• 中国政府は不動産企業支援へ政策転換
  • 中国政府によるIT業界締め付け政策は終了
  • 中国政府は西側との良好な通商関係を再構築
  • 中国経済の回復は円高インプリケーション

筆者は、これまで今後のドル円相場予想に関して中国発の世界的な金融不安の勃発が急激な円安修正の契機の1つとなる可能性に言及してきたが、その見方は修正を迫られつつある。結論を先に述べれば、円安修正は前倒される一方緩やかなものになろう。

中国政府は不動産企業支援へ政策転換

梅本徹
J-MONEY論説委員
梅本 徹

1つには、2023年1月13日にPBOC(中国人民銀行)の鄒瀾金融市場局長が、不動産企業支援のパッケージを公表したことである。これによって、中国政府は名実ともに不動産企業支援へ政策転換することになる。これまで、中国の積極的な資産バブル潰し(いわゆる、Lean against the wind)が日本の轍を踏めば、中国発の世界金融不安に発展することが懸念されてきた。

今回のパッケージによって、まず、2020年夏に導入された不動産企業への資金調達制限が緩和される。「3つのレッドライン」と呼ばれる資金調達規制の内容は、①総資産に対する負債比率70%以下、②自己資本に対する負債比率100%以下、保有現金に対する短期負債比率100%以下となっていた。

さらに、同パッケージには、100億元の賃貸住宅向け融資、業界再編推進のための金融資産管理会社の資金計画、不動産会社のバランスシート改善のための株式調達等への中国政府による支援が含まれている。中国政府は、共産党大会後の2022年11月以降、従来の厳しい不動産政策の転換に向けて動き始めていた。また、PBOCと保健監督管理委員会は、2023年1月5日に、2022年9月末に年内限定で導入した住宅ローン金利の下限撤廃措置を恒久化すると発表している。

中国政府によるIT業界締め付け政策の終了

1つは、2023年1月7日に、中国金融監督局トップの郭樹清氏が、IT(プラットフォーマー)企業14社の金融業務是正の完了を宣言したことである。これは、中国指導部がIT業界への締め付け一辺倒の姿勢を修正し、成長を促す方向に転換したことを意味する。

「共同富裕」を掲げる指導部は、民間のIT企業が決済網を握ることに警戒感を覚る一方、同企業が巨額の利益を稼ぎ、独占的地位を利用して取引先等に圧力をかけたことなどから、2020年秋より、IT業界への締め付けを強化してきた。

今回の政策転換は、2022年12月の共産党の中央経済工作会議が決めた「経済成長の牽引、雇用創出、国際競争においての発展を支援する」との方針を踏襲したものである。

中国政府は西側との良好な通商関係を再構築

1つは、2023年1月2日付けFT(フィナンシャル・タイムズ)紙の社説 ”Stopping China’s growth cannot be a goal for the west” の中で、ギデオン・ラックマン氏が論じているように、「失敗する中国は世界の安定に対する脅威になるかもしれない。西側は中国が貧しくなうように仕向けたり、中国の発展を阻止したりする政策を立案するのではなく、より豊かになり、力を増す国際情勢に注目すべきだ。中国が攻撃的な政策を追求することが魅力的でなくなる世界秩序を作ることを目標にすべきだ」というような国際世論が今後進展するかもしれない(一部日経新聞より抜粋)。

かつて筆者の同僚であったブラックストーンのバイロン・ウエイン氏も、恒例の”The Ten Surprises of 2023”に、「中国は5.5%の成長目標へ前進、西側諸国との良好な通商関係の再構築に邁進し、実物資産と商品相場にポジティブなインプリケーションになる」と盛り込んでいる。

中国経済の回復は円高インプリケーション

現在、ドル円相場は、日銀によるさらなる緩和修正を織り込んで、期待先行で円高が進展している。しかし、2022年12月のコアCPI(食品・エネルギーを除く消費者物価)の前年比伸び率をみると、米国5.7%、EU(欧州連合)5.2%、英国6.3%(11月)に対し、日本(東京都区部)のそれはいぜん1.2%にとどまっている(図表)。

【図表】主要国のコアCPIの推移(前年比)
主要国のコアCPIの推移(前年比)
出所:各国統計

また、米国と英国ではインフレ・ピークアウトの兆しがみられる。日銀が、緩和修正を急ぐ必要性はいまのところ見受けられない。

しかし、「ゼロコロナ政策」の撤廃とともに、中国政府は経済成長へギアをシフトしたとみることができる。中国経済の回復期待から、既に、恩恵を受けるアジア・オセアニア地域の株価は上昇を始めた。中国を最大の輸出相手国するわが国の経済も早晩恩恵を被ることになろう。

2022年には中国経済が減速する中で円安が進行した。今後の中国経済の回復は、貿易収支の改善と日銀の緩和修正を通じて、円にポジティブなインプリケーションとなる。緩やかな円安修正が継続する可能性がでてきた。