ブルームバーグ 想定されるMiFID IIの邦銀への影響
マーク・クロクソン(Mark Croxon)
ブルームバーグにてヨーロッパ、中東、アフリカ地域のコアプロダクト戦略のトップとしてめまぐるしく変化するテクノロジー、規制、そして市場勢力図が金融市場のストラクチャー、そしてブルームバーグの製品投入にどう影響するのかを分析している。以前はノムラ・インターナショナルでデリバティブ市場・クリアリングのグローバルな戦略立案・実行を手掛けていたほか、HSBC,バークレイズ、JPモルガンなどでも同様の業務に携わってきた。
世界最大規模となる金融規制、MiFID IIの主な内容と注視すべき今後の展開
2008年の世界金融危機以降、国際的に金融規制は強化傾向となっているなか、欧州発でこれまでにない規模の金融規制であるMiFID II(第二次金融商品市場指令)を施行する準備が進んでいる。
MiFID IIとは2007年に施行された欧州域内の証券市場と投資サービスの運営を規制するMiFID(金融商品市場指令)の大幅な改正後の指令のことで、規模、要件、義務において、世界的に最も広範囲にわたる規制となっている。あらゆるアセットクラスにおいて金融市場のあり方を大きく変えると言われており、この新規制を受け、欧州金融市場と本邦金融機関がかかわるうえでどのような影響がおよぶのか動向が注目されている。
MiFID IIおよびそれに付随する規制(MiFIR)の主な目的は先に述べたMiFIDの枠組みにおける欠点を是正し市場改革を目指すと同時に、2009年に行われたG20(主要20カ国・地域)の合意に対し、欧州型の危機後の対応枠組みを構築することを目的にしている。
主な概要は①金融取引前後の透明性を高めるために、ほぼリアルタイムに近い形での取引可能なプライスの公表、②Trading venue(取引場所)を通じての該当証券、そしてデリバティブなど対象商品の取引義務化、③現地の規制当局への取引終了後の報告、④取引記録を復元可能な状態で5-7年間に渡ってアーカイブ、⑤最良執行の質の厳格化、⑥フロントオフィスにおいて違反の可能性がある行為の監視強化、⑦リサーチの提供を取引執行の過程から分離すること等となっている。
それぞれ、MiFIDに基づき設定された内容よりさらに広域にわたり定義・適用をしている形になっており、例えば、②については組織的な取引プラットフォームのような多角取引システム(MTF)に加え、インターディラーブローカーのように組織化された売り手と買い手をマッチングさせる取引ファシリティー(OTF)もtrading venueとして新たに加えられた。最も流動性が高く、一般的な金利スワップ、およびクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は規制された取引ファシリティーのみでの売買が義務付けられる。⑤の最良執行についても、より投資家保護の観点からそれぞれの顧客にとって可能な限り最良の結果をもたらすために必要で、充分な手順を踏むことを要求している。⑦のリサーチ費用のアンバンドリングはMiFID IIの投資家保護と取引勧誘対策の意味において重要と言われるが、これまで見られたような取引執行とリサーチに対する対価が連動されるようなことは不可となり、リサーチそのものに対する対価を明文化することが求められる。
上記のことから、影響を受ける市場参加者は多岐にわたり、大手証券会社、商業銀行、投資銀行、ポートフォリオマネージャー、ブローカー、インターバンクブローカーなどが含まれる。
実施の時期については、すでに予定されていた2017年1月3日の実施ではなく2018年1月3日の実施に延期すると欧州委員会が2016年6月末に確定している。今後は、指令の国内法令化の期限となる2017年の7月が重要なマイルストーンとなってくるが、英国のEU(欧州連合)離脱問題を受けて、EUの規則として遵守していることは英国でも採用する、といった趣旨のブランケット付きの採択の仕方になる可能性もある。
本邦金融機関への影響
2016年7月に来日した際にMiFID IIについてのセミナーをブルームバーグ東京オフィスにて開催した。欧州の顧客との取引や欧州市場においてトレーディングを行っている金融機関に加え、金融市場の規制動向を把握したい市場関係者の皆様など100人を超える参加者が会場を埋め尽くし、関心の高さを感じた。
このセミナーのなかで、「欧州域内の金融機関が、欧州域内で上場している証券を欧州の機関投資家と取引した場合についての影響の程度などは徐々に把握されつつあるが、例えば、欧州域外の金融機関が欧州域内で上場している証券を欧州の機関投資家と取引した場合、新規制による影響はどのようなものか」という興味深い質問を頂いた。具体的にいうと、例えば、本邦証券会社がEU域内で子会社を通じてビジネスを展開している場合において、祝日などの諸事情で時に子会社を通さず、直接日本にある本社(もしくは米国子会社)との取引が発生する場合がある。また、その取引する株式が日本だけでなく欧州取引所にも重複上場しており、実質的に新規制の対象となる場合、どのような影響が考えられるかということである(実際、多くの株式が欧州取引所と本邦取引所に重複して上場している)。
この点については、規制のどの部分が適用になるのか、さらなるガイダンスが必要であるが、当局とのこれまでの対話を踏まえると、以下のようなことが想定される。
日本や米国にある本社が欧州域内には支店しか持たない場合、当該支店がまず投資サービスを欧州域内で提供することが認可されている必要があるが、加えてMiFID IIの下記の内容が適用される可能性がある。①欧州が定めるtrading venueでの取引義務(もしくはEU目論見書指令で同等とされる日本の取引場所)、②欧州投資会社による、またはMiFIDにおいて投資会社に認定されていない場合は欧州取引場所を通じての欧州金融監督当局への取引報告の義務、③最良執行の義務。
一方、これらの重複上場株に関しては主な流動性が欧州域外である場合、取引前の透明性に関する項目は適用されない可能性も考えられる。いずれにせよ、多くの部分に関してさらなるガイダンスが必要であり、今後の進展に注目していきたい。
本邦金融機関の皆様においては、早めの規制対応と情報収集は欠かせない状況であり、ブルームバーグは本分野において将来を先取りするリーダー的な存在として、バイサイド、そしてセルサイドの皆様の法令順守に有効なソリューションを提供させていただきたいと考えている。