ワールド ゴールド カウンシル(WGC)は2026年7月17日、東京會舘で「分岐点に立つ世界、注目される金―戦略的資産としての金2026―」と題したセミナーを開催した。本セミナーでは、歴史的な上昇を経て調整局面を迎えた金価格の見通しをはじめ、投資需要や中央銀行による金購入の動向、外貨準備における金の位置付けの変化などを解説。地政学リスクやインフレ、金融政策を巡る不確実性が高まるなか、リターンの獲得やリスク分散、資産価値の保全において金が果たす役割について、多角的な分析が示された。

ワールド ゴールド カウンシル 東京ゴールドセミナー

金の需給動向と戦略的資産としての金

戸田 淳氏
戸田 淳
ワールド ゴールド カウンシル
日本代表 兼 機関投資家リレーション責任者

多様な需要が金価格を下支え

金価格について2022年以降の動向を振り返ると、大きく3つの局面に分けられる。1つ目は2022年~2023年で、FRB(米連邦準備理事会)がゼロ金利政策を解除し、急激な利上げを進めるなか、金価格はほぼ横ばいで推移した。

2つ目は2024年~2026年初めで、FRBによる金融緩和への期待が高まるとともに、地政学リスクへの懸念や第2次米トランプ政権の政策に対する不透明感が拡大した時期に当たる。金価格は1トロイオンス当たり2,000ドル台前半から、史上最高値の5,500ドル台まで高騰した。そして3つ目が2026年3月~今日時点(2026年7月17日)で、FRBによる金融緩和期待の後退や投資家のポジション調整を背景に、金価格は最高値から25%下落した。

金利環境の変化が金価格に大きな影響を及ぼすことがよく分かる。ただし、金価格が横ばいで推移した期間について、年平均金価格の前年比を確認すると、例えば2022年の上昇率は0.1%だった。同年にS&P500種株価指数は20%近く下落し、米国10年国債の価格も10%超下がっている。相対的に見れば、金利上昇局面においても金は運用対象として十分に魅力的だったわけだ。

我々は金の需給動向を調査し、四半期ごとに発表している。2026年第1四半期の調査結果によると、需要総量は年間5,000トン規模のペースで安定的に推移しているが、需要の中身には変化が見られる。宝飾品需要が数量ベースで減少した一方、地金・金貨や金ETF(上場投資信託)といった投資需要は数量ベース、金額ベースともに大きく増加した。

過去数年の推移を見ても、宝飾品・テクノロジー需要から投資需要への明確なシフトが見てとれる。特にロシアによるウクライナ侵攻が始まった2022年以降は、その傾向が顕著である。宝飾品・テクノロジー需要は景気拡大期に増加しやすいのに対して、投資需要は世界経済の先行き不透明感が広がるような時期に増加しやすい。これらの需要とは別に、中央銀行による外貨準備としての金購入も高水準を維持している。こうした需要の多面性が、金価格を下支えしていると考えられる。

供給面については近年、リサイクルが増加しており、現状では金の年間供給の約7割を新規産出、約3割をリサイクルが占めている。金価格が上昇すると利益を確定するために手持ちの金を売る人が増え、結果として金のリサイクルが増える。リサイクルには金需給のバランスを保つ効果もあると言える。

ストレス時こそリスク分散効果を発揮

投資家が重視する「リターン」「リスク分散」「流動性」という3つの観点から、金の役割を見てみたい。

金のボラティリティ(価格変動率)は短期的に高まることがあるものの、過去5年間および20年間の年率リターン(円建て)は国内外の株式を上回った。この実績から、金が中長期では伝統的なアセットクラスを上回るリターン源泉となり得ることがうかがえる。また、1971年以降で見ると、日本の消費者物価指数の上昇率が前年比2%を超えるような高インフレ期に、金は年平均15%超の実質リターンを上げた。金は効果的なインフレヘッジ資産でもあるわけだ。

