金融資産残高や伸び率が上位の「希望の星」
トルコ政府がこの10年間、イスラム教の教義に基づいた「イスラム金融」を推進してきたことが今、実を結びつつある。イスラム民間開発公社(ICD)と金融情報会社リフィニティブがまとめた「2020年イスラム金融開発レポート」は、トルコをパーティシペーション・ファイナンス(参加金融=トルコにおけるイスラム金融の呼称)の「希望の星」と呼んだ。レポートで、トルコはイスラム金融資産残高で10位以内に入り、伸び率でも上位だった。
イスラム金融市場は、伝統的な牽引役であるマレーシア、インドネシア、イラン、バーレーン、アラブ首長国連邦、サウジアラビアのようなイスラム圏の国々から、欧州におけるイスラム金融市場への玄関口として近年浮上したルクセンブルグにまで広がり、イスラム法(シャリア)に準拠する投資家と非イスラム投資家の両方に新たな機会を提供している。前述のレポートによると、世界のイスラム金融資産残高は2019年時点で2.9兆ドルだった。
しかしトルコのイスラム金融資産は630億ドルと、いまだにサウジアラビアのイスラム金融市場の10%程度でしかない。トルコはイスラム金融分野の主要国になるよう目指しているが、まだ道半ばである。
トルコのイスラム金融活動の大半は6行に集中
トルコのイスラム金融活動の大半は、6行の参加銀行(イスラム銀行)に集中している。うち、アルバラカ・トルコ銀行(Albaraka Turk)、 クウェート・トルコ銀行(Kuveyt Turk)、トルコ・ファイナンス(Turkiye Finans)の 3行は、それぞれバーレーン、クウェート、サウジアラビアのイスラム銀行のトルコ現法である。残りの3行、エムラク参加銀行(Emlak Katilim)、ズィラート参加銀行(Ziraat Katilim)、ヴァキフ参加銀行(Vakif Katilim)は国営銀行で、国内金融部門全体におけるイスラム銀行比率を6.3%から2025年までには15%に引き上げようとするトルコ政府の戦略の一環で、2015年から2019年にかけて設立された。
トルコのイスラム金融は、政府が積極的にかかわり奨励策も打ち出されているため、「スタートは出遅れたが、急成長が見込まれる」(ムーディーズ)。トルコ参加銀行協会(TKBB)は、今後の発展に向けて取り組むべき戦略分野として、広報強化、エコシステム構築、商品の多様化、質・ガバナンス強化、デジタル化、スタッフ能力向上を挙げている。
イスラム法に適合するファンドは税制面の特典の対象
トルコでは、伝統的なイスラム金融とは無縁だった通常型の金融機関は、銀行から資産運用会社、保険会社に至るすべてがイスラム金融市場にますます引き寄せられている。
ゾルル・エナジー(Zorlu Energy)は2020年、トルコ産業開発銀行(TSKB)をアレンジャーとして5000万トルコ・リラ(600万ドル)のサステナブル・スクーク(イスラム債)を発行した。これは、2012年のトルコ政府による初のソブリンスクーク(イスラム国債)発行、2014~15年のトルコ・ファイナンスによるマレーシアでのスクーク発行、2018年のハルク・ヤティリム(Halk Yatirim)による初のイスラムREIT(不動産投資信託)債発行に次ぐマイルストーンとなる出来事であり、ザ・バンカー誌の2020年「欧州におけるイスラム金融ディール・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。
トルコの資産運用会社は、イスラム法に適合するREIF(不動産投資ファンド)とベンチャーキャピタル・ファンドを設立することができる。これらは税制面の特典の対象で、特に外国投資家が取得した際はかなり優遇される。国営トルコ開発投資銀行(TKYB)の子会社が運用する「トルコ開発ファンド」(Turkey Development Fund)は、こうした税優遇措置を活用する計画だ。一方、アルバラカ・トルコ銀行と商業銀行イシュバンク(Turkiye Is Bankasi)の資産管理会社はイスラムファンド市場に数年前から参入している。
ICD-リフィニティブによれば、イスラム保険であるタカフル部門において、トルコは元受収入保険料合計が10億ドル以上と世界で最も成長が著しい市場である。2017年にはイスラム金融の他の部門同様の優遇制度が導入され、タカフル市場拡大を支えている。また、トルコ政府系ファンド「トルコ・ウェルス・ファンド」が3つの保険会社を統合させ創設した保険会社トルコ・シゴルタ(Turkiye Sigorta)がこの分野への参入を最近決定したことも、市場の成長を後押ししている。
外資を呼び込むには透明性と国際基準の確保が必要
しかしながら、国内情勢がトルコにおけるイスラム金融市場発展の主な障害になる可能性がある。エルドアン大統領が2020年、イスラム金融こそが新型コロナウイルス危機から脱する鍵になると持ち上げた際、メディアはこうした野望に疑問符をつけた。多くのトルコ人はまだイスラム金融を利用しようという感じではないし、外資を呼び込むには透明性と国際基準の確保が必要になると指摘した。
イスラム金融のトルコ経済への実際の影響が見られるようになるのは数年先になろう。一方でエルドアン政権は、グローバルレベルでイスラム金融のプレゼンスを高めるよう注力している。
トルコは2019年11月にカタール金融センター(QFC)と双務契約を結び、QFCに事務所を開所した。エルドアン政権には、カタールを通してトルコのイスラム金融商品を欧州とアジアに売り出すとともに、イスタンブール金融センター(IFC)プロジェクトへの関心増加につなげる狙いがある。両国はともに二国間関係の強化を図っており、2020年11月には、ショッピングセンターの売却から共同貿易委員会の設置まで多岐にわたる新10カ年合意を結んだ。
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