10月自殺者数は4カ月連続前年比減少

宅森 昭吉
三井住友DSアセットマネジメント
理事 チーフエコノミスト
宅森 昭吉

警察庁が2021年10月の自殺者数の速報値を1557人と発表した。9月の1598人を下回り、2020年4月(1507人)以来の少ない人数になった。新型コロナウイルス禍での最大は2020年10月の2230人だったので、2021年10月分の前年同月比はマイナス30.2%と大幅な減少率になった。前年同月比が減少になったのは7月以降4カ月連続である。

ワクチン接種完了割合が順調に推移し、11月16日現在で75.4%まで上昇した。また、全国の新型コロナ新規感染者の過去最高は8月20日の2万5992人だったが、10月27日の310人を最後に11月16日まで20日間連続して最高水準の1%以上になったことがない。

新型コロナの感染はかなり落ち着いた状況が続いている。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置は10月1日に解除されている。こうした中、自殺者数と相関が高い完全失業率も落ち着いた状況が続いている。

自殺者数と完全失業率の相関は高い

自殺の理由は様々だが、経済生活問題も大きな理由の一つである。1978年からデータがある警察庁「自殺統計」の自殺者数と、総務省「労働力調査」の完全失業率を2020年までの暦年データから相関係数を計算すると0.911になり、両者の間に強い相関があることがわかる。なお、警察庁の自殺者数は日本における外国人も含む総人口が対象で、自殺死体認知時点で計上する。

【図表】自殺者数と失業率の推移

図表
(出所)警察庁「自殺統計」、総務省「労働力調査」

自殺者数は、2010年から10年連続減少し2019年には2万169人になった。しかし、新型コロナ感染拡大のため2020年の自殺者数は2万1081人、前年比はプラス4.5%と増加に転じてしまった。2020年の完全失業率と同様に11年ぶりに悪化に転じ、2019年の2.4%から0.4ポイント上昇し、2.8%になった。

完全失業率は景気の遅行指標である。一致指標の有効求人倍率は直近9月で1.16倍と8月の1.14倍から上昇した。2020年9月の1.03倍を底に上昇傾向にあり、2020年5月の1.18倍以来の水準になっている。やや先行性があるとみられる新規求人倍率は9月分2.10倍で8月分の1.97倍から上昇している。景気ウォッチャー調査の雇用関連の現状水準判断DI(ディフュージョン・インデックス。季節調整値)は2021年7月分45.7、8月分39.6、9月分41.4、10月分50.0と直近は改善傾向にある。

また、11月の民間エコノミストの経済見通しであるESPフォーキャスト調査によると、完全失業率の予測値平均は2021年10~12月期が2.82%、2022年1~3月期が2.76%、4~6月期が2.71%、7~9月期が2.66%、10~12月期が2.61%と、2022年末にかけて緩やかに低下していく見込みになっている。これらのことを総合的に判断すると、雇用関連指標は改善傾向にあり、11月30日に発表される10月分の完全失業率は2.7%程度とみられる。

2021年1月から10月(速報値)までの自殺者数の累計は1万7541人で、前年同期の1万7493人と比べてわずかに0.3%程度多い状況だ。11月・12月次第では、前年比で若干の減少になる可能性もありそうだ。

2021年の完全失業率は9月まで2%台

完全失業率は2021年1月~9月までの平均で2.8%(2.84%)である。この期間で最も高かった月は5月の3.0%で、一番低いのは3月の2.6%である。小数点第2位までで見ると、5月は2.97%、3月は2.63%であった。7月~9月にかけては2.75%、2.78%、2.76%と推移してきた。小数点第2位までで見ると、2021年の完全失業率は3%台に乗ったことはなかった。

仮に10月~12月の3カ月間の平均が2.70%だとすると、2021年の年平均の完全失業率は2.80%の2.8%になる。

10月~12月の3カ月間の平均が2.49%まで下がると、2021年の年平均の完全失業率は2.749%の2.7%になる。また、10月~12月の3カ月間の平均が2.90%まで上がると、2021年の年平均の完全失業率は2.852%の2.9%になる。10月~12月の3カ月間の平均が2.89%なら、2021年の年平均の完全失業率は2.849%の2.8%になる。

以上の結果から、2021年の完全失業率は2.8%と前年2020年と同水準になる可能性が大きそうだ。暦年データでみると、2021年は自殺者数も完全失業率も前年から横ばいで、一段の悪化や改善は見られないだろう。