梅原隆

梅原 隆
三菱UFJ信託銀行株式会社
受託運用部 法人投資家営業グループ 調査役


2008年、新光証券(現 みずほ証券)入社。金融市場本部で債券セールス。
2020年、みずほ銀行法人推進部出向。
2021年、当社入社。金融商品開発部で証券化商品セールス。
2023年より現職。
慶應義塾大学総合政策学部卒業

Ⅰ.はじめに

国内でオルタナティブ投資が広がりを見せたのは2000年代に入ってからである。それまでは、大手銀行などが自己勘定運用の一部として取り入れていた程度だった。しかし、資金 需要の低迷による貸出不振や低金利環境を背景に、保険会社や地域金融機関などもオルタナティブ投資を開始した。

この当時は、ITブーム下でのベンチャー投資からプライベート・エクイティが流行った時期もあるが、大半はヘッジファンドへの投資であり、オルタナティブ投資=ヘッジファンドといって差し支えないだろう。多くの金融機関が、仕組債や証券化商品とともに、絶対リターンを求めてヘッジファンドにも資金を振り向けた。その後、バーゼル規制の強化などを受けてオルタナティブ投資から撤退する先が増え、しばらくは下火となっていたが、ここ数年のマーケット環境の変化を受けて、再び脚光を浴び始めている。

今回選好されているのはオルタナティブ投資の中でも、ヘッジファンドではなく不動産やプライベートクレジットといったプライベートアセットである。これは、日本を代表する投資家であるGPIFが、プライベートアセットをポートフォリオに組み込んでいることを公表しており、マーケットでの認知度向上に一役買った面もあるだろう。

GPIFにて公表されているオルタナティブ投資はインフラストラクチャー、プライベート・エクイティ、不動産が対象とされており、それらオルタナティブ資産の時価総額推 移は図表1のとおりである。

図表1:GPIF のオルタナティブ資産の時価推移


出所:GPIF ホームページ(https://www.gpif.go.jp/investment/alternative/)

実際に2010年代後半から、生命保険会社など大手機関投資家の運用方針にプライベートアセットに関する文言がみられるようになった。また最近では科学技術振興機構で運用が開始されたいわゆる大学ファンドにおいても、プライベート・エクイティ/プライベート・デット、不動産、インフラストラクチャーの3分野への投資を推進していく旨が公表されており、2022年度末における各資産へのコミットメント額は下表のとおりである。

図表2:大学ファンドの各オルタナティブ資産へのコミットメント額


出所:国立研究開発法人科学技術振興機構 2022年度業務概況書(https://www.jst.go.jp/fund/dl/jst_gaikyo_2022.pdf)

そして、直近では地域金融機関での取り組みも増加し始めている。そこで本稿では、金融 機関が再びオルタナティブ投資を検討し始めた背景、およびその投資拡大における論点を整理する。

Ⅱ. 金融機関でオルタナティブ投資機運が再燃した背景

2010年代後半から、徐々に金融機関によるプライベートアセットへの投資は拡大を続けているが、その裾野が一気に広がったのは直近2~3年である。そこで、なぜオルタナティブ投資機運が幅広い金融機関で再燃しているのかについて、地域金融機関の視点から整理する。

地域金融機関での検討が進むようになった背景には、保有外債の評価損益の急激な悪化と、ポートフォリオの利回り改善という2つの要因があると考えられる。その投資行動を振り返ると、特に2013 年以降の円金利低下という環境変化に対応するため、多くが 2010年代半ばからヘッジ外債投資を本格化した(※1)。

※1 運用における為替の影響を軽減するため、フルヘッジもしくは部分ヘッジで投資する先が多かった。なお、ヘッジコストは主に通貨の金利差と需給によって変動する。

ポートフォリオにおける“その他の証券”の残高の推移は図表3のとおりである。2013年を基準に見た残高は「地方銀行」で約2倍、「信用金庫」では3倍強となっており、いずれの業態でも有価証券に占めるその他証券の比率は3割を超える水準まで上昇している。

