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J-MONEY2019年4月号 注目記事

E S G 特集

「見える化」と社会的リターンの評価

近年、年金など長期投資性向の強い資金を運用する機関などで、将来の事業リスクや競争力などを勘案するため、ESG投資の採用が活発化している。ESG投資は欧米諸国を中心に進んでいるが、その評価や効果の測定は依然試行錯誤の段階にある。ESG投資を通じて社会に貢献することと、リターンの関係性ついて考察する。

長期的に超過収益を産む
「理念」に支えられる投資

 ESG投資については常にリターンの議論が注目されてきた。ESG投資でリターンといった場合、通常のリターン(以下、経済的リターンと呼ぶ)に加えて「社会的リターン」も考慮する必要がある。この社会的リターンの認識こそ、ESG投資をそれ以外の投資から一線を画させているものだ。

 最も重要なことは、ESG投資は、社会的リターンが長期的に超過的な経済的リターンを産み出すという「理念」に支えられているということである。以下、経済的リターンと社会的リターンそれぞれについて検討してみよう。

資本市場の原則とは逆の
投資理論が展開される


首都大学東京特任教授
京都大学客員教授
加藤 康之
1980年に野村総合研究所入社。1997年に野村證券に転籍、2005年から執行役と金融工学研究センター長などを兼任。2011年より京都大学教授、2015年から現職。専門は投資理論、金融工学。著書に『金融工学時点』(東洋経済新報社)、『株式投資の科学』(角川書店)など

 まず、経済的リターンから考えていく。最初に思いつく疑問は、「ESG投資のリターンは超過リターンをもたらすのか?」ということだろう。なお、ここではESG投資を「ESG評価の高い銘柄を組み入れるポートフォリオ(以下、ESGポートフォリオと呼ぶ)への投資」と定義する。

 ESG評価が高いということは良い企業のはずだから、当然そのリターンも平均より高いに違いない、と考える人は多いかもしれない。しかし、投資理論的には逆になる。資本市場の基本的な原則は、リターンが高ければリスクも高く、リスクが低ければリターンも低い、というトレードオフの関係だ。

 ESG評価が高い銘柄はリスクが低いと考えるのが一般的である。これを前提とすれば、ESG評価の高い銘柄のリターンは低く、ESG投資のリターンも低いと考えるのが投資理論の自然な帰結になるだろう。

 もちろん、市場は必ずしも理論通りに動かない。そこで、代表的なESGポートフォリオである主要なESGインデックスの過去の超過リターンを検証してみる。下図は、主要なESGインデックスの3市場(日本、米国、英国)における超過リターンだ。どのインデックスも超過リターンはほぼゼロであることが分かる。検証対象の数や検証期間の長さは十分とはいえないものの、少なくともESG投資をすれば超過リターンを得られるという簡単な話ではなさそうだ。では、ESG投資は経済的リターンと無関係なのだろうか。実は、重要な関係があることが分かっている。

G評価は織り込み済み
E・S評価は今後に注目

 ESG投資が経済的リターンと重要な関係性があることを確認するにあたり、まずはESG評価と株価(企業価値)との関係を明らかにしたい。ここでは、ESG評価が企業価値に織り込まれているか否かを検証する。つまり、ESG評価が高い企業ほど企業価値は高く(資本コストは低く)、ESG評価が低い企業ほど企業価値が低い(資本コストが高い)、という関係が成立しているか否かを見ていく。

 これについてはいろいろな研究がされているが、G(ガバナンス)を中心におおむね肯定的な研究結果が多い。例えば、筆者が行った研究(「ESG投資の研究」一灯舎刊、2018年参照)では、ESG評価をE、S、Gの3つに分けてそれぞれ検証しており、G評価については企業価値に織り込まれていることが示されている。

 一方、E評価やS評価については同様な関係が見い出せなかった。日本では、アベノミクスの一環として企業のG改革が行われてきた。その結果、投資家も企業のG評価に着目するようになっている。したがって、G評価が企業価値に織り込まれているという結果は納得のいくところだ。しかし、EとSについてはまだ市場に織り込まれていないとも考えられる。逆にいえば、今後織り込まれてくる可能性があり、注目したい部分だ。

 ところで、ESG評価が企業価値に織り込まれるとしても、それだけで超過リターンをもたらすことはない。超過リターンを得るためには、ESG評価が将来向上する銘柄を予想して投資する必要がある。あるいは、すでに投資した企業に働きかけESG評価を向上させることができれば超過リターンを得るということになる。つまり、ESG評価が向上する過程で超過リターンが期待できるといえる。ちなみに、後者はエンゲージメント活動と呼ばれ、運用手法の一環として重視されるようになっている。

社会的リターンの評価に
SDGsを紐づける

 次に、ESG投資の2つめのリターンである社会的リターンについて考えていく。ESG投資によって社会がよくなったとすれば、その分を社会的リターンと考える。例えば、世界の二酸化炭素の排出量が減った、アフリカで乳幼児の死亡率が下がった、といったことが挙げられる。

 冒頭で述べたように、ESG投資とはこの社会的リターンが長期的に超過的な経済的リターンを産み出すと考える(信じる)投資だ。したがって、ESG投資においてはこの社会的リターン、そしてその評価こそがもっとも重要である。ESG評価の高い銘柄からなるESGポートフォリオに投資をするということは、ESG対応の優れている銘柄に投資するため、高い社会的リターンを得られると期待できる。

 ESG評価の高い企業は本当に高い社会的リターンを産み出すか、という点は十分な検証が必要になろう。ESG評価とは、その時点のESG対応状況を示しており、その後実際に社会的リターンを産み出すかどうかは保証されていない。したがって、本当に社会的リターンを産み出しているのかどうかの検証が欠かせない。ESG投資はこの部分が見えにくいため、社会的リターンの適正な評価を通してESG投資の見える化を進めることが求められる。

 企業が社会的リターンを産み出す事業を行っているのかどうかを評価する際に、SDGsを利用することが提案されている。SDGs とは、2015年に国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs;Sustainable Development Goals)のことで、社会的貢献事業の目標をわかりやすく17に分類している。

 SDGsはもともと国の開発目標として策定されたが、現在では民間企業の社会的貢献事業の分類として認知されるようになっている。企業は自社の社会的貢献事業の評価をこのSDGsに紐づけて、投資家にもわかりやすく示すことが可能だ。いずれにしろ、社会的リターンの評価、つまり、ESG投資の見える化こそがESG投資をさらに推進させるための必要条件といえるだろう。