金のリスク分散効果については、市場にストレスがかかったときにこそ真価を発揮すると言える。2000年1月~2026年6月の各四半期において、米国同時多発テロやリーマン・ショックの発生時など、日経平均株価の下落率が特に大きかった14四半期を見ると、いずれの局面でも金価格のパフォーマンスは日経平均を上回っていた。このうち10四半期では日経平均が下落する一方、金価格は上昇を記録している。

さらに2005年1月~2026年6月の円建て週次データで金価格とS&P500種株価指数を比較すると、S&P500が2標準偏差以上の大きな下落を記録した際にも金価格は上昇していた。機関投資家が四半期や年度単位の運用成績を評価するにあたって、こうした金のリスク分散機能がいかに価値あるものかを実感いただけると思う。

2025年の平均日次取引金額(米ドルベース)を見ると、米国株や米国債などの主要資産と比べても、金は極めて高い流動性を有している。なお、ここで言う金の取引金額には店頭市場取引や先物取引、金ETFの取引も含まれる。

日本の企業年金の平均的なポートフォリオのうち5%を金に配分した場合、リターンやリスクがどのように変わるか、企業年金連合会が開示している資産配分を基にシミュレーションを行った。その結果、過去5年、15年、20年のいずれの期間においても年率リターンとリスク調整後リターンは上昇し、年率ボラティリティと最大下落率は低下した。

シミュレーションには、2026年2月までの過去20年間のデータを使用した。デフレ・低インフレ環境からインフレ局面に移行するなかで、金の組入れは運用リターンの向上とリスク低減に寄与した。今後のインフレ局面において、日本の機関投資家がポートフォリオに金を組み入れる意義はいっそう高まっていくと考えられる。

中央銀行の金準備動向 ̶2026年中央銀行サーベイの結果を踏まえて̶

シャオカイ ファン氏
シャオカイ ファン
ワールド ゴールド カウンシル
アジア太平洋地域(中国除く)責任者および中央銀行担当グローバル責任者

準備比率は金が増加、ドルは減少へ

ワールド ゴールド カウンシルは、世界の中央銀行を対象とした年次調査を実施している。調査データの変遷をたどることで、中央銀行が外貨準備のなかで金をどのように位置付けているのか、その変化や最新動向を知ることができる。

直近では通算9回目の調査を2026年2月5日~5月19日の期間で実施した。回答した中央銀行は過去最多の76行に上り、先進国が24%(18行)、新興国が76%(58行)を占めている。地域別ではアジアが22%と、2025年調査の15%から増加した点が目立つ。

今回の調査では、最初に【準備資産運用の意思決定において、どのようなテーマが重要ですか?】と尋ねた。「金利水準」「地政学的な不安定性」「インフレ懸念」などの選択率が高く、なかでも「地政学的な不安定性」は2025年調査の3位から2位に順位を上げた。調査期間中の2026年2月末に米国・イスラエルとイランの戦争が始まったこともあり、各中央銀行とも地政学リスクを強く意識していることが分かる。

ここからは金準備に関する具体的な質問と、その回答結果について見ていきたい。【5年後に世界の総準備資産に占める金とドルの比率はどうなると思いますか?】という質問では、金について「少し増加」が78%、「大きく増加」が5%だった。2022年調査では「少し増加」が46%、「大きく増加」は0%だったので、金準備の比率上昇を見込む中央銀行が増えていることが分かる。

一方で、ドルについては「少し減少」が62%、「大きく減少」が12%だった。「大きく減少」は2025年調査の28%から低下。これは、中東情勢の混乱後に安全資産とされる金が期待ほどの値動きを見せなかったのに対して、ドルが相対的に底堅く推移したことが一因ではないかとみている。とはいえ、今後は金が準備資産として役割を拡大し、反対にドルの役割は縮小するとの見方に変わりはない。

