オストラム・アセット・マネジメントは、フランス第2の銀行グループであるBPCEに属するナティクシス・インベストメント・マネージャーズ傘下の資産運用会社だ。300億ユーロ(約4兆7400億円。1ユーロ=158円で計算)のESG(環境・社会・企業統治)債を運用する同社に、ESG債の市場動向や投資の基準などを聞いた。(取材日:2023年10月5日)

日本のESG債の発行量は2020年からの2年間で2倍に

オストラム・アセット・マネジメント シニア サステナブルボンド アナリスト ナタリー・ブヴィエ氏(左)と、事業開発責任者 マシュー・ムリー氏(右)
オストラム・アセット・マネジメント シニア サステナブルボンド アナリスト ナタリー・ブヴィエ氏(左)と、事業開発責任者 マシュー・ムリー氏(右)

ESG債の市場動向を教えてください。

ブヴィエ 2022年第3四半期末におけるESG債の累計発行額は4兆米ドル(約596兆円。1米ドル=149円で計算)に達した。世界の債券市場全体に占めるESG債の発行比率は、2021年では5~8%程度だったのに対し2022年には13%に上昇している。2022年は債券市場全体が非常に厳しい環境にあったにもかかわらず、ESG債は非常に高い抵抗力と市場への浸透をみせたと言えよう。

発行体としては、国および政府機関、金融法人、非金融法人がそれぞれ3分の1程度で、非金融法人は公益事業会社が中心だった。

国・地域別でみると、欧州が依然としてESG債市場をリードしている。一方、東アジアの市場もかなり成長しており、2022年の発行額はグリーンボンドでは中国が2位、ソーシャルボンドでは韓国が2位だった。

日本のESG債の発行量も2020年からの2年間で2倍に増加。2023年上半期の発行額は180億ドルと非常に強い伸びを示している。これは世界のESG債発行額の3~4%に相当する。

トランジションボンドについては、日本と中国が大きな発行体だ。世界のESG債のうちのトランジションボンドは1%程度だが、アジアのESG債ではその割合は1.7%と相対的に高いのが特徴だ。

2023年の世界のESG債発行量は2022年よりも増加し、9,000~10,000億ドル程度になる見込だ。とりわけグリーンボンドが市場拡大のドライバーになり、ESG債の発行量の約60%を占めるだろう。

「発行体の戦略」と「金融商品としてのインパクト」の2つの基準で選定

米国を中心とした反ESGの潮流をどう見ているか。

ブヴィエ 現在、何を「グリーンボンド」「サステナビリティボンド」と呼ぶのか明確な定義は定められておらず、発行体が各自で決めている。反ESGの動きは、米国の政治的背景との結びつきが強いとみているが、サステナブルファイナンスの透明性を高めるよいプレッシャーになるのではないか。

ウォッシングの防止に向けて、アセットマネージャーは格付けなど分析手法を確立する必要があるだろう。

オストラム・アセット・マネジメントのESG債の位置づけや取り組みについて聞かせてください。

ムリー オストラム・アセット・マネジメントは、債券・保険運用で35年以上の実績を有し、ESG債は300億ユーロを運用している。

その中で、ESG債のカテゴリーごとに独自の分析グリッドを用いた格付け手法を開発した。格付けは2つの基準に基づいている。1つは発行体の戦略だ。例えば、グリーンボンドならば企業全体の気候変動戦略の野心度を評価し、グリーンボンドがその戦略にどの程度適合しているかを分析する。

もう1つは金融商品としての透明性・一貫性を含むインパクトで、ここでは資金使途の透明性について独自の分析ツールに基づいて体系的にマッピングしている。「ダークグリーンか、ライトグリーンか」といったプロジェクトの重要性や、その選定プロセスに焦点を当てるほか、インパクトレポートやアロケーションレポートを分析し、数字だけでなくインパクトの測定方法を分析したり、発行体が公開するレポートに基づいて資金使途をモニタリングしたりしている。

ブヴィエ オストラム・アセット・マネジメントは、2022年にICMA(国際資本市場協会)に参画した。また、サステナビリティに関するワーキンググループに参加するなど、ESG債市場のエコシステム構築に積極的な点も強調したい。

日本の機関投資家へのメッセージを。

ムリー 脱炭素化をはじめとしたサステナビリティの取り組みは、欧州が世界をリードしている。当社は、「エネルギー転換を加速させることが資産運用会社の役割」との考えのもと、ESG債投資において先進的な運用手法を実践してきた。実績ある当社の運用を日本でもぜひ提供していきたい。