2013年度の総資産は2010年度より約3兆円多い15兆円程度を見込んでいます。内訳では貸付金などが14兆円弱、投資などが6000億円程度としていますが、収益性を高めるために「投資」部分のウエートを高めていくという考えはありますか?

竹内 我々は投資銀行なので、エクイティ(出資)かメザニン(劣後債または優先株式)かなどの形態は別にして、収益性向上のために投資部分の比率を高める方向性にあるのはもちろんです。しかし、短期の数値目標に向かって突き進むのではなく、顧客や日本経済全体に寄り添う形で進んでいきたいですね。スタートから5キロ地点では他の金融機関も熱心にサポートしてくれたが、30キロ過ぎたらみんな勝手に歩き出してしまった。42.195キロの最後まで伴走してくれたのはDBJだけ、というペースメーカーのような存在でありたいと思います。

2011年6月にはDBJアジア金融支援センターを開設しました。地方銀行に対する地域企業のアジア進出支援に向けた情報を提供するとしていますが、反応はいかがですか?

竹内 地域銀行にとってはDBJ独自のネットワークからもたらされる情報により取引先のアジア進出支援をさらに強化できること、DBJにとっては加速する地域企業のアジア進出へのサポートを通じて国際業務全般の高度化・多様化を図ることが期待できます。「進出先の労働法制はどうなっているのか」といったものから、「輸出を検討している国の紙おむつの基準を知りたい」など、お問い合わせの内容は非常に多岐にわたっています。

2011年度は最大で総額3500億円の社債発行を計画しています(政府保証付社債を除く)。これは2008年10月の株式会社化以降の発行額総計より多いほど。社債の大量発行の狙いは?

竹内 抜本的な財政改革が行えなければ、国債の発行額は今後ますます増えていくでしょう。するとDBJの政府保証債などは、中長期的には市場から押し出されていく可能性もあるわけです。我々は現在も地方銀行からの借り入れなど資金調達の多様化に取り組んでいます。しかし、投資銀行である以上、やはりキャピタルマーケットで調達するのが本来の姿だと考えます。民営化が先に延びたとはいえ、ファイナンスの面においていつでも自立できるだけの力は持っておきたいと思っています。

「ワンアンドオンリー」の存在へ

今のDBJは「金融機動隊」 危機対応業務のプロが育っている

政府系と民間系の間に位置するハイブリッド金融機関としての立ち位置の難しさのようなものは感じませんか?

竹内 私はあまり感じませんね。米国ではリーマン・ショックが起こったとき、FRB(連邦準備制度理事会)、財務省、ニューヨーク連邦準備銀行がマーケットを支えに出動しました。日本の場合は、最近日本銀行が割と工夫されて資金供給していますが、危機が起こったときに真正面から対応する組織ではない。冒頭の発足パーティー当日に「危機対応業務」が始まったように、いいか悪いかは別にして、金融有事の際は我々が先頭に立つ流れにあるのは事実です。私は今のDBJは「金融機動隊」だと思っています。だから、東京電力救済の話が持ち上がったとき、率直なところ、行内はそんなに困惑しなかった。それは日本航空の経営問題を通じて、危機対応業務におけるプロフェッショナルが育っているからです。行内の日航チームにいた若手が、現在、電力プロジェクトチームで汗をかいています。

危機対応業務におけるノウハウが着実に積み上がっているわけですね。

竹内 DBJの企業理念は「金融力で未来をデザインします」です。ここで言う「金融力」とは、いわゆる金融工学的なものではなく、他の銀行や証券会社ではできない金融を通じての日本経済や社会への貢献という意味合いです。日航の問題が浮上したときは、航空機産業における原理原則は何か、グローバル競争で勝ち残るためにはどのような立て直し策が求められるのかといったさまざま点を考え抜きました。今は電力問題に端を発したエネルギー供給制約という日本経済のマイナス要因に対して、ささやかながら金融として何ができるか、一生懸命勉強しています。先代の室伏社長が当行の特色として言われた「ワンアンドオンリー」を目指し続けるのがDBJなんです。知恵の出しよう、やりがいがあるため、若いスタッフたちは燃えていますよ。モチベーションが非常に高いですね。

民営化の道筋はまだ見えませんが。

竹内 我々の課題は、経済や社会の構造変化を誰よりも先に見つけて、そこに対してリスクマネーを供給することによって、結果的に長期にわたる収益を上げるスキームの構築です。そのなかで、おのずと道筋が見えてくると思います。日本にはこういう金融機関がありませんからね。さらにありがたいことに、今のところは上場していないので四半期の業績にこだわらなくていい。この点は、国内唯一の中長期のリスクテイカーとしてさらにステップアップする我々にとって大きな強みだと思っています。