図表3:地域金融機関のその他の証券の残高推移


出所:一般社団法人全国銀行協会 全国銀行財務諸表分析および信金中央金庫 地域・中小企業研究所の信用金庫統計

その投資対象は米国債から始まり、地域を欧州・オーストラリアなどへと拡大していった。さらに、プロダクト面においても、MBSやカバードボンドからバンクローンに至るまで、リスク許容度が高まっていった。また、「信用金庫」については、信金中央金庫が取り扱う“SCB グローバル信託”(海外のアセットへ分散投資をするファンド)への資金流入が続いた影響も大きいと思われる。

地域金融機関の投資信託売買動向(図表4)を確認すると、2020 年度までは外債系のロングが目立っていたが、2021 年度以降は海外金利の上昇を受けてその動きが抑制されている。この間安定して資金が流入していたのは、通貨ベーシスを活用した戦略や、株のプットオプションを売却する戦略のように、伝統資産との相関が低位かつ安定したリターンが見込まれるものが中心だった。また、内外での金利上昇や高値圏で推移する株式相場を受けて、ベアファンドの活用も増えた。

図表4:地域金融機関の投資信託売買動向


出所:三菱 UFJ 信託銀行データ(推計値)

一方、債券およびその他の証券の評価損益を見ると、債券は高クーポンの日本国債の償還が進んだ影響から評価益は減少基調にあったが、イールドカーブコントロール修正後の金利上昇を受けて一昨年度から評価損に転じた(図表5、図表6)。

また、その他の証券についても、昨年度と一昨年度の海外金利急騰で一気に評価損が膨らんだことが確認できる。これまでであれば、他の資産(円債や株式等)の含み益を使いその一部を処理することもできたが、足元その余裕がある投資家は少ない。図表4における投資家の売買フローで外債ロングの解約(流出)が進んでいないことからも、その状況を推察できる。

図表5:地方銀行の債券とその他証券の評価損益及びポート利回り


出所:一般社団法人全国銀行協会 全国銀行財務諸表分析

図表6:信用金庫の債券とその他証券の評価損益及びポート利回り


出所:信金中央金庫 地域・中小企業研究所の信用金庫統計

加えて、ポートフォリオの利回りという側面から見ても、フルヘッジの外債が逆ザヤとなる(※2)中で低下基調にあった。(2022 年度の改善は逆ザヤの外債を外した影響が大きいと考えられる)

※2 欧米の急速な利上げで短期金利の急騰と逆イールドが生じ、投資している長期金利の利回り以上にヘッジコストがかかる状 態となり、最終利回りがマイナスとなった

国内金利の上昇は、新発債の発行利率上昇というプラスの側面がある一方、保有している国内債の評価損益悪化というマイナスの側面もあり、国内債投資をためらう状況となっている。逆に、金利上昇による含み損拡大のヘッジや金利リスクの低減を目的として、先述したようにベアファンドの活用が目立つようになった(※3)。

※3 特に、日銀がYCCの修正を決めた(2022年12月)後と、黒田総裁下で最後の決定会合となった2023年3月の活用が目立つ。2023年10-12月期もマイナス金利解除の思惑から3ヵ月連続で流入超となっていた。

これらの要因から、地域金融機関においても伝統資産と相関が低く相応のリターン水準が期待できるオルタナティブ投資、中でも時価変動が伝統資産対比マイルドであるプライベートアセット、とりわけダイレクトレンディングへの関心が高まっていると考えられる。

図表7:金融機関のベアファンドの活用


出所:三菱 UFJ 信託銀行データ(推計値)

Ⅲ. プライベートアセットの活用事例

(1)オルタナティブ投資の整理

まず、オルタナティブ投資について簡単に整理しておく。Webで“オルタナティブ投資”と検索すると多くの定義が確認できる。一例として、当社のHP上では「株式や債券など伝統的な金融資産に代わりうる投資対象資産への投資又はデリバティブ等伝統的投資手法以外の手法を用いる投資。ヘッジファンドやプライベート・エクイティのほか、金や石油などの商品や不動産等の実物資産が典型的な例であり、一般に、流動性に欠ける一方、他資産との相関の低さやハイリターンが期待できるなどの特徴がある。」という紹介をしている。

