令和の米騒動と130円までのドル円相場急落の可能性
- 令和の米騒動が日銀の金融引き締めを後押しか
- 狂乱物価における過剰流動性と市況商品の急騰
- 先物投機が引き起こした令和の米騒動
- 適合的期待形成による物価安定は続かない
- 1ドル=130円程度へのドル円相場の急落局面
令和の米騒動が日銀の金融引き締めを後押しか
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梅本 徹
日銀は、金融引き締めのギアを一段シフトアップした模様である。筆者は、その背景に、令和の米騒動が少なからず関連しているように感じている。ドル円相場は、2025年2月第1週に5円近く下落した。1ドル=150円近辺には、テクニカルに重要なサポート要因が散在しており、ここをブレークすれば、中期的には1ドル=130円までの下落局面が期待される。
狂乱物価における過剰流動性と市況商品の急騰
1970年代の狂乱物価を振り返ると、オイルショックによる原油価格の上昇や日本列島改造論を受けた公共投資急増による好景気に加えて、ニクソン・ショック直後の平価維持のための非不胎化介入による過剰流動性の発生もその要因と分析されている。
一方、物価上昇のプロセスを見ると、当初川上で散発した一部の市況価格の高騰が、しだいに卸売物価全般に波及し、ついには広範な消費者物価の上昇に広がったとの指摘がある。
先物投機が引き起こした令和の米騒動
この観点から、昨夏(2024年)以降の需給ひっ迫を伴わない米価の急騰は大変示唆に富んでいると言えよう。
2024年8月13日には、大阪の堂島取引所(ODEX)において、コメ指数先物が上場された。先物市場は、証拠金によるレバレッジを通じて、少額の資金で大量の取引を行うことで知られている。一方、コメの現物は、政府による需給調整が行き届いており、しかも量的緩和による過剰流動性と超低金利の中では、非常に限定的な数量の買い占めとコストで、価格操作を行うことが可能と推察される。
このような中、先物と現物の通じた投機的な取引によって、昨夏来の米価の急騰が人為的に引き起こされた可能性を完全に否定することはできないのではないか。
コメが生活必需品である点において、消費者需要を通じて、“コメバブル”は、1636~37年のオランダにおけるチューリップ・バブルより容易に発生したと考えることができる。為替市場と比較すれば、農水省の備蓄放出が財務省の為替介入に対して機動性を欠いていたことも、米価の高騰に拍車をかけた可能性がある。
適合的期待形成による物価の安定は続かない
図表は、1970年以降の実質米価(コアCPIでデフレート)とマネタリーベース(兆円、対数目盛)をプロットしたものである。
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図表からは、昨夏以降のコメバブルが、1970年代の狂乱物価時をはるかに凌駕していることが窺える。加えて1970年代前半、2000年代前半、2010年代後半のマネタリーベース急増後に必ず実質米価の急騰が観察されることは非常に興味深い。また、1993年の米価急騰に先立っては、1991年以降政策金利が8%台から3%台まで大幅に引き下げられている。
冒頭の1970年代の考察を踏まえ、昨夏来の米価の急騰を、量的緩和による過剰流動性と超低金利が生み出した将来的なハイパーインフレの危険なシグナルの一つと見れば、日銀が2024年12月公表の「金融政策の多角的レビュー」の中で指摘した適合的期待形成による国内物価の上方硬直性がいつまでも継続する保証はないと考えられる。
1ドル=130円程度へのドル円相場の急落局面
1949年3月から2024年12月を観察期間として算出されたドル円相場の購買力平価は現在1ドル=98円となり、名目ドル円相場(1ドル=154円)の購買力平価からの乖離率はプラス57%と実にニクソン・ショック以前の1949年以来の高水準となっている。
日銀の量的緩和と米国の好景気による日米金利差の拡大と投資家のリスク許容度の増大は、円キャリートレードを通じて、名目ドル円相場の急騰をもたらした。一方、日銀の量的緩和や円安にも関わらず、日本の物価の安定によって購買力平価が円高水準を維持していることが、両者が大きく乖離している背景である。
今後、コメバブルのような商品市況の散発的な急騰が物価全般の上昇に広がり、日銀が金融引き締めを加速する一方、就任から100日間のいわゆる「ハネムーン期間」後にトランプ政権への先行した期待が急速に縮小し、政策の失敗が米国景気の後退懸念を引き起こした場合、日米金利差の縮小、投資家のリスク許容度低下による名目ドル円相場の急落と購買力平価の円安シフトが同時に招来され、両者の乖離は急速に縮小する公算が高い。筆者は、本年中に1ドル=130円程度へのドル円相場の急落局面の到来を予想している。