学に対しては大学ファンドから単に資金を助成するにとどまらず、将来的には各大学が独自基金を保持・運用できるよう、自律的な体制の構築を促している。具体的には、最長25年間にわたる助成期間中に、各大学が持続的な成長のために必要な運用益を生み出せるだけの規模の独自基金を造成することが要請されている。大学にとっては資金運用の実践と組織体制の強化を同時に進める機会になるはずだ。各大学にとっての資金運用の指針となるような運用モデルを示すことも大学ファンドの目的の一つとされている。

大学ファンドは2022年3月の運用開始以来、累積収益額は1兆1308億円に達し、収益率(時間加重収益率、運用手数料等控除前)はプラス9.6%となった。2024年度に国際卓越研究大学として認定された東北大学に対しては、2025年2月に約154億円の助成が行われた。今後は、2026年度末までに年3000億円の運用益を達成、さらに2031年度末までに基本ポートフォリオを構築することを目指している。

「2024年度の運用益は既に2560億円に達しており、目標まで残り400億円ほどだ。この運用益は、利子や配当、株式の売買益といった実現益から構成されている。基本ポートフォリオの構築に向け、大学ファンドが株式やオルタナティブ資産の構成比率を高める方向であることを制度面で支援していく予定だ。また、基本ポートフォリオ構築後は、『支出目標率3%+物価上昇率以上の運用収益率』を運用目標とする。収益率の過年度実績としては、2023年度はプラス10%、2024年度はプラス1.7%で平均すると5.85%を記録しており、将来的にも十分達成可能な水準とみている」(塚本氏)。

政府が推進する「資産運用立国実現プラン」の取り組みの一つとして策定された「アセットオーナー・プリンシプル」では、大学ファンドおよび資産運用を行う学校法人もアセットオーナーとして例示されている。受益者の最善の利益を考慮して、資産を運用する責任を果たすとともに、適切な体制整備とリスク管理が求められている。