つまり、従来の伝統的な投資手法(ロングオンリー)とは異なるオルタナティブ戦略(ショートやレバレッジの活用など)への投資と、伝統資産以外のオルタナティブ資産(不動産、インフラ、コモディティなどの非伝統的な投資対象)への投資に大別できる。以上をまとめたものが図表8である。

図表8:オルタナティブ投資の分類


出所:各種資料より三菱 UFJ 信託銀行作成

狭義にはヘッジファンドとプライベートアセットを指してオルタナティブ投資と呼ぶことが多く、広義ではマルチアセットやコモディティなども含むことが多い。各オルタナティブ投資と伝統資産との相関を示したのが図表9である。

図表9:伝統資産とオルタナティブ資産の相関


出所:当社ポートフォリオ分析ツール MiRAI(※4)

※4 過去20年のデータを元に、弊社中期シナリオとして一定の仮定のもとで推計された期待リターン・リスクを前提に算出。本来、オルタナティブのリスク特性は個別プロダクトで異なることには留意。各資産クラスの将来の運用成果等を保証するものではない。プライベートアセット(ロー)はデット系、プライベートアセット(ハイ)はエクイティ系の各種戦略からの推計値。

何度か言及しているとおり、オルタナティブ投資と伝統資産との相関はいずれの手法においても低いことが確認できる。例えば、プライベートアセットの項目を確認すると、伝統資産との相関は-0.2~0.4 の間に収まっている(図表9の赤枠部分)。

ヘッジファンドも極端に高い相関がみられるわけではないが、リーマンショック以前と比べると金融機関における活用は少なくなった。その一因として、RORA(Return on Risk-Weighted Asset)に対する意識が高まっていることが考えられる。

RORAとは、金融機関が取っているリスクに対して収益をどれだけ上げているのかを示す指標で、一般的には“当期純利益÷リスクアセット”で算出される。特に、上場している地域金融機関では、決算説明会などでRORAについて言及されるケースが増えている。

分母に関わる有価証券運用における信用リスク計測手法は、バーゼルⅠからバーゼルⅡ(2007年3月)、バーゼルⅡからバーゼルⅢ(2027年完全実施予定)と改定が進むにつれ、大きく変化した。地域金融機関で広く採用されている標準的手法を使用した場合の、ファンド投資のリスクアセット算出方式は図表10のとおりである。

図表 10:リスクアセットの算出方式(標準的手法)


出所:金融庁(自己資本比率規制に関するQ&A)

特に、2019年3月の改定において、銀行がファンドを保有する場合に、ファンドの裏付けとなる資産などの信用リスクアセットの総額を算出する(ルックスルー方式)際のルールが明確化された影響が大きいだろう。ルックスルー方式を適用するには、ルックスルー明細情報が①十分かつ頻繁に取得されていること②独立した第三者により検証されていることの2点が求められることとなった。

市場性ファンドと非市場性ファンドで図表11の様な違いはあるが、この要件を満たせなかったためにルックスルー方式が適用できず、フォールバック方式の適用により1250%のリスクウェイトとなったヘッジファンドの例もみられた。このような規制の変更・厳格化が、金融機関のヘッジファンドの採択にも影響を与えたのだろう。

図表 11:ルックスルー方式の適用要件


出所:金融庁(自己資本比率規制に関する Q&A)

(2)私募 REIT

2013年頃から金融機関でも広く投資されているオルタナティブ資産として、私募REITが ある。上場REITと私募REITの特徴を比較したものが図表12である。

図表12:上場REITと私募REITの比較


出所:一般財団法人土地総合研究所

私募REITは、J-REITと同様の仕組で組成される不動産投資ファンドであるが、取引所に上場しないため、金融市場の動向に強く影響されることなく不動産鑑定評価を直接反映した価格形成がなされる(=時価変動が小さい)ことが最大の特徴である。一方で、リターンはJ-REITと同水準程度が期待できることから、多くの金融機関がポートフォリオに組み込んでいる。