【現在、準備資産の一部として金を保有していますか?】という質問では、93%が「保有している」と回答した。2023年~2025年の調査においては「保有している」とする回答は80%台前半で推移しており、今回は回答率が目立って上昇している。背景として、過去1年間にマレーシアやチリ、グアテマラ、エルサルバドル、ジョージアなど、従来は金準備を保有していなかった国の中央銀行が新たに金を購入し始めたことが挙げられる。

【過去5年間に、金の購入・売却、またはその他何らかの金運用手法(預金、スワップ、オプション、フォワード、ETFなど)を利用しましたか?】という質問では、75%が「はい」と回答した。新興国の中央銀行は86%が「はい」と回答しており、過去5年間の金準備に関わる活動は新興国が中心だったことがうかがえる。公表ベースでは特にポーランドやウズベキスタンなどが積極的に金の購入を進めている。

中銀における金の位置づけが変化

【金を保有する判断において、以下の要因はどの程度重要ですか?】という質問では、事前に18の選択肢を用意し、「非常に重要」と「ある程度重要」を合わせた回答率の高い順に並べた。最も回答率が高かったのは「危機時における金のパフォーマンス」で、回答率は90%に達している。

前述の通り、中東情勢の混乱に際して、金価格の上昇は限定的だった。それでも、中央銀行は危機時において相対的に良好なパフォーマンスを発揮する金のリスクヘッジ機能を評価し続けていることが分かる。

注目したいのは、「現在の金保有は歴史的経緯によるもの」という項目が7位となったことだ。この項目は1回目~6回目の調査で1位だったが、7回目以降は回答率が下がってきた。これは中央銀行の金準備に対する考え方が、過去数年で歴史的経緯からリスク管理や分散投資といった目的へ移りつつあることを物語っている。

中央銀行はもはや、金を歴史的なレガシー資産とはとらえていない。外貨準備のポートフォリオ管理において他の資産では代替しにくい、いわば21世紀のリスク低減に不可欠な重要資産と位置付けているのである。

【現在、金準備をどこに保管していますか?】という質問では、従来と同様に「イングランド銀行(英国中銀)」および「国内保管」の回答率が高くなっている。一方、【過去12カ月間で、金準備の保管体制はどのように変化しましたか?】という質問では、「海外保管先を分散させた」および「国内保管を増やした」の回答率が2025年調査からそれぞれ数パーセントずつ上昇した。

各中央銀行は地政学リスクを意識し、金の保管先を国内外に分散させる動きを強めているようだ。海外保管先としてシンガポールや香港なども金の保管拠点を整備する動きが見られ、今後も保管体制のさらなる分散化が進むと考えられる。

金市場の年央見通し(2026年ミッドイヤー ゴールド アウトルック)

テイラー バーネット氏
テイラー バーネット
ワールド ゴールド カウンシル
アメリカ調査責任者

金価格の平均回帰は必然だった

2025年の金価格は、年間上昇率として過去2番目の大きさを記録した。2026年1月までの2年半で、金価格は史上最高値を105回も更新している。足元では若干の価格調整が見られるが、過去数年間の上昇幅と比較すれば下落幅は限定的であり、健全な価格調整と言えるだろう。市場では金価格の先行きに慎重な見方もあるが、中長期的な需給や投資環境を踏まえて判断する必要がある。

2026年上半期の金市場では、2つの動きが注目される。1つ目は、「貴金属売り」「イラン戦争」「FRB(米連邦準備理事会)のタカ派転換」が、金価格の下落要因となったこと。1月末に次期FRB議長としてウォーシュ氏が候補に挙がると、2月にかけて貴金属売りが加速した。続いて2月末には米国・イスラエルによる対イラン攻撃が始まり、3月にはFRBが金融政策を緩和から引き締めへ転換する姿勢が明確となった。

