明暗分かれる日米経済情勢

角田 匠(信金中央金庫)
信金中央金庫
地域・中小企業研究所
上席主任研究員
角田 匠

2021年1~3月期の実質GDP(国内総生産)は前期比年率4.5%減と3四半期ぶりのマイナス成長となる見込みである。世界経済の回復を背景に輸出が底堅さを維持したものの、緊急事態宣言の再発令を受けて個人消費が再び下振れしたためである。2020年春の緊急事態宣言に比べて今回は活動制限の範囲が限られたことから、同年4~6月期(前期比年率29.3%減)のような大幅な落ち込みは回避できたが、緊急事態宣言の発令による経済活動への悪影響を改めて確認させられる結果となろう。

一方、米国の1~3月期の実質成長率は前期比年率6.4%と前期の4.3%から加速し、3四半期連続でプラス成長を達成した。追加経済対策の柱である現金給付が個人消費を押し上げたことに加え、新型コロナウイルスの新規感染者数の減少を受けて経済活動が活発化してきたことが背景にある。雇用情勢も改善しており、続く4~6月期も高成長が続く見通しである。

ワクチン接種の進展が米景気回復に寄与

日本や欧州と比較して、米国経済の回復が先行している最大の要因はワクチン接種の進展である。世界全体でみた100人当たりの延べ接種回数は14.6回と計算上全員にワクチンが行きわたる200回の接種を大幅に下回っているものの、国によって進捗状況は大きく異なる。イスラエルが世界最速のペースで接種が進んでいるが、英国と米国でも急速に進展している。

ワクチン接種が進むにつれて、新規の感染者数は減少している。イスラエルでは延べ接種回数が30回を超えたあたりから新規の感染者数が減少に転じているが、米国も3月中に30回を超え、そのタイミングで新規感染者数が大きく減少し始めた。4月末には71回まで進んでおり、飲食店や娯楽施設の制限緩和を背景に米国経済は活気を取り戻し始めている。ドイツやフランスも4月末には延べ接種回数が30回を超え、新規感染者数の増加を抑制できる水準までワクチン接種が進んでいる。

【図表】主要国の国民100人当たりワクチン延べ接種回数

図表
(注)2回接種が条件であるため国民全員に行きわたるには100人当たり200回の接種が必要となる
(出所)オックスフォード大学資料より作成

経済活動の正常化にはなお時間を要する

米欧におけるワクチン接種の進展とは対照的に日本のワクチン接種は大きく出遅れており、これが経済正常化の遅れの原因となっている。日本のワクチンの進捗状況は、4月末時点で100人当たり2.8回と遅れをとっている。5月の連休明けからは高齢者向けのワクチン配送が本格化しているが、順調に接種が進んだとしても100人当たりの接種回数が30回に到達するのは7月末頃と予想される。

3度目の緊急事態宣言が延長されたことで、新規感染者数は5月末にかけて減少すると予想されるが、ワクチン接種が進んでいないため、制限が緩和されれば再び感染が拡大する可能性が高い。当面も新型コロナの感染一服と再拡大が繰り返されるとみられ、サービス関連を中心に個人消費の回復は遅れよう。ワクチン接種が進み、経済が正常化するのは早くとも年末頃と予想している。