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銘柄選択の説明責任をどう果たすか

アセットマネジャーズVol.4 注目記事

AIと金融ビジネス

膨大な統計分析で投資判断をサポート
銘柄選択の説明責任をどう果たすか

ビッグデータを基に運用する投資信託など、AI(人工知能)を利用した投資が増加している。金融ビジネスにおけるAIの活用状況と課題について、関係者に話を聞いた。

「ビッグデータ」の争奪戦が激化
長期投資の継続的成功が目標

AIなしでの運用は難しい時代に


NTTデータ
金融事業推進部
デジタル戦略推進部 部長
山本 英生氏(左)

AIファイナンス応用研究所
所長
櫻井 豊氏(右)

 資産運用業界は、他の分野よりもAI活用のハードルが高いといわれている。市場環境が目まぐるしく変化するため、いくら良いAIを開発してもすぐに機能しなくなる可能性があるからだ。AI自身の投資判断も市場に影響を与えるので、将来予測の難易度はますます高くなる。

 一方、短期の取引であれば一定のリターンを狙うのも難しくない。したがってAIを活用した運用手法としては、マイクロ秒単位のアービトラージ機会をいち早く察知する高速・高頻度取引がまず主流となった。現在はスピード競争も一服しつつあり、次の段階としてAIによる長期運用への取り組みが注目を集めている。

 AIファイナンス応用研究所 所長の櫻井豊氏は、「AIによる長期投資で継続的な成功を収めている例はまだ少ない。現時点でAI運用に過剰な期待を寄せるのは危険だ」と警鐘を鳴らすと同時に、「市場変化のスピードが速いのは人間にとっても同じ。AIなどのツールを駆使すれば、マーケットの変化をより早く捉えられる。AIは投資判断のための統計分析機能としては非常に有用であり、その力を借りずに人間だけで運用するのは難しい時代になりつつある」と指摘する。

 AI運用の状況と課題を考える前に、従来からのクオンツ運用との違いを整理しておこう。AI運用は情報を定量的に分析する点でクオンツ運用と似ているが、天気やインターネット上の書き込みなど幅広い分野の膨大なデータを基に投資判断を行う点が大きな特徴だ。また、クオンツ運用の場合はどのような情報を用いればリターンに繋がるか人間が考える必要があるものの、AIは投資判断に用いるデータの選択も自動で行う。

 商品設計上のAIの取り入れ方も多様だ。銘柄の選択から投資の実行までをAIが一貫して行うケースもあれば、AIがピックアップしてきた銘柄リストを基に人間がポートフォリオを組む方法もある。


アストマックス投信投資顧問
クライアント・サービス部
原川 大氏(左)

運用部 シニアファンドマネージャー
日本証券アナリスト協会 検定会員
広居 卓也氏(右)

 アストマックス投信投資顧問が2017年に立ち上げたAI運用の私募ファンドでは、ポートフォリオの組み入れ銘柄を全てAI が選定している。リスクコントロールのみを人間が担う立て付けだ。銘柄選定では、同社に出資しているヤフーのビッグデータを、ヤフーの子会社であるMagne-Max Capital Managementが開発したアルゴリズムを用いて分析する。

 一般にAI運用には、ビッグデータとそれを分析するアルゴリズム、データ処理を行うスーパーコンピューターなどインフラの3つが必要だ。なかでもデータについては、運用会社間の争奪戦が激化しているという。

 アストマックス投信投資顧問 運用部シニアファンドマネージャーの広居卓也氏は、「当社のファンドは運用を始めて1年程度だが、ヤフーのクローズドなデータを排他的に使用していることもあり、AIが寄与している部分は設定来プラスを維持している。想定通りの結果が出ている状態だ」と明かす。

人間には見つけられない投資機会

 AI運用は、膨大なデータ分析により人間には見つけられない投資機会を見出せる半面、銘柄選定の過程はブラックボックスになってしまう。

 例えば「気温」というデータ一つをとっても、1カ月平均なのか、3カ月の移動平均で見たのかなど定義は無限だ。AIはこうした無数の情報の組み合わせから儲けに繋がる法則を発見し、その獲得にマッチしたポートフォリオを導く。桁違いの情報量を扱うため、人間が銘柄選びの理由を把握するのは実質不可能といえるだろう。運用会社などが説明責任をどう果たしていくかは、AI運用の大きな課題の一つともいえる。