現在の私募REIT市場全体の出資総額は約3.4兆円で、2013年当時と比較すると約10倍となっており(図表13)、そのうち中央金融法人(※5)は20%台後半、地域金融機関は30%台半ば程度のシェアを占めている(図表14)。

※5 銀行(地銀を除く)、生保、損保、系統中央機関等を指す。

金融機関全体で見ると残高は増加傾向だが、地域金融機関単体で見るとシェアは低下傾向にあり、他の投資家の需要が旺盛で必要額を積めていない可能性が窺える。また、バーゼルⅢの完全適用後はリスクウェイトが増加するため、今後はこれまでとおり残高を積むインセンティブが薄れることも考えられる。

図表 13:私募 REIT の出資総額推移


出所:一般社団法人投資信託協会

図表 14:私募 REIT における金融機関のシェア


出所:一般社団法人不動産証券化協会

(3)ダイレクトレンディング(海外)

先述のとおり、金融機関で足元関心が高まっているアセットがダイレクトレンディングである。ダイレクトレンディングとはプライベート・デット(ファンド等の「銀行以外の主体」による企業への貸付債権)の一種であり、主に中小企業を対象としたローンを指す。

欧米の金融機関は、2008年のリーマンショックや2010年の欧州債務危機以降、不良債権処理や自己資本比率規制の強化などを受けて、中小企業に対する長期貸出に慎重になった。また、2020年のコロナショックを経て結果的に企業債務が膨らんだことから、将来の返済能力と不良債権の増加を警戒している。かかる状況下で、中小企業における資金需要の拡大と金融機関からの限定的な信用供与というミスマッチを埋めるべく、ダイレクトレンディングの存在感が増している。

ダイレクトレンディングを含むプライベート・デットの運用資産残高は、図表15のとおり右肩上がり(2023年3月時点で1.5兆ドル超)であり、私募REITと違い投資機会が豊富であることが確認できる。余談だが、国内のローンマーケットでは引き続き金融機関のプレゼンスが高いため、ダイレクトレンディングのようなファンドを通じた貸出は浸透していない。

図表 15:プライベート・デットの AUM 推移


出所:Bloomberg

銀行融資とダイレクトレンディングを比較したのが図表16である。

図表 16:銀行融資とダイレクトレンディングの違い


出所:各種資料より三菱 UFJ 信託銀行作成

ダイレクトレンディングの特徴の一つは変動金利の案件が多いことである。多くの金融機関が外債投資で含み損を抱えている理由は、固定金利の債券をフルヘッジで投資していたケースが多かったため、金利上昇とヘッジコストの急騰に対処できなかったことにある。

その点、ダイレクトレンディングは金利リスクを抑えられ、金利変動時にヘッジコストをある程度吸収できるため、フルヘッジ外債の弱点をカバーしている。更に、スプレッドも相応に期待できることから、魅力的なアセットクラスに映るのだろう。

参考までに Preqin社が集計しているプライベート・デット戦略全体のパフォーマンスを見ると、リーマンショック時にマイナスリターンとなっているものの、それ以外の年は安定的にプラスのリターンを上げていることがわかる(図表17)。

図表 17:プライベート・デットのリターン分析例


出所:Preqin

日本の投資家に門戸を広げるマネージャーも増えており、マネージャーごとに戦略は多様なので、投資家が取れる選択肢もバリエーションに富んでいる。これらの背景から、当社店頭で確認できる金融機関のプライベートアセットへの投資額は、図表18のとおり2018年度から大幅に増加している。

図表 18:金融機関によるプライベートアセットAUM推移


出所:三菱UFJ信託銀行データ(推計値)

