従来、営業キャッシュフローに注目することが多かった企業活動のライフサイクル。投資・財務キャッシュフローも分析に盛り込むことで、より細かな企業活動の特徴が見えてくる。目を見張るスピードで巨大ビジネスを生み出す企業を数多く輩出する米国と日本企業のライフサイクルを比較することで、企業の成長喚起のカギを探る。

  • 投資や財務CFを盛り込むことで「再帰性」も確認できる
  • 米国の資本市場は、足元の利益ではなく将来CFを重視
  • 日本の金融機関は赤字企業のバリュエーションの見直しを

正味営業資産利益率は日米とも「成熟」期で最高

野間 幹
一橋大学大学院
経営管理研究科
教授 野間 幹晴先生
一橋大学大学院経営管理研究科 教授。一橋大学商学部卒業、同大学大学院博士後期課程修了(博士(商学)取得)。2019年より現職。2010 年から2011 年まで、コロンビア大学ビジネススクール・フルブライド研究員。現在、バンダイナムコホールディングス社外取締役、ナイス社外監査役も務める

企業には、ライフサイクルがある。成長期、成熟期、衰退期など、その定義は様々だ。今回は、キャッシュフロー(CF)を基にライフサイクルを定義したDickinson(2011)のアプローチに依拠して、日米企業を分析する。

図表1には、営業、投資、財務それぞれのCFがプラスかマイナスかによって8つのステージを作り、それぞれがライフサイクルのどの段階にあるのかを定義した。例えば、ライフサイクル初期の「参入」期では、企業は証券発行、融資などで調達した資金で投資を行うため、財務CFがプラス、投資CFはマイナスだが、本業での利益がまだ少ないので営業CFはマイナスになる。

通常、企業のライフサイクルは営業CFのみを用いて定義することが多い。しかし、投資や財務CFも盛り込むことで、営業CFという企業活動のアウトプットである「成果」を実現するために、企業がどのような投資や資金調達を行ったのかを観点に入れることができる。また、ライフサイクルというと、生物の誕生から死までのように一方通行と捉えられがちだ。だが現実には、一度落ち込んでも新技術で活況を取り戻している企業も多い。こうした企業の「再帰性」も、CFを用いた定義で含めることができる。

図表1 キャッシュフローに基づくライフサイクルの各ステージ

CFによるライフサイクルの定義を用いて、2000年から2019年の期間で日米の上場企業を比較した(サンプルは2019年時点における両国の上場企業)。まず注目したいのが、ライフサイクルの各段階にある企業の割合である。差が明らかになったのは、上場企業が投資のための資金調達を減らす「成熟」期にある企業の割合で、日本では全体の58%を占めるのに対し、米国は40%にとどまった。さらに、上場企業が積極的に資金調達を行い投資に資金を回す「参入」期あるいは「成長」期にある企業の割合では、日本の27%に対して、米国は43%だった。

時がたつにつれ、上場企業がどのくらい各ステージを移動するのかをまとめたのが図表2だ。ステージ間の往来の特徴を見ると、日本企業はt期(最初の期)にどのステージにあったとしても、すぐに「成熟」期に移行する傾向が強く、特に、「成長」期の企業で42.0%が翌年以降、「成熟」期に移っている。一方米国では、「成熟」期の企業は62.9%が現状を維持するが、24.7%は「成長」期に戻る傾向が見られる。さらに、「成長」期の米国企業では現状維持の姿勢が強い。

興味深いことに、両国ともにRNOA(正味営業資産利益率)は「成熟」期の企業が一番高かった。つまり、RNOAの観点では、日米共通で「成熟」期を維持することが最も合理的なはずである。それでも、日本と比べ米国では「成熟」期の企業の割合が少なく、「参入」期や「成長」期に回帰するケースが多い。米国では市場競争が激しく、企業は挑戦するスタンスや投資を怠っていると競争優位が失われ、将来的な利益率が落ち込むと見込んでいるのだろう。

図表2 3期先までのステージ間の推移