2014年の日本版スチュワードシップ・コード、2015年のコーポレートガバナンス・コードの策定以降、日本ではアセットオーナーと運用機関、投資先企業の間におけるスチュワードシップ活動の重要性が強調されてきた。こうした背景を受け2019年11月、日本のスチュワードシップ活動の実務的な課題の改善を目指す「ジャパン・スチュワードシップ・イニシアティブ(JSI)」が発足した。発足の経緯や狙いについて関係者に話を聞いた。
(取材日:2019年12月13日)

ジャパン・スチュワードシップ・イニシアティブ
〈左より〉
野村アセットマネジメント 責任投資調査部長 今村 敏之
青山学院大学名誉教授
首都大学東京 特任教授(経営学研究科)経済学博士 北川 哲雄
ICJ エンゲージメント ソリューション部長 坂東 照雄
アセットマネジメントOne 運用本部 責任投資部長 寺沢 徹

JSI発足の経緯は?

今村 2017年秋頃からアセットマネージャー数社が集まり、アセットオーナー向けの報告の在り方を改善するために意見交換を進めてきた。それが「スチュワードシップ責任推進委員会」と呼ばれる活動だ。これまで、アセットマネージャーのアセットオーナーに対するスチュワードシップ活動の報告の在り方は各社バラバラだった。そこで個社で蓄積してきたスチュワードシップ活動報告に関するノウハウの共有を進め、2018年10月にはアセットオーナーへの活動報告の際に使用する共通様式として「スマート・フォーマット」を作成した。

スマート・フォーマットを使用すれば、アセットオーナーはアセットマネージャーのスチュワードシップ活動を一元的に評価できるほか、加入者などへの情報開示に伴う業務を効率化できる。さらに、アセットマネージャーとアセットオーナーのコミュニケーションが深まることが期待される。こうしたスチュワードシップ責任推進委員会の活動の延長線上にJSIの発足がある。

寺沢 アセットマネージャーのみならずアセットオーナーや関連団体も巻き込みながら、インベストメントチェーン全体の活性化に向けた情報共有ができる場所を作ろうということでJSIは発足した。

特定の利権を代表する活動とならないように、代表には青山学院大学名誉教授の北川哲雄氏に就任いただいた。また、信託・生保・投信・投資顧問業を包括する中立的な組織として、日本取引所グループ(JPX)とその関連会社のICJが運営に参加してくれた。また、運営委員会は、アセットマネジメントOne、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント、第一生命保険、野村アセットマネジメント、ブラックロック・ジャパン、三井住友DSアセットマネジメント、三菱UFJ信託銀行で構成する。さらに、オブザーバーとして金融庁と日本経済団体連合会に参加していただく。

今後、JSIはスチュワードシップ活動の高度化・深化に向け、アセットオーナーとアセットマネージャーの間の実務的な課題を洗い出し、効率的な情報伝達が可能となるよう支援していく方針だ(図表)。

スチュワードシップ活動と情報の伝達

今後はどのような活動を展開していく予定か。

北川 スチュワードシップ活動の重要性について一部のアセットオーナーやアセットマネージャーが認識しているだけでは、インベストメントチェーンに好循環を生み出していくことは難しい。特に、人手不足などの問題を抱える小規模のアセットオーナーの声を反映した活動を行い、スチュワードシップ・コードの受け入れ機関の増加にもつなげていきたい。パッシブ運用全盛期と言われる時代で、JSIの活動を通じて市場全体の底上げにつながる変化を後押ししたい。

坂東 現在、会員はアセットマネージャーが多いことから、アセットオーナーの会員を増やしていきたい。JSIは、インベストメントチェーンにおいて異なる立場同士が集まり知見を共有するカジュアルな活動であり、会員の義務や責任などの負担を抑えた規約となっている。情報収集の一環として気軽に参加いただければと考えている。