ダイレクトレンディングが投資対象として注目されている背景を改めて整理すると、

・伝統資産との相関が低い
・投資機会が豊富にある
・多くが変動金利型の企業向け貸出かつ非上場のアセットなので、市場環境要因による時価ブレが少ない
・多くが中小企業向けの貸出であり、スプレッドの厚さから相応のリターンが見込まれる

といった点になるだろう。また、リスクウェイトの点から見ても、ルックスルー方式が適用できればヘッジファンドや私募REIT対比で軽くなると想定され、RORAが高めになる可能性があるということも一因と考えられる。

Ⅳ.投資採用・拡大へ向けた論点・検討事項

これまで、投資対象が海外のプライベートアセットであっても、特に金融機関は直接投資 (LPSへの直接出資)をするケースが多かった。しかし、取組規模や投資家層の拡大に伴い、以下の様な課題も確認されるようになった。

・プライベートアセット運用は伝統的資産と比較して留意すべき項目が多く、ノウハウ習得や体制整備など相応の負担
・マネージャー間のリターン格差があるため、マネージャー選定が重要
・リスク軽減のため、戦略分散、地域分散、ヴィンテージ分散等を勘案したポートフォリオ構築が必要
・投資後のモニタリングや継続的な人材育成、確保が必要

これらの課題を解決するツールとして信託スキームの活用・検討も進んでおり、中でもケ イマン籍のユニットトラスト(以下UT)や指定金外信託(ファンドトラスト、以下 FT)もしくは特定金外信託(以下、顧問付特金)の採用が多くみられる。そこで、各投資スキームについて整理した後、それらのメリットやデメリットについてまとめたい。

(1)ケイマン籍UTについて

ケイマン籍UTは外国籍ファンドの一種だが、イメージをしやすくするために、まず国内におけるファンドの分類について整理する。いわゆるファンドを制度面で分類すると図表19 のようになる。

図表 19:国内におけるファンドの分類


出所:各種資料より三菱 UFJ 信託銀行作成

これと同様に、外国籍ファンドも外国投資法人(会社型)、外国投資信託(信託型)、外国集 団投資スキーム持分(組合型)の3つに大別される。このうち、外国の法令に基づき外国で設定された投資信託である外国投資信託の中に、ケイマン籍UTが含まれる。外国投資信託は公募投資信託でもよくみられる(※6)が、日本の機関投資家でも検討・活用が進んでいる(※7)。

※6 2023年上期末時点の公募外国投資信託証券の純資産総額は77,123億円となっており、一般投資家の間でも広く投資されていることが確認できる。
※7 他にもルクセンブルク籍、アイルランド籍、バミューダ籍等の外国籍投信がある。日本の機関投資家に広く活用されているのはケイマン籍とルクセンブルク籍で、それぞれ優劣はあるもののタックスヘイブンとしてのネームバリューや立ち上げまでのスピード感から特にケイマン籍が人気である。

図表20が、ケイマン籍UTを活用してプライベートアセットに投資する際のスキーム例 である。

図表 20:ケイマン籍 UT のスキーム例


出所:各種資料より三菱 UFJ 信託銀行作成

日本の投資信託であれば受託者がまとめて行うアドミニストレーター業務やカストディ業務等(※8)だが、ケイマン籍UTでは関係者を投資家が指名し、それぞれ契約を締結する必要がある。

※8 アドミニストレーターの主な役割は基準価格計算やレポーティング等、カストディの主な役割は有価証券等資産保管等である。また、この他の関係者としてトランスファーエージェントや弁護士等がいる。

(2)FT/顧問付特金について

FTとは、委託者が信託銀行と指定金銭信託契約を締結し、委託者の指定した範囲で信託 銀行が主に有価証券にて運用を行うスキームである。顧問付特金とは、投資家が信託銀行と特定金銭信託契約を、投資顧問会社と投資一任契約をそれぞれ締結し、投資一任契約により投資家が選任した投資顧問会社が運用指図を行うものである。

スキーム上は運用と管理が一体かどうかという違いがあるものの、いずれも信託という器を経由してLPSに出資するという点は共通している。なお、実際に取り組まれることは稀だが、信託銀行が投資顧問会社として投資一任契約を締結し、顧問付特金の形で運用することも可能である。

