日本価値創造ERM学会 SDG/ESGの定量分析は課題、事業への織り込み意識は一致
日本価値創造ERM学会は2020年1月21日、東京都内で「金融・保険業界でのSDGs/ESGとERMアプローチ」と題したセミナーと開催した。講演者はメガバンク、生命保険、地方銀行でSDGs/ESG経営に取り組む3名。同学会の評議員およびグッゲンハイムパートナーズ の酒井重人氏が総合司会およびモデレーターを務めた。講演者3名によるパネルディスカッションのサマリーを紹介する。
(取材日:1月21日)
みずほフィナンシャルグループ 戦略企画部 金融調査チーム次長兼サステナビリティ推進室長の森西徹氏は、「従来のCSRでは事業計画と分けて考えられていたが、ESGは業務を遂行する上での指針と言える。よって、事業計画と一体化されなければならない」と語る。現に同グループ内では、中期経営計画にESGを織り込み、シナリオ分析などリスク・リターンの観点も含めて更なる一体化に向けて議論を進めている。
特に、低炭素社会の移行に伴うリスク(=移行リスク)の要素は、今後の企業動向を見通す上で重要と指摘する。エネルギー産業や発電事業などCO2排出の多い業種では、今後収益にどのような影響を及ぼすか、また、企業側はどのような対策を講じているか。シナリオ分析は社内で着々と進んでいる。
明治安田生命保険相互会社 リスク管理統括部長の島村浩太郎氏は、「当社は元々、SDGsの考え方に近い独自の『明治安田フィロソフィー』を持っている。『お客様との絆・地域社会との絆・働く仲間との絆』を基に事業戦略を立てており、統合報告書でも把握可能である。しかし、今後は国際的なスタンダードであるSDGsの観点でも捉え直しステークホルダーとのコミュニケーションを高めていきたい」と力を込める。
同社では、健康診断の受診促進などのサービスや、健康増進のための各種イベントなどを行う「みんなの健活プロジェクト」が進行中だ。SDGsの考え方は保険サービスの面では徐々に浸透してきたものの、資産運用の面では難しい面もあると言う。「評価基準の一つであるESGスコアに基づくパフォーマンスを分析しても、いまだ明確な結論は出てこない現状だ。とはいえ、ESGスコアの高い企業はリスクがより低いという仮説は立てられよう」(島村氏)
ESGスコアを定量的に分析するのは現状では多くの課題がある。しかし、島村氏はパフォーマンスがニュートラルならばESG投融資をやらない理由はないと述べる。少なくとも企業の評判を抜きにしても、ESG投融資を行わない企業はいずれ淘汰されていくと考えている。
滋賀銀行 社外取締役および日本価値創造ERM学会理事の安井肇氏は、「当行では、SDGsに真っ向から取り組み、地方銀行として生き残る地盤を固めている。大事なのは、社内変革の原点とも言える従業員の意識改革だ。若い世代はデジタルネイティブかつソーシャルネイティブでもある。デジタル社会で自分たち一人ひとりの業務は地域社会でどのように貢献できているかを意識させることが重要だ。目先の数値目標よりも、まずはSDGsに関する従業員との価値共有が円滑で実効ある戦略遂行の前提と考える」と説明する。
安井氏は、若い世代の社会貢献意識が高まっていると分析する。内閣府が毎年実施する世論調査の「30歳未満の社会への貢献意識」では、昭和54年は30%台、平成30年は63%程度まで躍進している。同行のSDGsへの取り組みは新入行員の離職率低下にも一役買うであろう。
「営業職員や支店長は地域のお客様を一番熟知している存在だ。当行では、若い従業員でも積極的に執行役員などへスピークアップできる文化を大切にしたい。ステークホルダーの一つであるお客さまの要望を拾い上げることが、事業戦略のSDG3化への近道だろう」(安井氏)