24暦年の実質賃金・前年比はマイナスになったとみられる
1月9日に公表された毎月勤労統計11月速報値の実質賃金・前年同月比は▲0.3%で4カ月連続マイナスになった。12月景気ウォッチャー調査で「実質賃金」関連現状判断DI(業況判断指数)を計算すると0.0と厳しい数字になった。
毎月勤労統計によると、2024年1月~11月速報値の11カ月で、実質賃金の前年同月比がプラスになったのは、夏のボーナスが高い伸び率となった6月・7月だけで、残りの9カ月は前年同月比マイナスだった。
12月はボーナス(特別に支払われた給与)の高い伸びが期待されるが、デフレーター(全国消費者物価指数・持家の帰属家賃を除く総合)の前年同月比が東京都区部と同じだとすると12月は11月より0.6ポイント伸び率が高まるので、実質賃金の前年同月比の符号がどうなるかは不透明である。2月5日に判明する、2024暦年の実質賃金・前年比はマイナスになる見込みだ。
長く続いている、食料価格高騰が物価指数の伸び率を引っ張る状況
東京都区部消費者物価指数でみると2022年以降2024年まで3年連続で「食料」と食料の中の「生鮮食品」の前年比がプラスの伸び率になり、「総合」「生鮮食品除く総合」の伸び率を上回った。異常気象の影響もあり、代わるがわる何某かの食品が高騰するような状況だ。
3年連続の高騰ともなると、天候要因は一時的な要因ではなく、構造的な要因になり、生鮮食品をはじめとする食料価格を押し上げている。また、円安の影響や輸送コスト高止まりなど、その他の上昇要因の影響も大きい状況だ。
1月16日に12月分が発表された国内企業物価指数の2024暦年の前年比は+2.3%だったが、飲食料品は同+2.6%、農林水産物は同+9.7%で、食料関連の前年比が、全体を上回った。消費者物価指数と同様の状況が確認できた。
実質賃金を計算するときに使うデフレーターは、全国消費者物価指数・持家の帰属家賃を除く総合であり、日銀が金融政策の目標としている、全国消費者物価指数・生鮮食品を除く総合と違い、生鮮食品を含むため、近年の天候要因による物価高止まりの影響を2025年も受ける可能性がある。これは実質賃金の前年同月比プラス化を妨げる要因である。
共通事業所ベースで試算した「実質賃金」の意外な結果。6月~11月まで半年間にわたり前年同月比マイナスにならず
毎月勤労統計では、2018年からローテーション・サンプリング(部分入替え方式)を導入し、毎年1月分調査で一部を入れ替える方式になった。経過期間を経て2020年1月分からは、1年ごとに3分の1ずつ入れ替えるようになった。また、ローテーション・サンプリングにより、常に一部の調査対象事業所が前年も調査対象となっていることを利用し、共通事業所に限定した集計を行い、前年同月比が参考指標として発表されている。もちろん、共通事業所のみを用いて集計を行っているため、本系列に比べサンプルサイズが小さくなっていることには留意が必要である。
図表に記したように、共通事業所ベースで試算した「実質賃金」をみると、意外な結果になった。前年同月比のマイナスは5月で止まっていて、6月~11月まで半年間はゼロの月もあるもののわずかなプラスで、前年同月比マイナスになっていない。11月速報値では前年同月比+0.1%で、2カ月連続プラスである。
2024年1~11月の、現金給与総額・本系列の前年同月比の単純平均は+2.4%で、共通事業所ベースの前年同月比の単純平均+3.0%に比べ0.6ポイント小さい。2023年の12カ月の現金給与総額・本系列の前年同月比の単純平均は+1.2%で、共通事業所ベースの前年同月比の単純平均+2.1%に比べ0.9ポイント小さかった。2023年・2024年と2年連続で本系列の前年同月比の単純平均が共通事業所ベースを下回った。3分の1のサンプル入れ替えられることから考えて、2025年が3年連続して、本系列の前年同月比の単純平均が共通事業所ベースを下回る可能性は小さいのではないかと思われる。
2025年1月からのサンプル入れ替えはプラス要因になる可能性が大きいだろう。
12月「実質賃金」関連先行き判断DI(業況判断指数)は54.2と3カ月ぶりに景気判断の分岐点である50超に
12月景気ウォッチャー調査では、「実質賃金」関連現状判断DI(業況判断指数)と違い、「12月「実質賃金」関連先行き判断DI(業況判断指数)は54.2と3カ月ぶりに景気判断の分岐点である50を上回った。景気ウォッチャーの総意は実質賃金がプラスに転じ、景況感を下支えするようになることを期待しているようだ。