図表 21:FTと顧問付特金


出所:各種資料より三菱UFJ信託銀行作成

FTや顧問付特金は、機関投資家だけでなく、事業法人や非営利法人等の一般投資家でも 広く使われているスキームである。

(3)各投資手法の比較

LPSに直接出資する場合と先の2つのスキームを活用した場合のメリット、デメリットをまとめると次表のようになる。

図表 22:投資手法によるメリット、デメリットの例


出所:各種資料より三菱UFJ信託銀行作成

ケイマン籍UTとFT(もしくは顧問付特金)のいずれを選択するかは、投資家の属性やニーズ等に左右される。金融機関の場合は、主に以下の観点から検討が進められているよう に見受けられる。

業務純益に計上されるかどうか

ケイマン籍UTであれば投資信託(=その他の証券)になるため、分配が業務純益に計上さ れる。一方、FTは勘定科目が金銭の信託のため、分配は金銭の信託運用益となり業務純益ではなくその他経常収益に計上される。まだ業務純益を経営目標に据えている金融機関も多いことから、この点が関心事の1つになっている。

分配の自由度があるかどうか

ケイマン籍UTは外国籍投資信託なので、分配方針として定めることにより柔軟な対応が 可能となっている(※9)。FTは完全実績配当で、その点の自由度は無い。また、同様の理由でケイマン籍UTには特別分配金の概念が無く、配当金として受領した額を全額有価証券利息配当金に計上可能である点も、FTにはない特徴である。

※9 国内籍投資信託では、分配原資をインカムとキャピタルに分類し、安定的に分配原資とすることができる部分はインカムに限定される。

設定にかかる時間やコスト

ケイマン籍UTとFTを比較すると、関係者が多いケイマン籍UTの方がセットアップま で時間を要し、コスト面の負担も重い傾向がある。

(4)オルタナティブ投資の採用・拡大に向けて

これまで見てきたように、オルタナティブ投資は専門性が高く、専門家(ゲートキーパー、 以下GK)のアドバイスを活用して運用している投資家も多い。GKとは、単一の投資家に合わせてカスタマイズした運用ソリューションを提供する専門家であり、商品選定やそれらを組み合わせたポートフォリオの提案という役割などを担う。

GPIFも、オルタナティブ投資にあたってGKを公募・決定している。このような活用事例が広く認知されると、投資家層の一層の拡大につながるかもしれない。

図表 23:GPIFにて採用されているゲートキーパー


出所:GPIF ホームページ(https://www.gpif.go.jp/investment/alternative/)

Ⅴ.終わりに

オルタナティブ投資とりわけプライベートアセットは、これまで見てきたとおり、安定的に高い利回りを享受でき、時価変動が少なく、RORAの観点から見ても魅力的であることから着実に注目度が高まっており、比例して投資家層や投資額が増加してきている。一方で、オルタナティブアセットに投資する、また投資額を増やしていくにあたっては、例えば、専門人材の育成・確保やノウハウの蓄積など、投資家側でクリアすべき課題も多い。

そのような課題解決の方法としてGKの活用も一つの選択肢になるだろう。また、運用会社側からの情報発信強化も望まれる。オルタナティブ投資に期待する効果については、多少の相違はあろうが、総じてその目的はポートフォリオの利回り改善や伝統的資産との分散投資によるリスク・リターンの改善を図ることであろう。様々なバックテストなどの検証結果からもその有効性は高いものであると考えられ、投資対象として広がりの余地が大きいアセットには違いない。

ポートフォリオ運営を考える際にオルタナティブ資産組入れを検討することは、今後ますます重要になるといえる。本稿が、投資家のオルタナティブ投資検討の一助となれば幸いである。
(2024年2月15日 記)

【参考文献】
・『オルタナティブ投資入門-ヘッジファンドのすべて』山内英貴[2013]
・『The European Private Debt Opportunity』Arcmont asset management[2022]

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