 アストマックス投信投資顧問 クライアント・サービス部の原川大氏は、「銘柄選択の理由を明確にできない点について、顧客には事前に理解してもらう。どのようなデータを使用しているのか、どの銘柄がリターンに寄与したかなど把握できる範囲の情報を共有し、最終的にはパフォーマンスで納得していただく」と語る。

 運用過程がブラックボックスであることとパフォーマンスの良し悪しは別問題との意見もある。広居氏は、「成績が下がったときに投資判断の理由が説明できたとしても、下がった結果を変えられるわけではない。AIによる運用過程の説明は確かに困難だが、従来のクオンツ運用などと比較しても結果の予測力は優れている。人間では理解できないような高度な運用を実現するのが、AI活用の意義だろう」と解説する。

 AIの活用における説明責任についての議論はまだ始まったばかりだ。投資家側と運用側それぞれが、どのようなスタンスでAIを活用したいのかを明確にしておく必要があるだろう。

量子コンピューターの活用で
複数の銘柄間の相関を視覚的に把握

AI運用を支える高い情報処理能力

 AIとともに、人間の投資判断をサポートする新技術という意味で脚光を浴びているのが、量子コンピューター(量子アニーリング方式)だ。

 従来のコンピューターに比べ、量子コンピューターは「組み合わせ最適化問題」をより高速で解けるといわれている。「組み合わせ最適化問題」とは、複数の地点を一筆書きで周るときの最短ルートを探す「巡回セールスマン問題」に代表される、膨大な計算量を必要とする難題だ。

 一般的なコンピューターで「巡回セールスマン問題」の全選択肢を検索して解く時間は、10地点を周る場合で15分、12地点になると丸2日と、指数関数的に増加していく。そのため、従来のコンピューターでそれ以上の地点数の「巡回セールスマン問題」を全検索のやり方で解くのは現実的ではない。

 しかし量子コンピューターの力を借りれば、地点の数を40程度まで増やしても数時間で解を導くことができる。膨大な計算処理の伴うAIの台頭に合わせて、量子コンピューターの高い情報処理能力への期待が集まっている。

パッシブ商品の組成にも役立つ

 AIファイナンス応用研究所とNTTデータは、量子コンピューターを使って複数の通貨や株式の値動きの相関を図表に落とし込むプロジェクトに取り組んでいる。これも一種の「組み合わせ最適化問題」にあたるという。

 NTTデータ金融事業推進部 デジタル戦略推進部 部長の山本英生氏は、「現在すでに、32銘柄の並べ替えおよび図表化に成功している。従来のコンピューターでも2つの通貨・銘柄間の相関は調べられたが、ここまで多くの銘柄同士の関係を整理し、鳥瞰するのは不可能だった。図表に示すことで専門知識がなくても直観的に理解でき、すぐに投資判断に生かせる」と語る(図表1、2)。

■量子コンピューターを活用した「銘柄の相関の整理」(図表1、2)、(クリックすると拡大)

 単に相関を見るだけでなく、似た値動きをした銘柄同士をクラスタリング(グループ化)し(図表3)、なかでもボラティリティの大きい銘柄をマークすることも可能だ(図表4)。図表の中央にあるクラスターほど全体の平均に近い値動きをし、近くにあるクラスター同士は連動しやすい。

■量子コンピューターを活用した「銘柄の相関の整理」(図表3、4)、(クリックすると拡大)

 具体的な活用方法としては、例えば図表の中心近くにあるクラスターからボラティリティの高い銘柄を除いたパッシブファンドの組成がある。指数に近い値動きをしながら、より安定的に推移することが期待できる。他にも、定期的にデータを更新し時系列の変化を確認すれば、市場の構造的な変化を可視化できる。

 山本氏は、「個別株同士、産業単位での比較も可能だ。すでに実用段階にあり、現在いくつかの金融機関と商品化に向けて話し始めている。価格・サービス体系は調整中だが、量子コンピューターをまず使用するだけであれば、数百万円程度からスタートできるのではないか」と説明する。

 「情報収集や分析などのノウハウは、市場の変化が激しい時代にこそ重要だ。過去のデータの特徴をあぶりだすことはAIの得意分野といえる。まずはAIや量子コンピューターを投資のサポートとして活用することで、資産運用業界はより発展していくはずだ」(櫻井氏)