J-MONEYカンファレンス・レポート スポンサーセッション 意図せぬリスクの影響を極力抑えてダウンサイドに強い運用を実現アムンディ・ジャパン
アムンディが提供する「サンドラー・米国株式ロング・ショート戦略」は、ユニークなポートフォリオ構築を通じて相場のダウンサイドに強い運用を実現する安定感抜群のヘッジファンドだ。アムンディ・ジャパンの森田直久氏は2023年6月2日、東京都内で開催されたJ-MONEYカンファレンス(主催:J-MONEY)で、ファンドの特徴や現況をつぶさに語った。そのサマリーを紹介する。
定量データが示す抜群の安定感
アムンディは欧州を代表する資産運用会社であり、オルタナティブ部門の運用資産残高は2022年末時点で約270億ユーロ(約4兆円)にのぼる。ヘッジファンドについてはマネージド・アカウントのプラットフォームを運営しており、サンドラー・キャピタル・マネジメント(以下サンドラー)はそのプラットフォームの一員である。
サンドラーのヘッジファンド「サンドラー・米国株式ロング・ショート戦略」は1991年に運用を開始した。個別銘柄の選択とポートフォリオ構築に強みを持ち、特にポートフォリオ構築においては、マクロビューに基づく運用テーマに沿ってポジションを決めるというユニークなアプローチが特徴だ。
アムンディがファンドをローンチした2008年2月から23年4月までの期間で、当戦略の定量データを見ると、米国S&P500種指数に対して相関係数はゼロ、ベータ値もほぼゼロとなっている。「歪度」(わいど)というマイナスが大きいと意図せぬリスクが高いことを示す値は0.48である。
これらのデータをHFRIのヘッジファンド指数2種類および、ブルームバーグの米国債指数と比較してみよう。例えばベータ値は、株式ロング・ショート戦略指数が0.4で、株式マーケット・ニュートラル戦略指数が0.1。歪度は株式マーケット・ニュートラル戦略指数がマイナス0.86で、米国債指数がゼロである。当戦略は市場感応度が低い点など、株式マーケット・ニュートラル戦略と似通った定量的特徴を持ちながら、米国債以上に意図せぬリスクを抑えた運用を実現しており、安定感が非常に高いファンドであることが見てとれる。
累積リターンの推移を見ると、パフォーマンスの「山」や「谷」が、S&P500種指数やHFRIの株式ロング・ショート戦略指数とは大きく異なることが分かる。特に2008年~09年や21年~22年など、S&P500種指数が大幅に下落した局面で下値抵抗力を示しており、当戦略の特性がいかんなく発揮された格好と言える。
ただし、2018年の後半以降はグロスエクスポージャーをかなり抑えている。2018年第4四半期における米国債利回りの上昇と米国株の急落、19年初めのアップルによる業績下方修正などを受けて、同年7月にFRBは約10年半ぶりの利下げを実施し、米国株式市場では金融相場がしばらく続いた。その後、FRBが金融引き締めに転じて以降も、過去の金融ストレス局面では例のないクオリティ銘柄の不調が見られた。サンドラーとしては、このようなファンダメンタルズと乖離した運用環境はできる限り敬遠したいということで、エクスポージャーを抑制したディフェンシブな運用を行ってきたのである。
スマイル・カーブのリターン分布
「サンドラー・米国株式ロング・ショート戦略」の運用実績を株式マーケット・ニュートラル戦略指数と比較してみると、株式マーケット・ニュートラル戦略が苦戦する局面で、当戦略は相対的に好成績を上げていることが分かる。株式マーケット・ニュートラル戦略は、いわばショート・ボラティリティ戦略であることから、相場の混乱時などボラティリティが上昇する際には当戦略が優位となるようだ。
また、一般に株式マーケット・ニュートラル戦略はバリュー・バイアスが強いと言われる。2017年~19年頃は、特にバリュー銘柄が苦戦した時期に当たるが、そうした局面では株式マーケット・ニュートラル戦略も苦戦したのに対し、バリュー・バイアスがない当戦略は好パフォーマンスを確保した。
リターン分布も特徴的だ。S&P500種指数の前月比リターンを右上がりの45度線として、単月リターン分布のグラフを作ると、当戦略はおおむね「スマイル・カーブ」を描くこととなる。ポートフォリオ・マネジャーのアンドリュー・サンドラーが語るように、当戦略が目指しているのは、まさしくこのダウンサイドに強いスマイル・カーブの実現である。その実現が難しい折にはあえてポジションを取らず、収益機会が高まった時点でポジションを取る方針を徹底している。
前述したように、近年はグロスエクスポージャーを非常に小さく抑えてきたが、現状では150%程度のレベルにある。コロナ禍以前の水準に近づいており、ファンドが収益機会の高まりを意識していることが分かる。今後は高インフレ・高金利下で企業業績の悪化が予想されるため、基本的にはダウンサイドへの意識が強いものの、アップサイドにも目配りしているもようだ。相場下振れの可能性が2~3、上振れの可能性が1という割合でポートフォリオを構築している。
マクロ評価に基づく運用テーマ
具体的な運用手法としては、最初にマクロ評価(アセスメント)を行い、運用テーマを設定する点が大きな特徴だ。マクロ評価を通じてセクターや業界の変化・動向を見極め、有望な運用テーマを設定して、それに沿う形で投資銘柄を選んでいく。運用テーマは7つあり、テーマ自体の回転数は年間1.5回転程度。各テーマ内での銘柄回転数は年間300回転、個々の銘柄における回転数は年間800回転程度である。すなわち運用テーマはほとんど変わらないが、中身の銘柄や各銘柄のウエートは頻繁に変更していることになる。
例えば現状で重視しているロング銘柄のテーマには、旺盛な需要に支えられた半導体および半導体製造装置の分野がある。このテーマの重要度は2020年から変わっていない。その他、オンショア・ニアショア(開発業務の国内・近距離受注先)や自動車の電動化、環境基準の規制強化によって恩恵を受ける企業などが有望テーマに挙がっている。
各テーマ内における個別銘柄の選択は、基本的に成長性重視のアプローチを採っている。いわゆるグロース・クオリティ・バイアスが強い銘柄が中心である。肝になるのは個別銘柄のバリュエーションで、指標としてROEやROICを重視しながら、エントリー(購入)とエグジット(解消)に関わる適切な企業価値評価を行う。その点も、サンドラーならではのエッジと言える部分である。
運用体制はアナリストが8名、ポートフォリオ・マネジャーが2名、合計10名のメンバー構成である。アナリストの役割としては、個別銘柄の推奨にとどまらず、むしろ消費者の嗜好や規制緩和、プライシングパワーなどの業界動向について分析を行い、有望なテーマを運用アイデアとしてファンドに提言することが期待されている。そのためか、資産運用会社としてサブ・インベストメント・マネジャーのキャリアはかなり長めの部類であり、当戦略の運用スタイルが1991年以来、ずっと変わらずに機能し続ける原動力となっている。
サンドラー・米国株式ロング・ショート戦略
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