しかし金価格は1月のピーク時に、すでにテクニカル指標の200日移動平均線を6標準偏差ほど上回っていた。すなわち「買われ過ぎ」が示されていたわけで、一定程度の価格調整が起きても不自然ではなかった。

2つ目のポイントは、金市場におけるアジアの投資家の存在感が高まってきたことだ。アジアの投資家は、主にETF(上場投資信託)の購入を通じて金の保有を積極的に増やしている。その傾向は2025年10月以降に顕著となり、2026年上半期にはアジアの金ETF需要がトンベースで過去2番目に高い水準となった。

米国の金ETFは資金の流出入が激しく、例えば2026年初来、金の大きな下落局面は主に米国取引時間内に発生している。アジアの金ETFにはそうした傾向が見られず、短期的な価格変動では流出しにくい資金が多いと見られる。いわばアジアの投資家が金価格を下支えする一因となるとともに、金のプライス・ディスカバリー(適正価格の形成)にも一役買っているのである。

2026年初は投機的な売買が活発に

地政学リスクが高まっているにもかかわらず、金はなぜリスクヘッジの機能を果たさないのかとよく聞かれる。今回のオイルショックは、影響が限定的だった過去のケースとは性質が異なる。原油の生産・輸送網が世界経済に広く組み込まれているため、いったん原油の生産・流通が滞ると、その影響が一気に多方面へ広がってしまう。リスク回避による米ドル買いに加え、原油高を通じたインフレ懸念も金利上昇観測も強まる。そこに短期的なモメンタム取引も重なって、金価格の下押し圧力となった。

2026年の年初には投機的な売買が活発化し、特に3月~4月は金のボラティリティが大幅に高まった。しかし、最近ではトランプ米大統領がイランへの追加攻撃を示唆する投稿を行った際にも、金の下落率は1%程度にとどまっている。これは戦略的な投資家が金市場に入ってきている証と言えよう。

当社では、金価格の変動要因を「戦術的要因」と「戦略的要因」に分けている。「戦術的要因」とは、実質金利などに左右される金保有の機会コストや価格モメンタムなどを指す。これらが短期的に資金流入・流出を左右し、投機的な値動きを増幅させることがある。一方の戦略的要因とは、通貨供給量の拡大に伴う通貨価値の希薄化懸念(インフレ懸念)や世界経済のリスク・不確実性などを指す。長期的にはこれらのヘッジや資産価値の保全を目的に、金が買われるのである。

今後の金価格の見通しとして、3つのシナリオを紹介する。1つ目は「基本シナリオ」で、FRBによる利上げが限定的な範囲にとどまり、地政学リスクの継続や世界経済の緩やかな成長といった状況に変化がない場合、金価格は現状水準(1トロイオンス当たり4,100ドル前後)から±5%のレンジで推移すると考えられる。2つ目は「上振れシナリオ」で、地政学リスクの拡大や景気減速を背景に利下げが進んだ場合、金価格は現状の水準から5~20%の上昇余地があると考えられる。

3つ目は「下振れシナリオ」で、景気加速や金利上昇、ドル高が進んだ場合、金価格は現状から5~15%の下落余地があると考えられる。ただし、戦略的な金投資が下支えとなってダウンサイドは限定的となる可能性が高い。例えば1トロイオンス当たり3,800ドル~4,100ドルのレンジでは、機関投資家や中央銀行による買い需要が強まる可能性がある。

金のリターンは、投資需要および中央銀行の買い需要と密接に連動している。2000年第1四半期~2025年第4四半期のデータに基づき、地金・金貨、金ETF、中央銀行による金購入の合計が、四半期の金需要全体に占める割合と、各四半期における金のリターンとの関係を分析した。その結果、投資需要と中央銀行の買い需要を合計した割合が30%を超えた四半期では、金のリターンはプラスとなるケースが大半を占めた。投資需要が高水準を維持し、中央銀行の金購入も続けば、金価格は今後も堅調に推移すると見ていいだろう。

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