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「日航」「震災」など危機対応業務に取り組む

J-MONEY2011年夏号 注目記事

日本政策投資銀行 竹内洋氏 特別インタビュー

国内唯一の中長期のリスクテイカーとして
「日航」「震災」など危機対応業務に取り組む

リーマン・ショック、日本航空の経営危機、東日本大震災、東京電力問題──。日本の経済・金融の根本を揺るがす大問題が発生したとき、つねにファイナンスの最前線に立つのが日本政策投資銀行(以下DBJ)だ。「日本型投資銀行」のモデルはどこに進もうとしているのか。取締役常務執行役員の竹内洋氏に、震災対応や民営化を含む今後の事業展開を聞いた。
(聞き手:柴田哲也/取材日:2011年6月24日)

患者の絶えない「金融救急病院」

──昨日(6月23日)付で橋本徹氏が新社長に就任しました。今回のトップ交代はギリギリまで報道されなかったので驚きました。
竹内 普通であれば正式決定のかなり前からさまざまな憶測記事が流れたんでしょうけれど、東日本大震災後の復旧・復興に世間の耳目が集まっている時期ですからね。マスコミもなかなか追いきれなかったのでしょう。

──先代の室伏稔氏、そして橋本氏と2代続けて民間出身者がトップに就きました。DBJの金融機関としての路線に何か変化は生まれそうですか?
竹内 そこはまだわかりません。ただ、思い起こせば、DBJは誕生時から危機対応業務を宿命づけられていた金融機関という想いがあります。行政改革および政策金融の抜本改革の一環として、2008年10月に旧日本政策投資銀行が解散し、株式会社化した今のDBJがスタート。一部には「日本版ゴールドマン・サックスを目指す」などという勇ましい意見もありましたね。同月末には内外から1200人を集めて発足パーティーを開催したんです。ところが、パーティー当日の夕方になって、政府関係方面などからDBJの当面の使命は「危機対応業務」と言われたんです。

──2008年秋といえばリーマン・ショックの影響が深刻化していた時期でした。
竹内 そこからは、患者の絶えない「金融救急病院」ですよ。30年間ずっと出してきた政府保証外債も出せなかったくらい流動性危機対応に追われました。まあ考えてみれば、モルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスが政府保証で3年債を出している市場に、DBJが長期の債券で出て行こうっていったって…。そんな状況でしたね。

──民営化路線の修正論の高まりを受けて、2009年6月には新DBJ法改正法が成立しました。
竹内 リーマン・ショックの次には日本航空の経営危機が切羽詰まった状況になってきます。DBJとしてはつなぎ融資といったファイナンスと人的側面の双方から支援を続けました。同社は2010年1月に会社更生法適用を申請し、2011年3月末に同手続きを終了します。日航案件の先が見え始めた2011年3月10日、当社のロンドン現地法人社長が来日し、DBJの今後の海外展開について議論していました。リーマン・ショックは「100年に一度」の危機でしたが、その翌日11日には「1000年に一度」の東日本大震災が発生したのです。

──DBJは4月、本店公共RMグループ、地域振興グループ、金融法人部など組織横断的な東北復興支援室を立ち上げ、復旧・復興の情報提供や各機関との連携を進めています。
竹内 地域経済の震災からの立ち直り具合を、補正予算など財源手当てを中心とした「復旧」、企業などがハードとソフトの両面で本格的に事業を再開する「復興」、そしてその後の「成長」と分けるならば、現時点(2011年6月末)はいまだ「復旧」でしょう。自動車部品関連のサプライチェーン修復のためのファンド設立などもその一環と捉えられます。震災発生から3カ月経った6月にインドネシア・ジャカルタで開催されたダボス会議に呼ばれたんです。通常、私のような銀行関係者が参加するのは金融や経済分野の集まりなのですが、今回は災害のセッションのパネリストになりましたよ。震災からの復旧・復興状況や、それらを支える側面としてのファイナンスについてコメントしてきました。

