【マクロ経済】世界・アジア経済展望:インフレなき世界の終わり?

設備投資が伸びる2018年、恩恵を受ける新興アジア諸国に期待

鵜飼博史氏
JPモルガン証券
経済調査部長
チーフ・エコノミスト
鵜飼 博史

2017年は景気とともに商品市況が徐々に回復していき、年後半には物価上昇を伴った経済成長が進んだ。そうしたなかで起きている代表的な変化として、JPモルガン証券 経済調査部長 チーフ・エコノミストの鵜飼博史氏は、「企業収益の伸びと企業センチメントの改善」を挙げる。「2017年は先進国の企業で収益が改善し、投資意欲が高まっていった1年だった。2018年にかけてもその傾向は続く見通しで、先進国を中心に設備投資が伸びてくるだろう。そのため2018年は、2017年と等速の成長率を維持する年になると予想している」

経済が堅調ななかで、物価の動向にも注目が集まる。世界的に労働生産性が循環的に上がってきているが、高齢化が進展していることもあり、鵜飼氏は、「供給サイドが引き続き弱めで推移する可能性が高く、需給ギャップはプラスとなる。そのため、2018年は先進国を中心にインフレ率が徐々に上昇すると見るのが標準的だろう」とした。

これからの債券投資を考える

インフレ率の下方リスクとして鵜飼氏は、物価と連動性の高い賃金に注目する。欧米を中心に、アウトソーシングやシェアリングエコノミーなどによる新しい働き方の広がりにより、労働者の賃金交渉力が低下しつつある。また、グローバル・バリュー・チェーンの拡大で企業が労働力や拠点をより安価な国へと移すようになるなど、世界的な資源の再配分も賃金上昇、ひいては物価に影響を与えかねないという。

米国が利上げを着々と進めるなか、先進国の金融政策動向への関心も高まっている。鵜飼氏は「各国中央銀行の金融政策正常化のテンポは、世界的に弱めだったインフレ率が今後予想通り上昇していくかにかかっている。市場の慎重な見方には、将来リプライシングのリスクがある」と語る。他方で、2018年は新興アジア諸国の成長が期待できそうだ。2017年から2018年のGDP成長率の推移について、JPモルガン証券は中国が「6.8→6.5」、中国を除いた新興アジア諸国が「4.0→3.9」と予測している。

「中国は小幅減速の見込みだが、過剰設備解消や金融規制に力を入れ始めている。今後は成長とのバランスを保てるかが課題となる。一方、ASEAN(東南アジア諸国連動)やアジアNIES(韓国、台湾、香港、シンガポール)などの新興アジア諸国は先進国の設備投資の恩恵を受け、2018年もほぼ等速成長を維持すると考える」と鵜飼氏。日本は同諸国と相互補完関係にあり、アジアの生産・輸出増の恩恵も受けるほか、日本の設備投資増加の好影響がアジアにも還元する見込みだ。

【為替】アジア通貨はどのように予想すべきか?

グローバル要因に着目しつつ4つの通貨の動向で相場を予測

高島修氏
シティグループ証券
外国為替・新興国市場本部
チーフFXストラテジスト
高島 修

「新興国通貨の見通しを予想するうえで最も重要なことは、『個別国に深入りし過ぎない』ことだ」とシティグループ証券 チーフFXストラテジストの高島修氏は語る。投資対象国の分析を入念にし過ぎると、その国に対する思い入れが強くなってしまい中立的な見方で相場予測が行えなくなるからだ。

「ファンダメンタルズも政策動向も異なる新興国通貨が、個別要因に関係なく上がるときは上がり、下がる時は下がる。そうした動きが起こるということは、新興国通貨の最大のムーバーがグローバル要因だということを物語っている。個人的には、通貨変動の影響度合いはグローバル要因が7~8割、個別要因は2~3割と考えており、ドル円も含めたグローバルな金融環境の中で投資対象通貨の動きを理解することが相場予測の勘所となる」(高島氏)

予測においては、グローバル要因と個別要因の中間に位置するコモディティ相場の動向も無視できない。コモディティの輸出国か輸入国か、輸出産品は何か、それぞれのファクターが他の先進国や新興国からどのような影響を受けるかなども、投資先の通貨の動向を測るうえで重要となる。

そのうえで、高島氏はアジア通貨を予想する際に見るべき4つの新興国通貨として、①投資するなどポジションが発生している通貨②メキシコペソ③ブラジルレアル④その時々で最も売られている通貨――を挙げる。メキシコペソはFRB(米連邦準備理事会)の金融政策などグローバルに変化を引き起こす要因を敏感に織り込み、ブラジルレアルは良くも悪くも新興国通貨の「王様」として、他の新興国市場全体のトレンドをけん引する点が特徴だ。

その時々で最も売られている通貨について高島氏は、「そうした通貨の底入れは他の新興国通貨の底入れにつながることが多いので注目すべきだ。例えば、2013年のバーナンキ・ショックが起きたとき、最も売られたインドルピーが反発し始めると、その後その他の通貨も底入れしだした」と振り返る。

市場動向を大局的に見るうえでは米ドル、ユーロ、人民元の動きも見逃せない。高島氏は、長期ドル高局面が終焉したと前置きしつつ、「今後はドル下落局面に入り、投資家のリスク先行を強める方向に寄与するだろう。ユーロ圏の経常黒字拡大に伴ってユーロも底堅く推移し、外貨準備流出に肝を冷やした中国が通貨防衛の軸足を金融引き締めにシフトするなどの変化が、マクロで見てどういった変化を誘発するかを考えることが基本となる」と強調する。