新考案の「日米株式価格平価」は“Buy Nikkei, Sell USD/JPY”を示唆
- パウエル議長はバイデン大統領を失望させるのか?
- 筆者は日米株式価格平価(US-JP EPP)を新たに考案した
- ドル円相場はUS-JP EPPに対し依然58%の過大評価
- 対内株式投資は2015年8月以来の高水準
パウエル議長はバイデン大統領を失望させるのか?
2024年3月8日からドル円相場は、日米の両中央銀行による金融政策転換期待によって147円近辺でトレードされている。同日夕、バイデン米大統領が選挙演説中に「(Fed<米連邦準備制度>による)金利引き下げは間違いない」と述べたことは非常に興味深い。
ジョージ・H・W・ブッシュ大統領(当時)は、1992年の再選キャンペーン期間中に自身が期待したほどの大幅な利下げが実施されない中で景気が悪化し、その結果、民主党のクリントン氏に敗北した。ブッシュ氏は、晩年(1998年)になって、自身が1991年に再指名したグリーンスパン元Fed議長のことを、”I reappointed him, he disappointed me” 「私は彼を再指名したが、彼を私を失望させた」と辛らつに批判したことが思い出される。グリーンスパン氏の回顧録を読み返すと、当時、政府とFedの関係は決して良好ではなかったことがわかる。
バイデン氏は、2017年にトランプ前大統領が指名したパウエル議長を2022年に再指名しただけに、ブッシュ大統領と同じ轍を踏むことになるのだろうか。そうであれば、皮肉にもトランプ2.0が現実化することになる。
日米株式価格平価(US-JP EPP)を新たに考案
2024年2月の拙稿では、固定相場制を採用する国において為替相場が下落すると、資本流入による資産効果などによって成長率が高まるというボストン大学の福井真夫助教授の説を紹介した。これを変動相場制下で著しい円安となっている現在の日本に援用すれば、資本流入によって株高と円高が招来されることになる。
そこで、現在の日米の相対株価とドル円相場の間にどれくらいのミスアアラインメントが生じているかを測るために、購買力平価の手法を用いて、筆者は日米株式価格平価(US-JP EPP)なるものを考案した。
ドル円相場はUS-JP EPPに対し依然58%の過大評価
図表は、2005年1月~2024年2月を観察期間として、S&P500と日経平均を用いて算出されたUS-JP EPPと実際のドル円相場、後者の前者に対する乖離率を表している。乖離率のプラスは、ドルの過大評価・日経平均の過小評価・S&P500の過大評価を意味する。マイナスはドルの過小評価・日経平均の過大評価・S&P500の過小評価となる。
2005~2010年には、ドル円相場は、US-JP EPPに対して大幅に過小評価されていていた(2006年5月に最大32%の過小評価)。しかし、2011~2020年には、ドル円相場はUS-JP EPPに対してほぼフェアバリューで推移した(乖離率はおおむねプラスマイナス10%の範囲で推移)。
しかし、2021年以降は、ドル円相場のUS-JP EPPに対する過大評価率が急激に拡大した(2023年11月に最大62%の過大評価)。また、2024年2月の乖離率もいぜんプラス58%となっている。
対内株式投資は2015年8月以来の高水準
そのような中、日本の株価の過小評価に注目した海外の機関投資家の対内株式投資積み増しによって、日経平均は2024年3月に入りバブル経済期の史上最高値を更新するまで上昇している。3月1日の対内株式投資は、2015年8月以来の7.3兆円(52週移動平均年率)まで増加していた。
前述のとおり、今後、資本流入は株高と円高を招来すると考えられるため、US-JP EPPに対するドル円相場の過大評価は次第に解消されていくことになろう。すなわち、理論上、S&P500が横ばい推移するなら、最大、ドル円相場には58%下落余地、日経平均には同率の上昇余地があることになる。
おそらく、常識的には、ドル高日本株安乖離は、その両方によって解消されていくことが予想され、そこから導きだされる株式・為替ストラテジーは、”Buy Nikkei, Sell USD/JPY”である。