──海外が日本をどう見ているかよくわかりますね。DBJでは震災関連の危機対応業務として、5月末までに7件431億円の融資実行などを行っています。
竹内 メーン顧客の企業の資金ニーズには従来以上にきめ細かく対応していきます。一方で、震災後の今というタイミングでは、日本経済の大きな構造変化や新たな成長展開のなかで我々には何ができるかを考え、それに果敢にチャレンジする必要があります。例えば、東京電力への継続支援姿勢の維持や浜岡原子力発電所を停止した中部電力に対する1000億円融資のように、電力会社へのファイナンスもその一つといえます。

資金調達の「自立性」を高めたい

顧客や日本経済全体につねに寄り添うペースメーカーでありたい

──2011年5月発表の第2次中期計画では、最終年度の2013年度の当期純利益目標が650億円となっています。2010年度実績の1000億円に比べて低めに見積もっている印象を受けますが?
竹内 2010年度実績に関していえば、一連の危機対応による融資アセットの積み上げ効果で上ぶれした部分もあると思います。2013年度は、今回の震災の影響が読み切れない。また、その頃の法人税率の水準も不透明です。3年後の法人税率が40%と仮定したうえで、実力ベースで見た場合、650億円程度が相応かなと考えます。

──DBJの経営改善を着実に推進し、事業基盤を強化するための主要施策として「ミドルリスク分野の投融資を主軸にする」を掲げています。
竹内 投資マネーの軌跡をたどるとニューヨーク、ロンドン、それに上海、香港を目指して動いています。経済成長しているところにお金が向かうのは当然ですが、では翻って日本はどうか。東京キャピタルマーケットがシュリンクしていると言われ始めて久しいですが、これはリスクを取る人がいなくなっていることが大きな要因の一つと考えられます。そこで我々が、東京市場を本拠とするリスクテイカーとして存在感を発揮するこど、日本経済の中長期的な下支え機能を果たせると思っています。震災の復旧・復興における電力問題などでも、必要と判断すれば、粛々とファイナンスを提供する。私個人の意見としては、DBJが中長期的で不確実性が高い分野でリスクテイカーとして機能し、実物経済とファイナンスを結ぶ部分で名誉ある地位を占めることができれば、東京マーケットの復権に貢献できると自負しています。

──「中長期のリスクテイカー」をめざした具体的な取り組みは?
竹内 我々は2009年5月、行内の調査部を「産業調査部」と名称変更しました。一般の預金取り扱い金融機関は、住宅ローンや個人ローンを含めて短期のスパンで銀行業務を考えなければなりません。しかし我々はそうではない。20年先、30年先を見すえて日本経済を支えていくのが使命です。不確実性が高い時代には、クレジットをチェックするだけの従来型の対応では、中長期のリスクテイカーとしての役割を果たすことは難しい。それを支える機能の一つとして、産業構造の変化や企業の継続性について多角的に考察するのが、当行の産業調査部です。今回の名称変更は、我々のスタンスを示す象徴的なトピックといえます。2011年4月に運用開始した「DBJGreenBuilding認証制度」もそう。これはオフィスビルの省エネや耐震性能、防災対策などを独自開発した総合モデルでスコアリングするもので、評価の高い順から「プラチナ」「ゴールド」「シルバー」「ブロンズ」の4段階で認証します。すでに都内や九州で同認証の取得案件が誕生しています。この制度を通じ、我々がリスクを取って皆さんの目利きの先端を行くことで、投資マネーが巡り、ひいては不動産金融市場の整備・育成につながることをめざしています。

──2013年度の総資産は2010年度より約3兆円多い15兆円程度を見込んでいます。内訳では貸付金などが14兆円弱、投資などが6000億円程度としていますが、収益性を高めるために「投資」部分のウエートを高めていくという考えはありますか?
竹内 我々は投資銀行なので、エクイティ(出資)かメザニン(劣後債または優先株式)かなどの形態は別にして、収益性向上のために投資部分の比率を高める方向性にあるのはもちろんです。しかし、短期の数値目標に向かって突き進むのではなく、顧客や日本経済全体に寄り添う形で進んでいきたいですね。スタートから5キロ地点では他の金融機関も熱心にサポートしてくれたが、30キロ過ぎたらみんな勝手に歩き出してしまった。42.195キロの最後まで伴走してくれたのはDBJだけ、というペースメーカーのような存在でありたいと思います。

