いま、日本のGX戦略を見直してみる【寄稿】アムンディ・ジャパン 岩永泰典氏
本稿では日本のGX推進戦略を取り上げたい。GXとはGreen Transformationの略称であり、「産業革命以来の化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心に転換する」ことをいう(令和5年2月経産省「GX実現に向けた基本方針」)。GX推進戦略とは「脱炭素成長型経済経済構造移行推進戦略」の略称であり、2023年7月に閣議決定され、2025年2月にGX2040ビジョンとして改定されている。この政策で示される今後の日本の産業に求められる技術や製品を理解するとともに、今後導入されるカーボンプライシングの影響に留意することは、投資家が投資環境を検討するうえでも有益と考える。

岩永 泰典
アムンディ・ジャパンチーフ・レスポンシブル・インベストメント・オフィサー
2014年アムンディ・ジャパン入社、CIO兼運用本部長を務めたのち、2020年7月に日本でのチーフ・レスポンシブル・インベストメント・オフィサーに就任。責任投資を推進するとともにスチュワードシップ活動を統括。前職のブラックロック・ジャパンではグローバル・資産戦略運用部長、取締役CIOを歴任。ペンシルバニア大学ウォートン・スクールにてMBA、EDHECリスク・インスティチュートよりPhDを取得。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会認定アナリスト。
目的・特徴
GX推進戦略においては、10年間で官民合わせて150兆円超の投資という大きな数字が掲げられている。政府は20兆円を支出し、補助金や税制優遇、研究開発支援を行う。そのファイナンスを行うのがGX経済移行債である。政府は民間の投資促進、研究開発支援を先行させながら、2028年度以降にカーボンプライシングを導入することを明らかにしている。このように時間軸を明らかにし、より民間における取り組みの前倒しを促すことを狙いとしている。産業競争力を維持向上させつつ、脱炭素、エネルギー安定確保を目指すのがこの戦略である。
近年、各国がエネルギー転換に関わる政策を打ち出しているが、必要な投資を促すという点には共通項があるものの、それぞれの状況の違いを反映してアプローチには違いがある。米国では、政権交代後に大統領令で関連支出が停止されている状況だが、IRA(インフレ抑制法)が定めるのは、太陽光・風力などのクリーンエネルギーをはじめとする事業に対する税制優遇が中心の間接的支援と言える。
また、EU(欧州連合)では、EUタクソノミーで環境に関していかなる経済活動が持続可能であるかを定義したうえで、産業および金融のける活動主体にこまかな開示を求め、システム自体の転換を行うというアプローチが取られている。
一方、日本のエネルギー移行の特徴は産業政策のもとで、官民が協調して取り組んでいる点にあると言え、この点は海外からも注目されている。以下では、日本の政策がどのように進められるかについてその概要をみることにする。
分野別投資戦略
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