機関投資家は日本株式ヘッジファンドをどのように扱っているのか。2023年6月2日に東京都内で開催されたJ-MONEYカンファレンス(主催:J-MONEY)において、農中信託銀行の坪井芳親氏がモデレーターを務め、GCMインベストメンツの北林三太郎氏と農林中央金庫の長谷川英俊氏に、日本株式ヘッジファンドの魅力やゲートキーパーの活用意義などを聞いた。そのサマリーを紹介する。

日本株式市場ならではの非効率性

長谷川 英俊氏
農林中央金庫
開発投資部長
長谷川 英俊

坪井 ヘッジファンド投資への取り組みと、日本株式ヘッジファンドに投資を始めたきっかけについて教えてほしい。

長谷川 農林中央金庫では1997年から、ヘッジファンド投資をグローバルに展開している。シングルのヘッジファンドマネジャーにアクセスするのが難しいこともあって、当初からゲートキーパーを活用し、ファンド・オブ・ファンズの形態で投資を行っている。日本株式ヘッジファンドへの投資は2020年から開始した。背景として、欧米の大手ヘッジファンドから独立する日本人マネジャーが増えてきたことが挙げられる。有力なマネジャーの存在が確認できたため、段階的に複数のファンドへと投資を拡大している。

日本株式ヘッジファンドの利点は、まず為替ヘッジコストがかからないことだ。昨今のように、米国の短期金利が上昇して調達コストが拡大する局面においては、円建てで投資できるメリットは非常に大きい。日本株式ヘッジファンドは現状、レバレッジが低い傾向にあるため、リスクウエイトを低位に抑えられる点も、グローバルなヘッジファンドに対しては優位となる。

ヘッジファンドの主戦場である米国株式市場にはグロース銘柄が多く、成長率が非常に高い一方で、ボラティリティも高い。対して日本株式市場にはバリュー銘柄が多く、その市場特性は企業の根源的な価値を見出すタイプのヘッジファンドにとっては優位に働く。現在投資しているファンドはすべて日本株が投資対象で、日本人PMが運用している。我々としては時差なくコミュニケーションが可能であり、パフォーマンスも理解しやすい。

坪井 GCMインベストメンツでは、αの源泉となる日本株式市場の非効率性をどのように考えているのか、ゲートキーパーの目線でお聞きしたい。

北林 キーとなる数字を示しポイントを3点整理する。1点目はPBRだ。5月23日時点でTOPIX500構成銘柄の39%が、TOPIXベースでは52%がPBR1倍未満の一方、S&P500ベースでは、その比率が5%しかなく、日本株式の割安度は突出している。東証のPBR改善要請もあり、アクティビスト/バリュー戦略ファンドの株主提案は増加傾向にあり、増配、自社株買い等の株主還元策の公表が短期的にはαの源泉になっている。2点目は親子上場について。イベント・ドリブン戦略では、親子上場が日本特有のアノマリーである。2019年6月に経済産業省から「公正なM&Aの在り方に関する指針」が公表されてから親子上場解消関連のTOBは69件、プレミアムは平均で42%ある。M&Aに関する新指針も年内に公表される予定で、敵対的買収含め日本企業が関わるM&A案件の増加やスピンオフ活用による事業売却でのコングロマリット・ディスカウントの解消等の投資機会は、当該戦略にポジティブである。3点目はアナリストのカバレッジ。株式のトレーディング戦略では、日本株の上場企業数の多さという課題が、ニッチな投資機会を提供している。アナリストのカバレッジが無い銘柄は上場企業で65%あり、2名以下カバレッジが81%だ。東証スタンダード市場では、IR説明会資料の英語対応は6.1%しかない。中小型株は流動性に劣り運用キャパシティーは限定的であるが、中小型株の情報の非対称性は、ボトムアップでリサーチする日本人PMの株式トレーディング戦略のαの源泉となっている。

ゲートキーパーを使う3つの理由

坪井 芳親氏
〈モデレーター〉
農中信託銀行
運用部長
坪井 芳親

坪井 運用ノウハウのある機関投資家ならば、日本株式ヘッジファンドに直接投資できるようにも思うが、農林中央金庫はなぜゲートキーパーを使うのか。

長谷川 理由は大きく3つある。1つは、投資キャパシティの確保や投資タームの条件交渉、レポーティングレベルの維持などの点で、ゲートキーパーを介した投資の方がスムーズに進むということ。2つ目は、体制面のデューデリジェンスと事後モニタリングの難しさだ。運用面は我々でデューデリジェンスが可能だが、日本株式ヘッジファンドには設立から間もないケースが多く、体制面や事後的なオペレーションに問題がないか、自ら精査するのには限界がある。オペレーションの部分をゲートキーパーがしっかりモニタリングしてくれることは非常に重要と考える。

3つ目が、「ゲートキーパーの活用=ファンド・オブ・ファンズへの投資」という側面である。さまざまなマーケット局面において、シングルのヘッジファンドマネージャーが大きなロスを出すこともあるし、ファンドの体制面で何らかの問題が生じるケースもあり得る。ファンド・オブ・ファンズによって、そうしたダメージを緩和できる点が、ゲートキーパーを活用する大きな意義となっている。

投資ユニバースの質の改善で投資スタイルの分散に注力

北林 三太郎氏
GCMインベストメンツ
投資顧問本部長
北林 三太郎

坪井 日本株式ヘッジファンドのユニバースとポートフォリオ構築のポイントについてお聞かせ願いたい。

北林 弊社は1999年から日本株式ヘッジファンドに投資しているが、大手株式プラットホームやヘッジファンドで経験を積んだ日本人PMの独立が増加傾向にあり、投資ユニバースの質量は改善した印象だ。投資キャパシティが小さい順に紹介すると、まず「株式低ネット/市場中立型戦略」では、四半期決算などの短期的なカタリスト(株価を動かす要因)に注目する戦略である。セクター特化型が中心の米国株式ファンドに比べると全セクター横断的に数百銘柄に分散され、サブセクター毎にニュートラルに管理されているのが特徴である。

ロングバイアスの「株式ロング/ショート戦略」は、古くからある古典的な戦略であるが、ロングとショート合わせて50銘柄前後に銘柄を絞り込み投資する傾向がある。投資スタイルはバリュー、グロース、コントラリアン等様々。

「アクティビズム/バリュー戦略」については、ファンド規模により、投資対象の時価総額も異なる。株主提案をするアクティブなファンドでは、ガバナンスが不十分で、時価総額比でのネットキャッシュ比率の高い中小型の割安株がターゲットとなるケースが多い。

日本株式ヘッジファンドでのポートフォリオ構築のポイントは、株式に戦略が偏る為、投資スタイルの異なるファンドを組み合わせ、投資銘柄の重複を継続的にモニタリングすることである。2023年4月末現在、9ファンドに投資しているが、βの低いファンドにも投資することで、ポートフォリオのリスクは5%未満に抑えている。日本株式ヘッジファンドは、海外投資家の注目度も高く、大手ヘッジファンドの東京拠点の拡張や再進出も報道されている。優良ファンドは運用キャパシティーの管理にも厳格である為、投資家の皆様には、日本特有のアノマリーが残る日本株式ヘッジファンド戦略をポートフォリオの一部として組み入れることを検討していただきたい。

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