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成功報酬の相場は収益の10%程度

J-MONEY2018年秋号 注目記事

機関投資家のポートフォリオ戦略

オルタナティブ投資の委託先「ゲートキーパー」
成功報酬の相場は収益の10%程度

低金利環境が続くなか、年金基金などの機関投資家の間では、伝統的な資産とは異なる値動きが期待できるオルタナティブ資産へのニーズが高まっている。しかしオルタナティブ投資には高い専門性が求められるため、インハウス運用は難しいのが現実だ。そこで関心を集めているのが、目聞き役としての「ゲートキーパー」だ。付き合い方を関係者に聞いた。

運用総額や管理コストなどを勘案し
国内外に拠点を持つ委託先の選定を

 GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は2017年末、「様々な運用手法の情報収集を迅速に行い、より柔軟に運用機関の選定を行うこと」を目的にオルタナティブ資産の運用委託先募集を開始した。2018年8月現在、インフラストラクチャーで5社、不動産で1社の委託先を選定した。このような運用委託先は「ゲートキーパー」と呼ばれ、流動性の低さや情報の非対称性などの障壁があるオルタナティブ投資の台頭とともに、年金基金など機関投資家の間で関心を集めている。現在、プライベート・エクイティ(PE)や不動産、高利回りのレバレッジド・ローンといった資産での運用においてニーズが多いようだ。

 ゲートキーパーには、大きく分けて2つのタイプがある。ファンド・オブ・ファンズのマネージャーとしてファンドの選定から運用までを行うタイプと、投資家ごとにカスタマイズしたポートフォリオを提供するアドバイザータイプだ。後者はさらに、投資一任型と助言のみを行うタイプに分けられる。

 ファンド・オブ・ファンズ型は複数の投資家に同一のポートフォリオ(ファンド)を提供することが特徴だ。いくつかの投資家の運用資金が1つのポートフォリオに集められるため、それぞれの投資家の運用金額が小さくても、大口案件や幅広い案件へ投資できる。比較的少額の運用を検討しているケースや、効率よく分散性の高いポートフォリオを組みたい場合などに適した委託先といえるだろう。一方のアドバイザー型の魅力は、やはりテーラーメイドのポートフォリオにある。投資家ごとのニーズに合わせた、柔軟できめ細やかな運用が可能だ。

 GPIFのような大規模な投資家が、複数のゲートキーパーと契約するケースもよく見受けられる。ただし過分散には注意が必要だ。国内外のPEを中心に、オルタナティブ投資を1990年代から経験してきたあけぼの投資顧問 CEO 兼 CIOの白木信一郎氏は、「ゲートキーパーを増やすごとに日々のコミュニケーション、キャッシュフロー処理、最終投資先の情報確認などにかかるオペレーションコストは膨らんでいく。バックオフィスの負担許容度まで考慮し、コントロール可能なポートフォリオを構築したい」と語る。

 また、海外と国内どちらの委託先を選ぶかの判断も重要だ。そもそも国内のオルタナティブ投資先は多くないため、国内投資に限ればゲートキーパーは不要という考え方もある。他方、海外のゲートキーパーには言語や時差の壁がある。「多くの投資先にアクセスできる海外拠点と、円滑なコミュニケーションが可能な国内拠点の両方を持つゲートキーパーが望ましいだろう。海外に提携先があり、グローバルなアクセスを確保している国内系ゲートキーパーも選択肢の1つだ」(白木氏)。

 ゲートキーパーの選定ではコスト面も重視したい。報酬体系は委託先のタイプによって異なる。白木氏は、「ファンド・オブ・ファンズ型は運用総額に対して1%程度の運用手数料が一般的だ。かつては収益に対して成功報酬は10%前後が多かったが、最近では料率を下げたり、設定しないファンドなども見られる。アドバイザー型では、投資額が上がるにつれ運用手数料が段階的に下がるなど、運用総額に左右されやすい。例えば10億円の運用で1億円の利益が発生した場合、手数料は年間1000万円前後、成功報酬は実現した利益の10%である1000万円ほどが相場だ」と説明する。「経験値、再現性ある投資実績、得意分野、交渉力などもゲートキーパーの実力を計るポイントになる。運用総額や管理コストとのバランスも勘案し、総合的な損益分岐点を意識した選定を行ってほしい」(白木氏)。

30年を超える運用経験と知見で
投資家ニーズを具現化する

 運用会社の中には、金融商品に加え、付加価値の一環としてゲートキーパー・サービスを提供しているところがある。例えば、東京海上アセットマネジメントは、PE、ヘッジファンド、海外インフラ、海外不動産への投資におけるゲートキーパー業務に従事。同社のオルタナティブ投資の運用資産残高は、2012年3月末時点と比べると、2018年8月末時点で4倍近くにまで拡大している。

 東京海上グループのオルタナティブ投資は、1986年にスタートした。ほとんどの投資対象がプライベートファンドであり、これまで構築してきた同社と投資先の信頼関係が運用力に生かされているという。同社の常務取締役 オルタナティブ運用本部長の後藤伸樹氏は、「東京海上グループにおける30年を超える運用経験と知見は、優良ファンドの選択眼のみならずファンドへのアクセス力にも結びつく。ファンドによっては、運用手数料の減額交渉も可能なケースもある」と述べる。

