年金運用コンサルティングを手掛けるトータルアセットデザインは2023年3月20日、都内で「ポストグローバリゼーションと投資戦略」と題した資産運用セミナーを開催した。

“レジリエンスと規範力”を欧州から学ぶ

第1部では、青山学院大学名誉教授の羽場久美子氏が登壇し、「欧州から見える世界。ポストグローバリゼーション下での欧州各国の政治戦略」をテーマに基調講演が行われた。

羽場氏はまず、「データを見ると、今後、21世紀は大きく世界秩序が変わっていくだろう」と述べ、現在の世界の大きな流れについて解説した。2100年にはアジアとアフリカが世界人口の約8割を占めるといった人口の変化や中国、インド、ASEAN(東南アジア諸国連合)をはじめとしたアジアの急速な経済成長などに触れた。

世界的に転換期を迎える中、日本が直面する喫緊の課題の1つに少子高齢化による労働力不足がある。羽場氏は、「欧州は、長い歴史の中で何度も危機を乗り越えてきた。その強靭な回復力には日本も学べることがあるのではないか」と見解を示す。

羽場氏によると、欧州の強みは、“レジリエンス(回復力)と規範力”にある。

「ローマ帝国は、1000年以上の長い間、文化的・社会的な支配を続け、法律、宗教、芸術、建築、哲学、文化といったあらゆる領域で世界に影響を与えた。また、繰り返しパンデミックに襲われてきたが、それにより多くの人が亡くなる中でルネッサンスが生まれている。パンデミックや戦争など多数の危機を乗り越え発展してきた歴史が、現在に至る欧州のレジリエンスに繋がっていると考える」(羽場氏)

規範力の優位性については、「近代の世界を引っ張っていく欧州の力は、民主主義や自由主義、法の支配にある。特に21世紀においては人権やSDGs(持続可能な開発目標)、ダイバーシティなどに表れるように、旧来の欧州の規範さえも常に変えながら、新しい規範を作って乗り越えていく創造力がある」と説明した。

グローバリゼーションは姿を変え、“グレートリセット”が引き起こされる

寺本名保美氏
トータルアセットデザイン
代表取締役
寺本名保美

第2部では、トータルアセットデザイン代表取締役の寺本名保美氏が登壇し、「グレートリセット~変化の潮流を乗りこなす運用戦略」をテーマに講演した。

冒頭では、近年の経済環境の潮流を改めて振り返り、テクノロジー経済やバイオテックの勃興、持続可能な社会への転換、国際的緊張の高まり、国家機能の強化などについて説明した。

「こうした変化の潮流が、結果的にはグローバリゼーションを変質させていくことに繋がっていった。冷戦終結以降、人々はグローバリゼーションによって、大量生産と集中投資による時間とコストの低減、消費市場の拡大、適者生存による成長の加速など多くの恩恵を受けてきた」

こう寺本氏は振り返りつつ、コロナ禍以前から既に始まっていた数々の変化の行く先は、パンデミックの拡大とウクライナ戦争によって方向性が決定づけられたと指摘した。

「これまでは、利益追求という共通目的にしたがって、国境なき世界が早晩実現するという考え方がグローバリゼーションについての人々のコンセンサスであった。しかし、足元で地政学的リスクが顕在化しているように、今後は利益の最大化という共通目的が失われ、『個人対国家』『企業対政府』『国対国』『自由対安全』など、あらゆる主体が対立関係になりうるだろう」(寺本氏)

そして、グローバリゼーションの変質は、様々な領域で“グレートリセット”を生むと寺本氏は述べる。「資本主義における利益優先という単一な価値はリセットされ、多様な価値観に基づく資本主義に変わっていく。資本主義という言葉の中で、同じ目線でモノを考えることができなくなってしまう」

他にも、ファイナンスからテックへ、企業から国家へといったシナリオライターの交代や国家主導のイノベーションへの逆戻り、平時を前提とした有事対応から、有事を前提とした平時の享受など、発生しうる“グレートリセット”について説明した。

寺本氏は「昨日の延長線上で明日を予測するのは危険なこと。足元で起きているインフレやボラティリティも決して一時的なものではなく、グローバリゼーションというルールが変わる中でもたらされる当然の結果として、今後何年にもわたって続いていく可能性がある」と警鐘を鳴らす。

そのため投資においては、市場、時間、理念、リスクシナリオなどの分散を考え、新たな視野での分散戦略を構築する必要があると述べる。

ただし、「定量モデルは、過去のヒストリカルな価格変動を前提としているため、過去何年間のシミュレーションが基になっている場合、その期間がどのような金利情勢やインフレ環境であったのかを前提に見直さないと、全く意味のないシミュレーションになってしまう。過去の相関やボラティリティが断絶するということを前提に考えると、多分散ポートフォリオで相関を分散させて、表面的にはリスクを下げられたように見えても、それがポートフォリオのリスクの低減には繋がらない可能性があると理解した上でポートフォリオを組む必要があるだろう」と注意を促した。