円キャリートレードは中国不安を乗り越えられるか?
- 中国危機が世界経済から分断される3つの背景
- 筆者は年末までに1ドル115円への円高を予想
- 中国からの資本流出と元安のスパイラル
- 日中協調口先為替介入の行方
中国危機が世界経済から分断される3つの要因
恒大集団の破綻を契機に中国の不動産バブル崩壊が現実のものとなる中、ドル円相場は、筆者の予想に反し上昇基調を続けている。その背景として考えられるのは、①欧米エコノミスト中心に中国の景気悪化は循環要因によるものとみる中国経済楽観論、②たとえ中国が金融危機に陥ったとしても国際金融市場に伝播しないとの世界景気楽観論、③円はもはや安全通貨ではなく、中国の不動産バブルが世界に伝播した場合、円は元とともに下落するという中国・日本共倒れ論があげられよう。
筆者は年末までに1ドル115円への円高を展望
①に関しては、1980年代の日本経済と現在の中国との類似性を考えれば、やはり金融機関のバランスシート悪化と逆資産効果によって景気後退とデフレが招来され、地方政府の財政悪化がそれに拍車をかける可能性が高い。さらに、少子高齢化と世界経済のデカップリング(非連動)による負の効果が構造的に中国経済に伸しかかる。特に、中国がグローバライゼーションの最大の寵児であった事実を踏まえれば、後者の悪影響は甚大である。
②に関しては、中国の金融不安の国際金融市場への伝播が阻止されるほど、世界経済のデカップリングが進行しているとは考え難く、欧米経済がGDP世界第2位の経済の金融不安に耐えられるほどレジリエントだとは思われない。
③に関しては、中国の金融不安によって世界経済がデフレに逆戻りすれば、たしかに日銀は当面金融政策正常化を断念せざるを得なくなり、それ自体は円キャリートレーダーにとっては好都合である。しかし、リスクオフの円買いは、円が安全通貨であるから生じるのではなく、金融不安によって機関投資家がリスクオフの円キャリートレード巻き返しを強いられることによって引き起こされる。筆者は、依然年末までにドル円相場が115円まで下落するというリスクシナリオに固執している。
中国からの資本流出と元安のスパイラル
中国の国際収支に注目すると中国が世界経済から分断されつつあることがよく分かる。図表は、2021年後半以降デカップリングによって中国居住者による資本流出(外貨準備を除く)と非居住者による資本流入の相方が大きく減少し、なおかつ、後者が前者を凌駕していることによって、中国からのネット資本流出(外貨準備を除く)が増加しているを示している。為替市場では、ドル元相場が先週2021年11月の直近の高値を超え7.34元台まで元安が進んだこの背景には、中国からの根強い資本流出がある。元安と資本流出のスパイラルは、中国を金融不安に導く可能性がある。
日中協調口先為替介入の行方
今週、円安と元安に音を上げた日中通貨当局が、協調口先介入に出たことは実に興味深い。日銀の植田総裁は、週末、読売新聞のインタービューでマイナス金利解除に言及し、中国政府は人民銀行やSAFE(国家外為管理局)が指導する全国外為市場自主機構の会議を通じて、元安に警鐘を鳴らした。1998年6月に日本の金融不安による円下落とアジア通貨不安の煽りを受けた元切り下げ観測に対抗して、日米当局が協調ドル売り円買い介入に打って出たことが思い起こされる。その4カ月後には、ロシア危機による円キャリートレードの巻き返しによって、ドル円相場は1日で13円の暴落を被った。果たして歴史は繰り返すのであろうか。