 同社のゲートキーパー業務は主に、①運用戦略の策定 ②投資先ファンドの選別 ③ポートフォリオの最適化 ④モニタリング ⑤運用報告――という5つで構成される。オルタナティブ投資はファンド投資が主流だが、ファンドによっては何千もの企業や数百もの不動産を組み入れている。日本から独自に個別精査したうえで選別投資することは現実的とはいえないだろう。そこで同社は各資産を代表する海外の運用機関と連携し、当該運用機関が推奨するファンドマネージャーのリストやファンド評価のデータベースをうまく活用しながら、効率的にファンドを選別する手法を取る。

 同社の海外不動産投資部長の川野真治氏は、優良ファンドの見極め方について、「不動産の場合、競合優位をもたらす戦略の有無と、戦略の実行力を見ていく。マネージャーとの面談により戦略を確認でき、物件実査により実行力を確認できる」と説明する。具体的には、組み入れ物件が200あるとすると、そのうち「価格面で上位を占める物件」「問題を抱える物件」「直近購入した物件」の3つを押さえることが有効だという。「特に、長い歴史を持つファンドは、過去の遺産によってトラックレコードがかさ上げされ、現在の運用チームの実力を正確に反映していないケースが多々ある。最近購入した物件にこそ、いまのチームの実力が如実に現れる」(川野氏)。

 いったん投資したファンドが将来にわたって優良であり続けるとは限らないため、投資実行後のモニタリングも非常に重要なプロセスだ。同社は、ファンドを運用する各マネージャーを定期的に訪問する。海外不動産だけでも年間300回を超える面談をこなすとともに、電話会議やメールのやりとりも頻繁に行う。年金基金などの機関投資家は、ゲートキーパーがまとめた報告書を確認することで、投資先ファンドの運用状況を容易に確認することができる。

 川野氏は、「機関投資家への定例の運用報告は四半期に1度だが、それ以外に、訪問や電話などのコミュニケーションも月に数回は重ねる。密に連絡を取り合うので、その分投資家のニーズを具現化できる可能性が高まる」と話す。

 機関投資家は、運用の基本方針を明確に定める一方で、エグゼキューションについては裁量を与えて任せることにより、ゲートキーパーの能力を最大限に引き出すことが可能だ。「その分、ゲートキーパーには、客観性を保った提案や実行が求められる。当社は今後も投資家ニーズの理解を第一とし、体現するよう努めていく」(後藤氏)。

企業年金連合会のPE投資とゲートキーパー
次世代の運用者の発掘やリアップの判断にも期待


企業年金連合会 
年金運用部
プライベート
エクイティグループ長
高橋 修三氏

モニタリングの質に直結

 企業年金連合会のPE 投資の歴史は2002 年まで遡る。当初はファンド・オブ・ファンズ中心のポートフォリオを構築していたが、2007年に海外のゲートキーパーを採用し、ゲートキーパーのアドバイスに基づいた専用セパレート・マネージド・アカウント(SMA)での運用を開始した。

 一般的に、PE 投資は運用者によって運用成績に大きなかい離が生じるほか、リターンの再現性が他のアセットと比べて高いとされる。同連合会 年金運用部プライベートエクイティグループ長の高橋修三氏は、「グローバル分散を意識した大規模なポートフォリオの構築はゲートキーパー抜きでは難しい」と語る。

 高橋氏は、ゲートキーパーに求める主な機能として、「GP(優れたファンド)へのアクセス力」「DD(デューデリジェンス)力」「モニタリング力」「ポートフォリオ構築力」の4 つを挙げた。ゲートキーパーに期待されるアクセス力とは、必要とするコミットメント金額を確保してアロケートするだけでなく、アドバイザリーボードのボードシート確保なども含め、GPとの緊密な関係を構築することも含むのだという。高橋氏は、「ファンド運用者とゲートキーパーとの良質な関係は、DD の精度や投資後のモニタリングの質にも直結する」と指摘する。

 実績のあるファンドが大型化する過程で、これまでの案件サイズにこだわりたいとしてスピンアウトするケースや、新しいプロダクトラインとして新シリーズファンドを設定する事例が最近は増加傾向にある。「アクセス力という意味では、確立されたファンドだけではなく、スピンアウトファンドなどの新しいGP、次世代のスターとなりうる運用者をいち早く見出し、投資家に推奨することも期待している」(高橋氏)。

ポートフォリオ構築のサポート

 PEファンドはファンド期間が10 年以上の長期にわたり、原則として途中解約ができない。通常、投資成果がまだ出ていないタイミングで後継ファンドが設定されるため、継続して再投資(リアップ)を行うかの判断は実は簡単ではないのだという。「本来的には、信頼する優れたGP が運営するファンドに長期継続的に参加し関係を深めていくことが理想。やみくもに新しいGPを加えていけばよいわけではない。一方で、一度投資したら機械的にリアップし続けるのも問題がある。ゲートキーパーには、運用状況や運用チームの変化などを踏まえたうえで、リアップ検討に必要な適切なアドバイスを期待する」(高橋氏)。

 セカンダリー投資や共同投資などを含め、総合的なポートフォリオの構築をサポートすることも欠かせない機能の一つだ。昨今では、個別企業への投資経験のある人材を採用した共同投資の専用チームをゲートキーパーが抱えることも増えているという。高橋氏は「当連合会のPE投資においても共同投資戦略は重要なポートフォリオ構築上のツールであり、今後も強化していく分野のひとつだ」と話す。

 同連合会では現在、ゲートキーパー2社に加え、共同投資を専用に行う1 社へ委託している。「ゲートキーパーを複数採用するかどうかは、投資家側の内部リソースや投資プログラムのサイズなどによって異なるだろう。ゲートキーパーはパートナー。重要なのは、最終投資家である我々自身が投資プログラムの長期設計図を描き管理運営することだ」(高橋氏)。