──2011年6月にはDBJアジア金融支援センターを開設しました。地方銀行に対する地域企業のアジア進出支援に向けた情報を提供するとしていますが、反応はいかがですか?
竹内 地域銀行にとってはDBJ独自のネットワークからもたらされる情報により取引先のアジア進出支援をさらに強化できること、DBJにとっては加速する地域企業のアジア進出へのサポートを通じて国際業務全般の高度化・多様化を図ることが期待できます。「進出先の労働法制はどうなっているのか」といったものから、「輸出を検討している国の紙おむつの基準を知りたい」など、お問い合わせの内容は非常に多岐にわたっています。

──2011年度は最大で総額3500億円の社債発行を計画しています(政府保証付社債を除く)。これは2008年10月の株式会社化以降の発行額総計より多いほど。社債の大量発行の狙いは?
竹内 抜本的な財政改革が行えなければ、国債の発行額は今後ますます増えていくでしょう。するとDBJの政府保証債などは、中長期的には市場から押し出されていく可能性もあるわけです。我々は現在も地方銀行からの借り入れなど資金調達の多様化に取り組んでいます。しかし、投資銀行である以上、やはりキャピタルマーケットで調達するのが本来の姿だと考えます。民営化が先に延びたとはいえ、ファイナンスの面においていつでも自立できるだけの力は持っておきたいと思っています。

「ワンアンドオンリー」の存在へ

今のDBJは「金融機動隊」 危機対応業務のプロが育っている

──政府系と民間系の間に位置するハイブリッド金融機関としての立ち位置の難しさのようなものは感じませんか?
竹内 私はあまり感じませんね。米国ではリーマン・ショックが起こったとき、FRB(連邦準備制度理事会)、財務省、ニューヨーク連邦準備銀行がマーケットを支えに出動しました。日本の場合は、最近日本銀行が割と工夫されて資金供給していますが、危機が起こったときに真正面から対応する組織ではない。冒頭の発足パーティー当日に「危機対応業務」が始まったように、いいか悪いかは別にして、金融有事の際は我々が先頭に立つ流れにあるのは事実です。私は今のDBJは「金融機動隊」だと思っています。だから、東京電力救済の話が持ち上がったとき、率直なところ、行内はそんなに困惑しなかった。それは日本航空の経営問題を通じて、危機対応業務におけるプロフェッショナルが育っているからです。行内の日航チームにいた若手が、現在、電力プロジェクトチームで汗をかいています。

──危機対応業務におけるノウハウが着実に積み上がっているわけですね。
竹内 DBJの企業理念は「金融力で未来をデザインします」です。ここで言う「金融力」とは、いわゆる金融工学的なものではなく、他の銀行や証券会社ではできない金融を通じての日本経済や社会への貢献という意味合いです。日航の問題が浮上したときは、航空機産業における原理原則は何か、グローバル競争で勝ち残るためにはどのような立て直し策が求められるのかといったさまざま点を考え抜きました。今は電力問題に端を発したエネルギー供給制約という日本経済のマイナス要因に対して、ささやかながら金融として何ができるか、一生懸命勉強しています。先代の室伏社長が当行の特色として言われた「ワンアンドオンリー」を目指し続けるのがDBJなんです。知恵の出しよう、やりがいがあるため、若いスタッフたちは燃えていますよ。モチベーションが非常に高いですね。

──民営化の道筋はまだ見えませんが。
竹内 我々の課題は、経済や社会の構造変化を誰よりも先に見つけて、そこに対してリスクマネーを供給することによって、結果的に長期にわたる収益を上げるスキームの構築です。そのなかで、おのずと道筋が見えてくると思います。日本にはこういう金融機関がありませんからね。さらにありがたいことに、今のところは上場していないので四半期の業績にこだわらなくていい。この点は、国内唯一の中長期のリスクテイカーとしてさらにステップアップする我々にとって大きな強みだと思っています。