• 1998年には日米協調による円買い介入
  • 2000年には日米欧によりユーロ防衛
  • 財務省は外貨準備額に関係なく無制限に介入可能
  • 介入はドル円相場の上昇を止められない

1998年には日米協調による円買い介入

梅本徹
J-MONEY論説委員
梅本 徹

9月30日に財務省が発表した統計によれば、9月22日に同省が単独で実施した円買い介入は2.8兆円と過去最大となった。歴史を振り返ると、自国通貨防衛を目的とした単独介入の効果は限定的とされている。

例えば、1998年4月9~10日に、財務省は1ドル=130円近辺で2.8兆円の円買い介入を実施したが、同年6月12日に1ドル=144円近辺で日米協調介入(日本:0.23兆円、米国:8.33億ドル)が実施されるまでドル円相場の上昇は続いた。

1998年の介入に関しては、6月の協調介入の規模が4月の単独介入の約10分の1であったにもかかわらず、非常に効果的であったことが特徴的である。

2000年には日米欧によりユーロ防衛

2000年9月22日には日米欧によるユーロ防衛のための協調介入が実施されている。この日、日本の財務省は、1435億円のユーロ買い円売り介入を自己勘定で実施した(ECB<欧州中央銀行>の統計では15.0億ユーロ)。

また、欧米当局は、合算で16.4億ユーロのユーロ買いドル売り介入を実施しており、このうち13.4億ドルは米当局が自己勘定で実施した。

ECBは、同年11月3日に対ドルで28.9億ユーロ、対円で6.8億ユーロ、6日に対ドルで10.0億ユーロ、9日に、対ドルで17.0億ユーロ、対円で8.0億ユーロのそれぞれ単独介入を実施している。ユーロドルは、9月の協調介入実施後、10月下旬に0.82(ユーロの史上最安値)で下げ止まり、その後上昇基調をたどった。

また、このときの介入金額も財務省の単独介入に比べて小さい。本年の財務省による単独介入と2000年の日米欧による協調介入がともに1985年にプラザ合意が行われた9月22日に実施されたことは興味深い。

【図表1】1998年の日米欧による協調介入

1998年の日米欧による協調介入
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【図表2】2000年の日米欧による協調介入
2000年の日米欧による協調介入
出所:Fed、ECB、財務省
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財務省は外貨準備額に関係なく無制限に介入可能

市場は、日本の外貨準備の総額やその内訳の預金額に焦点を当てた財務省の介入可能額に興味が集まっているが、筆者にはそれがあまり重要とは思われない。

そもそも、日米間では、Fed(米連邦準備制度)が日銀に無制限・無期限でドルを供給するスワップ協定が締結されており、日本が真に困難な状況に陥れば、円買い介入を無制限に行うことができる。また、アウトライト・フォーワードやオプションを用いれば、外貨準備を費やすことなくいくらでも円売り介入が可能である。

財務省は介入手法に関して、既に様々なシミュレーションを行っているとみられている。例えば、2003年には、予算書上の制約によって為券発行による円売り介入ができなくなった際、財務省は日銀とのスワップによって円を調達して円売り介入を継続するというウルトラCまで登場した。

介入はドル円相場の上昇を止められない

重要なことは、今回、単独介入だったことである。現在、欧米当局はインフレと戦っており、協調介入はあり得なかった。日銀すら金融緩和を続けている、米国の理解を得ることができただけでもラッキーであった。

財務省が、145円を防衛ライン(砂に書いた線)とするような無制限な介入を行えば、必ず欧米当局から不快感が発せられるであろう。

したがって、今回の財務省による単独介入はスムージング・オペレーションの域を出ることはないであろう。現在、146円台後半で取引されているドル円相場のアップサイドリスクは依然大きいと考えられる。