新型コロナウイルス感染拡大により世界経済は景気後退に入った。ナティクシス・インベストメント・マネージャーズ傘下の不動産運用会社AEW 北米リサーチ担当 ディレクターのラス・デブリン氏に、北米不動産市場の見通しについて聞いた。
(取材日:2020年7月21日)

ラス・デブリン氏
AEW
北米リサーチ担当
ディレクター
ラス・デブリン

新型コロナウイルス感染拡大の北米不動産市場への影響は。

デブリン これまでの景気後退と比較してより早くより深刻だったが、セクターによって影響は大きく異なる。産業施設、集合住宅、倉庫などのセクターでは下落が緩やかな一方で、小売やホテル・リゾートセクターはより深刻で、オフィスもある程度の悪影響を受けている状況だ。

いくつかのサブセクターには、パンデミックが終えんを迎えたとなれば需要を支える強力なドライバーがある。例えば、学生用住宅は大学が通常の活動を再開するにつれて回復するだろう。また、高齢者用住宅の居住者数は、州や地方自治体の規制により入居が制限され、短期的に大きな影響を受けている。しかし業界の調査によれば、規制緩和に伴う入居希望者の出現やベビーブーマー高齢化といった人口動態上の要因が長期的な需要の追い風となっており、すでに空室への需要増加の兆しが確認されている。

企業活動は再開されつつあるが、より深刻な影響を受けたセクターは、以前の需要のピークに達するまでに2~4年かかるだろう。これらの混乱はシクリカルな後退の範囲内であると我々は判断しているが、不動産市場がピークに向かうタイミングを特定することは難しいと考えている。

特に需要が増加しているセクターは。

デブリン 一つはデータセンターだ。米通信大手ベライゾン・コミュニケーションのネットワークサービスは、2020年3~5月間のコラボレーション・ツールの利用がコロナ流行前の通常日の1200%に達している。このほか、ゲームはプラス257%、ストリーミングはプラス47%、VPN(仮想私設網)はプラス83%と利用者が急増している。

コロナ流行以前から、電子商取引やリモートワーク、ストリーミングの利用は増加しており、現代社会のデジタル化はデータセンターへの需要を下支えして急速に成長してきた。人々がオフィスに戻るにつれて、こうした超過需要の一部は一時的に落ち込むかもしれないが、コロナ流行によってネットワークへのアクセスが日常生活にさらに溶け込むようになり、データ利用量の増加という構造的な需要のトレンドは明らかに高いレベルにシフトしていくと言える。

生活や住まい、働き方などの変化は不動産市場にどんな影響を与えるか。

デブリン 住宅セクターは構造的な変化が予想され、中でも戸建て賃貸は堅調に推移している。密集していない住宅環境への移住を検討していたミレニアル世代は、現在の環境では郊外でのライフスタイルを検討する傾向がより強いように見える。

米シティバンクの成人5000人を対象とした調査によれば、今後3年以内に郊外への移住を検討している人は、コロナ流行前は7%であったのに対して、足元は15%に増加している。ミレニアル世代に限ると、流行前は10%に対して直近は19%だ。これらの調査結果は富裕層と子育て層の間でより高い値を示していた。このような変化はミレニアル世代が歳を重ねていくにつれて現実化すると思われていたが、パンデミックによって流れは加速し、多くの市場で戸建て賃料が実際に上昇している。

小売セクターは電子商取引へシフトする動きがコロナによってさらに加速している。様々な流通ルートを連携させた「オムニチャネル」を新たに構築した小売や、アマゾンのような従来の大型通販サイトの拡大により、電子商取引の市場シェアはほぼ確実に拡大すると予想される。2019年は20%以下だった米国の電子商取引のシェアは、2020年は30%になる見込みだ。電子商取引が製造業全体の需要をある程度下支えする中、今後の不動産用途は従来の小売から産業用途へと移行していくだろう。

米小売売上高に占めるオンラインショッピングの比率の推移(黄色は予想)